「愛のもしも??劇場 -榊剛の場合-」
by近衛 遼
その8 龍舌蘭で織った布は、濡れると収縮する性質がある。 実際、どの程度締まるのかわからなかったので、榊剛はいつもよりもゆるめに少年の手首を拘束した。少年は首をかしげている。これでいいのかといった表情だ。 いつ見ても可愛いよな。今日は目隠しはやめとくか。そのかわり……。 ふと、悪戯心がよぎる。先日、馴染みの店で仕入れたとっておきの酒。あれを飲ませてみるかな。 剛は少年を夜具の上で待たせて、水屋からその酒を取り出した。二合ほどの小さな壜。南方の国の文字で銘が書かれてある。 それは、龍舌蘭の茎から作った蒸留酒だった。アルコール度数はかなり高い。南方の島国では、男たちが決闘の代わりにこの酒の飲み競べをするらしい。 「剛さん、おれ、お酒はあんまり……」 黒い瞳が不安げに揺れる。 「んなこたぁ、わかってる」 だから、ほんのひと口。 剛はその酒を口に含んだ。少年のあごを掴み、唇を重ねる。焼けるような感覚が口腔内に広がった。 「ん……っっ……」 少年が体を引こうとした。が、もちろんそれを許す気はない。がっしりと腰を抱き、さらに深く口付ける。ごくり。少年ののどが鳴った。途端に、その体から力が抜ける。 「剛……さ……ん」 充血した目で見上げられ、剛は自分の中の獣を解放した。 予想以上に、よかったな。 意識を失った少年の体を丹念に拭きながら、剛は思った。 湿らせた龍舌蘭の帯揚げは絶妙の具合で少年に刺激を与え、さらに口移しで与えた酒がそれを何倍にも増幅させた。声も、動きも、表情も、常とはくらべものにならないほど扇情的で。 最初のときのように、ひたすら耐える顔もいい。が、朦朧となりながら、さらに次を求めるあの声。帯揚げによる圧迫と酒のせいで思考が乱れていたのだろうが、これはクセになりそうだ。 ちょっと、跡が残っちまったな。 心の中で嘆息する。こりゃ、冷やした方がいいかも。 剛は台所から氷を運び、少年に冷湿布を施した。あしたは休みだと言っていたが、明後日にはまたなにか財団の行事で出かけなければならない。なんとかそれまでに、跡が消えればいいのだが。 こいつ相手だと、つい、やりすぎちまうんだよなあ。 何度目かの反省を胸に、できうるかぎり丁寧に手当をする榊剛であった。 おしまい。 |