終わらない夢 〜暗部編〜 by真也
ACT26
「雷、本当にありがとう」
「ああ。復命は俺が果たしておく」
今回の任務。それは、風の子供たちの護衛と暴走時の対応だった。
「雷も早く里に帰ってきなさいよ。あたしたちだけじゃ、槐樹と蒼樹の面倒見るにも限界があるからね」
「確かにそうですね。写輪眼が暴走したら、止められる人は限られてますから」
「・・・・・・俺が、子守りするのか?」
「当たり前でしょ。この子たちは『うちは』なのよ」
「らいおーちゃ、だっこー」
「こら槐樹。もう駄目だよ。リーおじさんもサクラおばさんもそれまでにしてください。雷には雷のやることがあるんですから」
子供を抱き上げながら、風が言った。兄の腕の子供。まだ二才だと聞いた。銀髪黒眼。名は槐樹。
「でも、眼の色を覗けば、蒼樹はお父さんやおじさんにそっくりですねぇ」
リーおじさんに抱かれる赤子。まだ半年にも満たない。黒髪蒼眼。名は蒼樹。
どちらも俺の甥だという。今まで森の国で暮らしていたのだが、写輪眼が出た為木の葉の里に迎えることになった。最初に写輪眼がでたのは首もすわっていなかった蒼樹。ついで、兄の槐樹。生まれたての無制御な写輪眼。暴発する可能性は多分にあった。
森の国にいる結界術者は少ない。その国に伝わっていた朱家の忍術は途絶えた。その最後の継承者の死をもって。
そのため、風は森の国に約二ヶ月缶詰状態となり、俺が暗部にいながらその代行を務めることになったのだ。
「アンも雷に会いたがってたんだけどねぇ。本殿で会えればいいんだけど」
アンの名を聞いて思いだす。鈴の話を。少し戸惑ったが言うことにした。
「訊いていいか」
「なによ、改まって」
「俺が暗部から帰ったら、ここに連れて来たい者がいる。いいか?」
言ってから周りを見渡した。皆、大きく目を見開いている。
「ねえ・・・・それって、雷の彼女?」
「雷!よかったですねぇっ!」
「いや。彼女ではない」
「ええっ!」
「じゃ、彼氏なんだ」
にっこりと風が言った。あとの二名が顔を見合わす。少しして、深いため息をついた。
「やっぱり、サスケ君の子孫よね」
「血は争えない。と、言うところですか」
「駄目か?」
「何言ってんの!」
パシンと頭が叩かれる。ぐいと引き寄せられ、背を屈めさせられた。
「そんなことあるわけないでしょ?絶対!連れてきなさいよ」
緑の目が細められる。目尻の横に深く、笑いジワが刻まれた。
「雷。よかったね」
風が微笑む。槐樹がその髪を弄んでいる。
「見つけたんだろ?探してた人を」
「ああ」
「楽しみにしています。今度は夕飯、食べていってくださいね。腕を揮いますから」
「ありがとう」
皆に見送られ、俺は家を出た。久しぶりに訪れた郊外の家。懐かしい場所は今もそのままだった。
改めて思う。俺の帰る所はここなのだと。
帰りたい。あいつと。
いや、きっと帰る。二人で。
この後奥殿では長老筆頭のエビスとの交渉が待ち受けている。何としても、鈴を里に迎えなければ。そのために、今まで性に合わない任務を受けてきたのだ。
俺は気を引き締めながら、奥殿へと向かった。
「この度の任務、ご苦労でした」
奥殿の一室で黒眼鏡を押さえながら、長老筆頭エビスは言った。
「『写輪眼』は里にとっても貴重な血継限界能力です。これで、ひとまずは安心でしょう。うちは風上忍も復帰のメドがつきそうですし、滞っていた外交任務も君が片づけてくれました」
「ごたくはいい。長老筆頭の答えを聞きたい」
率直に申し出る。黒眼鏡の奥の眉がピクリと揺れた。
「例の、人員異動の件ですね」
「ああ。どうなんだ」
「君は相変わらずせっかちですね。まずは聞いてください」
言いながらエビスは後ろに手を組んだ。二歩ほど歩いて俺に背を向ける。
「実は、うちは風上忍の代役に君を据えることに、私は反対していました。理由はわかりますね」
「あのことだな」
「ええ、そうです。君が数年前に引き起こした写輪眼の暴走。あの事態をまた繰り返すわけにはいきませんでしたから。それに、君が内外に評価を得ていたのは戦闘任務でしたし」
俺は黙って聞いていた。それは、紛れもない事実だったから。
「でも。今回のことは暗部の長から、正式に申し出がありました」
「シノが?」
「ええ。そして何より、亡き五代目は最後まで君を信じていましたからね。供養のつもりで君に託しました。そして、君はそれに十分過ぎるほどに応えた。正直、ここまでできるとは思いませんでしたよ」
エビスが振り向いた。いつもはへの字に結ばれている口元が、僅かに微笑んでいる。
「暗部に帰ったら正式に申請を出してください。私からも口添えしておきましょう」
「では」
「シノさえ許せば可能だと思います。それでいいでしょうか」
伺うようにエビスの右眉が上がる。俺は頷き、拝礼した。
早く戻ろう。
ほぼ全力で俺は木々を駆けた。
里側の準備は済んだ。あとは、鈴に話して答えを得るだけ。シノの言う条件は、二人で協力してゆけばいい。まだ半年もあるのだ。何とかなるだろう。
鈴は何と言うだろうか。俺の任期の明けとともに、木の葉の里へ迎えると言ったら。
確かに鈴は暗部に馴染んでいる。でも、心からここにいたくてそうしているわけではない。ならば、俺と来てくれるだろうか。いや、来てほしい。
高まる鼓動を押さえながら、俺は暗部へと戻ってきた。
任務終了の報告を終え、集合場所を見渡す。鈴は・・・・・いた。
鈴は集合場所の片隅にいた。傍にいるのはたしか、犬塚一族の男だ。
「おかえり」
鈴は静かに言った。少し顔色が悪い。任務前に体調が悪いと言っていた。まだ本調子ではないのだろうか。
「お前に話がある」
言いながら、犬塚一族の男を見た。奴は「あ、オレは今から任務」と言って、そそくさと去ってしまった。
「いいか?」
鈴に確認する。あいつはこくりと首を縦に振った。
廊下を部屋に向かって歩く。ひどく遠く感じた。もどかしく思いながらも部屋に着き、鈴を中に通す。鈴は部屋の中ほどに立ち止まっていた。
「じつは、おれも話があったんだ」
俯いた金髪が呟く。なにかと顔を向けた。
鈴が振り向く。微笑みながら言った。
「もう、おまえとは寝ない」と。
|