『アタシ』への道   by(宰相 連改め)みなひ




ACT6

 天角に入ったオレ達は、砦内をくまなく探った。斎とオレの同調性は高く、斎はオレの遮蔽結界によく馴染んでいた。
 いいかんじだねぇ。あっちの相性も抜群だといいけど。
 不真面目なことを考えながら、外壁を行く。前に斎の背中が見えた。自分で先に行くと言ったのだ。
 うん、よく締まってる。細過ぎず太過ぎずってところで、すらりと足が長いのもいいねぇ。
 腰から足へのラインを堪能する。飛沫は不謹慎だと目くじら立てそうだけど、人生やっぱり、ご褒美は必要よね。
『どうされたんですか?』
 遠話で気がついた。斎が振り向いている。不思議そうな顔。 
『何でもない。ちょーっと、任務後のコトを考えてただけ』  
 にやりと笑って返した。途端に、斎が顔を赤く染める。小声でなにやら言った後、前を向いてしまった。
 あらら、ちょっと怒っちゃったかな。
 再び向けられた背中に苦笑した。ぺろりと舌を出しながら、相棒の後に続いた。 
 新兵器って言ってたけど、どこにあるのかね。
 怪しい箇所を殆どを調べ終え、オレは小さく息をついた。腕を組んで考える。天角は砦というよりは、研究所といったほうがいい造りだ。現に巡ってきた場所には、様々な武器や生物化学兵器、それに、符や印などが研究されていた。が、しかし。
 今まで確認してきたそれらは、どれもまだ試行段階で、実用には程遠いものだった。
 でもさ、あんなのわざわざ新兵器とは言わないよな。ということは、この砦のどこかに、本物があるってことか。
『水木さん』
 思考を中断された。斎が心配そうに覗きこんでいる。
『これだけ探してないってことは、後は地下ぐらいかねー』
『そうですね』
 固い表情で、頷く。
『新兵器はなかったってことにして、ここを思い切り破壊して逃げるのもいいけど、なーんか面白くないよね?』
『目的のものを破壊できなかった場合、後々問題だと思います』
『そうだな』
 斎が言うことは正しい。一端破壊が未遂に終われば、次にそれを滅する時に、今以上の力を必要とすることになる。
『行きましょう。そろそろ気が動き始めています。異変を感じ始めた者がいるかもしれません』
『賢明。これからは二手に分かれていくから。斎は北側、オレは南。何かあったら遠話で連絡。いい?』
『承知しました』 
『じゃ、行くよ』
 言葉と共に、オレ達は分かれた。それぞれの方向へ。地下への侵入口を探し出し、その奥へと降りていった。


 
 こーんなことだとわかってたけど、イヤなもんだねぇ。
 目の前の光景に顔を顰めながら、オレは思った。湿った空気。むせ返るような臭い。砦の地下はいくつかの部屋に分かれており、十数人かの者が囚われていた。
 いろんな国の奴が混じってるみたいだけど、捕虜って所かね。
 気配を殺しながら見渡す。遮蔽結界をはっている為、向こうからオレの姿を見ることはできない。余程の術者でない限り。
 さあて、どうするかな。
 首を回しながら考える。こいつら、どういう目的でここに捕らえられているのか。見たところ、皆、外傷はないみたいだが。
 変な病気持ってたり、術かけられてたら問題だしねぇ。
 その危険は十分にあった。なにせここは天角なのだ。厄介だし、見捨てたほうが無難かもと思っていた時。
『お前、誰?』
 遠話で話しかけられた。遮蔽結界の中のオレが見えている。ということは、結界術の心得のある者。それも、オレの気を知ってる奴だ。
『おまえこそ誰よ』
『その声は水木か?俺だよ。源宇(げんう)だ』
 源宇、その名には覚えがあった。五年前、任務で傷を負った時、かくまってくれた槐の術者に仕えていた奴だ。
『どこだ?』
『一番奥。向かって右側だ』
 告げられた場所に行く。示された牢には、見覚えのある顔が繋がれていた。
『よう。久しぶりだな』
 外傷はない。少し、痩せたか。
『最近、天坐の砦で見かけないと思ってたら、こんなところで遊んでたの』
『うるせえ。これも仕事なんだよ』
『仕事、ねぇ。で、どんなヘマやったのよ』
 屈み込んで訊いた。格子に手を掛ける。
『ヘマじゃねぇよ。わざと掴まる為に、術で気も胡麻化してんだ。ここに送られんのは、ただの雑魚だからな』
『ふうん。で?その雑魚になって何すんのよ』
『そっからは秘密。と、言いたいけど。この場合、おれの方が不利だよな』
 苦笑して源宇が答えた。オレは先を促す。槐の国の男は小さくため息を落とし、話し始めた。