選択   by(宰相 連改め)みなひ




ACT11

 目覚めて何が起こったかを知る。
 俺は、騙されたのだ。


「よお。目が覚めたか」
 頭痛と共に意識を取り戻した俺は、そいつを見た。これはあの男。斎の行方不明の情報をくれた。俺を部屋に呼びだした男。
「新入りのくせに、すいぶん舐めたことしてくれたよな」
 頭がはっきりしてきて気づいた。身体が動かない。両脇に二人、黒眼のいかつい男に、目ばかり大きな痩せた男。がっちりと俺を抑え込んでいる。
「これからどういうことになるか、わかるよな?」
 にやりと訊かれて、唇を結ぶ。これは俺の「歓迎会」らしい。
「おとなしくしててくれたら、そう悪いことにはならないと思うぜ?」
 両腕は術で緊縛されていた。足は動く。これくらいの緊縛術、外せないことはない。
 やるか?
 ふと反撃を考えた。相手は三人。「御影」らしき目の前の男と、「水鏡」一人と「御影」一人。
 どのくらいの戦力かわからないが・・・・逃げ切るくらいなら出来るかもしれない。
 新入りで実戦の経験が不足とはいえ、結界力には自信がある。ましてや、「水鏡」はあの痩せた男一人。
「何も取って食おうってものじゃない。ただ一回だけ、みんなでお前を『歓迎』しようってだけだ。ダメなら、力づくってことになる」
 みすみす嘘だとは分かっていた。一度きり。そんなにうまく行くはずがない。けれど。
「わかりました」
 口から答えが出ていた。言ってから自分がどう答えたかを自覚する。目を閉じて。大きく息を吐きだして。
「手荒なことは・・・・やめてください」
 諦めたように呟き、俺は身体の力を抜いた。


 なんでこんなことをしてるんだ。
 これでいいはずがないと、思っているのに。

「思ったとおりだ」
 惚れ惚れと酔ったように男が呟く。
「どこもかしこも、そこいらの女じゃ足元にもおよばねぇ。極上だ」
 欲望どおりに男は貫く。うっとりとした声。味わうような動き。それらがねっとりとまとわりついて、俺は堪えようのない吐き気に襲われる。
 早く終われ。
 心の中で念じた。もうどうでもいい。俺は既にあいつに仕込まれているし、桐野を陥れるような下衆だから。
「な、はやくしろよ」
「誰か来ちまうって」
 他の二人がもどかしげに言った。いかつい男は物欲しげに。あとの一人は・・・見張りか。
「ちっ、わかってる。待ってな」
 言い捨て男は動きだした。ガンガンと容赦なく責めてくる。俺は穿たれる痛みに必死で耐えて。
「なあ、まだかよ」
「うるさい、黙ってろ!終わんねぇぞ!」
「いいよ。んじゃ、こっちでやる」
「はやくしてくれよ!結界もたねぇよう!」
 痩せた「水鏡」の男が情けない声をあげた。遮蔽結界張ってるんだとどこかで考えながら、俺はその責め苦を耐えていた。

 どうしてだろう。
 苦痛は大きいはずなのに。
 心のどこかで楽だと思う自分がいる。
 勝手に過ぎ去ってゆくからか?俺の意志など関係なく。
 快楽も何もない苦痛こそが、罰だと思えるからか?
 身体も心も汚れた奴には、罰が必要だと?
 ああでも、確かにマシだ。
 「快楽」のみを突きつけられる、あの男との交わりよりは。


「もう限界だよー」
 「水鏡」の男の悲鳴が上がり、その行為はついに終わった。投げ出された俺は、放心したまま身動きも出来ず、そこに横たわっていた。
「よかったぜ」
 ぐいと髪の毛を引かれ、頭を上げさせられる。耳元に落とし込まれる言葉。
「また頼むな」
 なんだ。やっぱりそうか。
 次の言葉に、俺はぼんやりとそう思った。予測した通りだったのに。なぜ抵抗一つしなかったのか。
 いいのだ。
 もう一人の自分が言う。
 抵抗したからといって、俺の人生が変わるわけがない。
 それは諦めとしかいいようがなかった。還れない。今さら何をしたって、桐野のようには生きられない。あの純粋で、まっすぐ未来を見つめた時代には戻れないのだ。


 虫の声だけが聞こえる。
 早く部屋に帰らないと、流や桧垣さんに見つかってしまうな。
 真っ黒な闇の中。俺は一人、他人事のように考えていた。