*『草の所縁』ACT3対応作品にて、先にそちらをどうぞ*
猶予期間 by真也
ACT2
カカシ先生が任務に出て八日経った。順調に行けばもうすぐ帰ってくる。いつまでも三人の任務じゃ問題だし、早く帰ってこないかな。そんなことを思いながら、おれは報告書とにらめっこしていた。
字を書くのでさえ苦手なのに、任務内容の記録なんて無理だ。何をどう書いたらいいかわからない。でも、今日はおれの当番。四苦八苦してそれを書き終え、受付へと持っていた。
「ナルト」
大きなため息をつきながら、イルカ先生が言う。赤ペンを手に持ち見上げてきた。
「おまえ、いい加減に件名ぐらいまともに書けよ」
呆れたように言う。まゆ毛が八の字になった。
「あ、また、ダメだった?」
上手く誤魔化せたと思ったんだけどな。心の中で舌を出す。
「あたりまえだ。『赤毛のおっさんに送る荷物の件』じゃ、ふざけているとしか思えない」
ぴしりと言われた。やっぱ、イルカ先生だよな。
「だって、相手の名前、忘れちまったんだってば」
正直に白状する。二度目のため息。おれはバツが悪くてボリボリと頭を掻いた。
「それなら、サスケかサクラに訊けばいいだろう」
困った顔。いたたまれなくなって言い訳を試みる。
「カカシ先生がいないときの報告書は当番制でさー。だれも教えてくれねえんだってば。サクラちゃんは『自分でやんなさい』って言うし、サスケは……」
いやなことを思いだした。つい数日前の賠償金が頭を過る。口をつぐんだ。
頭の隅に押しやっていた疑問が頭をもたげる。事あるごとに触れてくるあいつ。なぜ。
「まあ、だれにも得手不得手はあるにしても、上を目指すなら、なんでもひと通りのことはできないとな」
慰めるように言われる。なんだかこっちが申し訳ない。下を向いた。
「とにかく、これは却下だ。明日中に再提出しろ」
念を押されて頭を抱える。おれ、誰に荷物送ったのか覚えてない。上目づかいに訊いた。
「……相手先の名前、絶対に入れなきゃダメ?」
あからさまに呆れた顔をされた。それが『仕方ない』の顔になる。先生が鉛筆を握り、紙に何か書いた。これは、送り先。
「おれが教えたってことは、内緒だぞ」
「うん! わかってるってば。やっぱ、イルカ先生はやさしいよなー。ちゃんと書き直してくるからっ」
勢いよく立ち上がる。事務局を飛び出した。よかった。どうしようかと思った。このまま送り先がわからなかったら、あいつに訊く以外方法がない。浮かれていたら誰かとぶつかった。
「痛いって!気をつけろってばよっ!」
捨て台詞を残して駆け去る。早く帰ろう。腹が減った。
『今日はみそ味にしよっかな』
家で食べるインスタントラーメンを考えながら、おれは廊下を駆けた。
「おい」
呼び止められてぎくりとした。誰かはわかりきっていたから。
「なんだよ。今日はおまえの助けなんて、いらねぇってば」
一応牽制。でも事実だ。報告書はイルカ先生に教えてもらったし、サスケの出る幕じゃない。
じろり。
あいつは無言で睨んだ。不本意そうな顔。ざまあみろ。
「じゃなっ」
言い捨て逃走を試みる。ぐいと襟首を掴まれた。首が絞まる。
「なにすんだよっ!離せってば!」
むせながら怒鳴った。抑揚のない目。まっすぐに見つめ返してくる。
「勘違いすんな。ウスラトンカチ」
「なにっ」
「カカシから指令が来た。買い物に行く。サクラも待っている」
「ええっ」
驚いている間に腕が掴まれた。ずるずると引きずられてゆく。話が見えない。カカシ先生って、あと二日くらいしたら帰る予定じゃなかったっけ。何があったんだ?
?マークを浮かべながら、おれは引きずられ続けた。
「カカシ先生の家で、バーベキューするんだって」
ウキウキとサクラちゃんが言った。
「それで私達は買い物先発隊。好きに買ってていいって。それもカカシ先生のツケで!何買おうかな〜」
「やった。まずは肉!」
「野菜もな」
平たく言われる。ちらりとこちらに目をやり、サスケが言葉を継いだ。
「肉ばっかり食べてるから、アタマが進歩しねぇんだ。ボケ」
「なにを−!」
「やめなさいって!ナルト、本当のことでしょ?サスケ君も言い過ぎよ」
サクラちゃんに注意される。バツが悪くて、おれたちはそっぽを向いた。ほんと、やな奴。
「困ったわねぇ・・・・」
柳眉を顰め、サクラちゃんが呟く。考えているようだ。そのうち何か考えついたのか、ぱちりと手を打った。
「よし。あたし、肉買ってくるわ。知り合いにいい肉屋があるの。しっかり掛合ってバッチリねぎってきちゃう」
「じゃ、おれも」
すかさず同行しようと足を出した。サスケと一緒は避けたい。
「駄目っ」
一喝された。何で、サクラちゃん冷たい。
「あんた達は二人で野菜買ってきなさい。それで仲直りよ。夕刻カカシ先生の家で集合。わかったわね」
「ええーっ」
「うるさい。ケンカばかりしてる罰よ。遅れたら許さないからね」
びしりと指差し宣告される。思わずたじろいた。なんだか迫力。
「サスケくんもそれでいいわね?」
サクラちゃんがあいつを見やる。サスケは無言で頷いた。
「じゃあ、お願いね。あたし、行ってくる」
手を挙げ、サクラちゃんが駆けだした。下町に消えてゆく。あっけにとられて、おれはそれを見送った。
「行くぞ」
後ろで低音。渋々振り向く。微かに笑みながら首をしゃくった。踵を返し、歩きだす。
「早く来い」
再度言われ、いやいやおれは歩きだした。ちぇっ、またかよ。ブツブツと文句を口の中で呟く。
「残念だったな」
前のあいつが、嬉しそうに言った。
その後、おれとあいつは下町の商店街で野菜を買った。キャベツや玉ねぎを手に取り、サスケが細かくチェックする。
「このじゃがいもは芽が出過ぎている。よって、正規の値段で売るのは暴利だ。まけろ」
八百屋のおやじを相手に、あいつは一文一銭を値切った。それはまさに、買い物慣れした所作だった。
なんか、意外だよな。
値切るあいつの後ろで、おれはぼんやりとそれを眺め続けた。
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