「愛のもしも??劇場
-榊剛の場合-
by近衛 遼


その6 

「はーい、剛ちゃん。ご注文の品だよんv」
 御影本部の南館の一室で、檜垣閃は自分の「対」である古参御影に紙袋を手渡した。中には、それぞれ大きさの違う真紅の薄布が三枚。
「錦翔楼のおねーさんのツテで、別注したんだからね。本絹だし、高くついたよ〜」
「……いくらだ」
 ぼそりと訊く。閃は茶色の目をくるりと回して、値段を言った。たしかに高い。が、色合いや長さなどを指定したので仕方ないか。そう考えて、榊剛は相棒の掌に数枚の銀貨を落とした。
「まいどありー。またなんか入り用のもんがあれば、声かけてよ。いまいちばんのお勧めは、龍舌蘭の繊維で作った帯揚げだけど」
「なんだ、それは」
「龍舌蘭で織った布って、濡れると収縮するんだよねー。だから、それを使うと……」
 あとは小声で耳打ちする。
「……てなわけで、プロの皆さんはそーゆープレイをメニューに入れてるたいよ」
 皮布を使ってそのテのことをした経験はあるが、龍舌蘭というのは初耳だ。
 やってみたい。触手は動いたが、このうえ閃に儲けさせるのもしゃくにさわる。それはまた今度にしよう。剛は無言のまま、部屋を出た。

 幅の広い真紅の薄布が、夜具の上で生き物のように蠢いている。
「んっ…ん………」
 紅色の練絹で視覚を奪われ、手足を拘束された状態で、黒髪の少年は様々な刺激に耐えていた。噛み締めた唇に色はない。
 もう少し責めれば、噛み切るかな。それを見てみたい気もするが、このあたりでこっちの我慢も限界だ。
 するり。脚の拘束を外す。力のなくなった下肢を開き、中に侵入した。
「あ……ああっ……」
 少年の体ががくがくと震えた。唇がわななく。そこから漏れる自分の名を聞きながら、剛は至福へと昇りつめていった。

 何度かの交わりのあと。剛は死んだように眠る少年の戒めを解いた。跡はほとんど残っていない。
 これならまあ、バレる心配はあるまい。先日はつい手拭いで縛ってしまい、しばらく跡が消えなかった。薄ものの幅広の布を使うというのは、我ながらいい考えだったな。
 少年に蒲団をかけて、臥し所を離れる。次は龍舌蘭の帯揚げを試してみるか。色はやはり、真紅がいい。小銭稼ぎに血道を上げているあの水鏡にいくら吹っかけられるかわからないが、また別注するとしよう。
 飲み残しの酒を口に運びつつ、榊剛はとことん不埒な思いを巡らせていた。

 おしまい。