『燃える椿の下で』
by真也
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夕日の中を歩く。僅かな温もりを背に受けて。
太陽に願う。おれに力をと。
ACT9 〜太陽を背に〜
「いってきます」
まっすぐ見つめてそう言った。カカシ先生の家の前、イルカ先生が見送ってくれている。
「気をつけてな」
穏やかで真摯な瞳。こくりと頷いた。学べることは全て学んだ。殆ど一夜漬けに近い形であっても。今日一日、早朝から今までイルカ先生の指導のもとに、閨の知識を学んだのだ。
閨を務める。
奴とのことは置いといて、サスケとしていた口づけ位しか経験のなかったおれには、それは全く未知の世界だった。
そういう行為があると言うこと。男同士でもそれが成立すること。
この三年間、あいつが迫ってきていたからなんとなくは知っていた。でも。知っているのと実地で経験するのは天と地の差ほど違う。たまに誰かが任務先でそれを上司から要求された話を聞いたが、幸いおれにそのたぐいの命はおりなかった。
やっぱ、守っててくれたのかな。
ぼんやりと思う。案外おれなんか誰の目にもとまらなかっただけかもしれない。でも、それを言いつけられた奴らはいろいろだったから。
「じゃあ、そろそろいくよ」
カカシ先生が印を組んだ。あれは遠駆けの印。おれは慌ててそれを止めた。
「どうした?忘れ物か?」
右目で伺うように見られる。思いきって口を開いた。
「あのさ。一つ頼みがあるんだ。いい?」
「なによ。内容によるね」
首を傾げてカカシ先生が答えた。
「ナルト。なんなんだ?」
イルカ先生も覗き込んでいる。
「おれ、歩いてあいつの家まで行きたい。どうせこれから太陽の下なんて出られないだろうし。だから、今日くらいは歩きたいんだ」
わがままだとはわかっている。あいつがおれを待ち受けていることも。でも今は力を借りたい。光を。太陽の力を。
「・・・・・駄目かな」
上目遣いに見つめる。怒られるかもしれない。子供じみた願いだから。
「いや。歩こう」
蒼眼を細めてカカシ先生が言う。ほっと胸を撫で下ろした。
おれは二度目の「いってきます」を言って、イルカ先生に背を向けた。カカシ先生の後ろについて歩き出す。少しいったところで、ふと思いだした。
「カカシ先生、ちょっと待ってて」
「ああ?今度はなんなの」
「イルカ先生に言わなきゃ」
言葉もそこそこ背を向ける。駆けだした。イルカ先生はまだ、カカシ先生の家の前で見守ってくれていた。
「どうしたんだ?」
少し驚いた顔で、先生は迎えてくれた。目の前で足を止める。息を整えて言った。
「イルカ先生。おれ、先生のこと嫌いになったりしてない。むしろ、すごいと思ってる。今日教えてもらったことは、先生にとって知られたくないことだったんだろう?おれのために嫌な思いさせてごめん。そしてありがと。おれ、頑張るから」
「・・・・ナルト・・・」
先生の顔が泣きそうに歪んで、笑った。おれも笑う。本当だよ。先生のしてくれた分も頑張るから。
「おまえ、強くなったな」
肩に温かい手が置かれる。イルカ先生の手が。おれに勇気を分けてくれている。
「行ってこい」
先生の言葉に頷き、踵を返した。
「ごめんって。もう、終ったから」
カカシ先生が待っている。おれは走り出した。
夕日の中を歩いた。カカシ先生らしいのんびりとした歩調。否。これはおそらく故意にだろう。これから太陽なんて見る暇のないだろうおれの為にしてくれている。
木の葉の里。
下町や河原。任務受付所までの道。アカデミーの前を通り過ぎた。
「アカデミーか。お前達が下忍の頃は、いろいろ手を焼かされたねぇ・・・・・」
「カカシ先生こそ、いつも遅刻してきたくせに」
軽口を叩きながら歩く。何度もこの道を通った。スリーマンセル時代はサスケの他に、サクラちゃんやカカシ先生もいた。中忍になってからはあいつと二人。怒鳴ったり嫌味を言い合ったり、たまに仲良くしゃべったりして歩いた。確かにあいつは嫌な面もあったけど、それなりにおれのことを考えてくれていたのだ。そして、さりげなく助けてくれていた。
甘えていたのは自分。それに気付かないばかりか、あいつのフォローをアテにさえしていた。あいつの求めるささやかな見返りに、その意味さえ考えず応じながら。
「一度だけ訊くぞ」
振り返り、カカシ先生が言う。言葉を継いだ。
「どんなことをしてもお前はサスケを助けたい。そういうことだな」
「うん」
「奴の出方によっては、おまえはただの捨て石になるかもしれない。それでもいいんだな」
辛辣な言葉。けれどそれは事実。今は奴が握っている。おれも、あいつも。
「ああ。それでもおれは可能性を信じたい。あいつは自分であの牢に入ったんだ。奴を表に出さない為に。だから、奴が完全にサスケに成り代わったわけじゃない。だから、探す。あいつを取り戻す手段を」
胸を張って言う。決心は変わらない。このまま、逃げたりしない。きっと、見つけてみせる。
「そうか」
右目が細められる。カカシ先生が前を向いた。
「とにかく印を探せ。もし時限印だとしたら、発動しているから表に出ているかもしれない。お前も知るとおり、かつて呪印はあいつの項の辺りにあった。念の為、他の場所も見ろよ」
そうだ。まず印を探さなければ。
おれは無言で頷いた。
「・・・・・もうすぐだな」
独り言のように呟く。うちは屋敷が見えてきた。奴のいるあの場所が。
「恐いか?」
前を行く背中が訊いた。おれは苦笑する。正直に答えた。
「恐いよ。でも行かなきゃ。おれしかできない」
「そうだな」
そのまま二人、押し黙った。目の前にはうちは屋敷が広がっている。
「いくぞ」
「はい」
大きく息を吸い込み、おれはその家へと入って行った。
行こう。今は身体が震えてしまうけど。
それでも進もう。太陽を背に。
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