『燃える椿の下で』
by真也

 
 機会を探している。
 奴に感づかれることなく、印を見ることができる機会を。




ACT10  〜機会〜  




「・・・・う、ああっ・・・」
 身体の深い部分を抉られて、抑えていた声が漏れた。
「やっと出たわね。本当、強情なんだから。まあ、うるさいのは面白みがないけどね」
 背中から声。動きは止めないまま、さも楽しそうに言う。
「初めての時もよかったけど、こうやって我慢してるのもいいわね。陥とし甲斐があって」
 後ろ手に拘束されている両手は痺れを訴えている。はやく済ませなければ。手が使い物にならなくなる。頬と肩の擦傷は軽い。足の力をフルに使った甲斐があった。
 奴がおれを支配しつづけて十日。ようやく事の段取りが頭に入りつつある。なんとか力の抜き方も身についたから、翌日動けないほど影響を受けることはなくなった。しかし、それだけだ。
『どうせイロイロ入れ知恵されてるんでしょ?だから、念の為にね』
 この牢に入って二日目、奴はおれの手を封じた。情事の間に印を組まれない為に。
「ん・・・あっ・・・・」
 我ながら嫌になる声。一度堰を切ったものは止まらない。焦りだけが募ってゆく。だめだ。こんな体勢じゃ印なんて見られない。また昨日みたいにかき乱されてわからなくなってしまう。ぎゅっと唇を噛んだ。
 僅かなろうそくの灯。後ろからの繋がり。これでは奴の身体をじっくり見ることもできない。せめて呪印のあった首筋くらい見たいと思っているのに、それもこの数日間はままならないでいた。
「何を考えているの?」
 耳元に囁き。答えないでいたらさらに結合が深まった。思わず首を振る。
「だいたい予測はつくんだけどね。無駄よ。アンタは顔に出過ぎるんだから」
 意地悪そうに告げられた途端、動きが早くなった。ほんのちょっとだった余裕がなくなる。襲い来るものに思考が止まった。まずい。このままでは・・・・・。
 必死で自分を保とうとする。しかし。身体のなかに荒れ狂うものが、おれを押し流していった。




「起きたの?」
 ぼんやりと覚醒した意識がその声で急速に戻った。目だけで辺りを見回し、唇を結ぶ。今日も、駄目だったか。
「残念だったわね」
 追い打ちを掛けるように前方から声。奴が長椅子で笑っていた。そろそろと身体を起こし、服を掴む。もうすぐ朝だ。
「ほらほら、そんなに悔しそうな顔、しないの。サスケ君が悲しむわよ」
 奴は決しておれに背中を向けない。そんなの忍として当たり前だ。それでも悔しくてならない。
「いるのかよ」
 むっとして言い返した。奴の目が水を得たように輝く。
「いるって、サスケ君がこの中にいるのかってこと?いるわよ。アタシの作った壁の中でもがいてるわ。でも駄目ね。彼、今は弱っているから」
「どういうことだよ」
 あいつが弱っている。まさか、こいつが何かしたのだろうか?
「さあてね。でも、アタシのせいじゃないわよ。アタシはサスケ君の中に潜んでいただけ。アタシが表に出られたのも、いわばサスケ君のおかげよね」
「何であいつがお前なんかっ!」
「あらこわい。本当にサスケ君命ね」
「うるさい」
 堪え切れず吐き捨てると、奴はけらけらと笑った。おれは唇を噛む。無言で服を身につけた。
 痣になっちゃったな。両手首を見つめて思う。手の拘束など術で簡単に出来るだろうに、奴は拘束具を使う。そういう趣味なのかおれや里へのあてつけなのか、どちらの理由なのかわからないが。ともかく情事の最中は腕を封じ、事が終わると両手の拘束だけは外してくれる。中途半端な扱いだと思った。
 本当、気に入ったのかな。不毛なことを考える。こいつに気に入られても仕方がない。でも、時間稼ぎにはなる。おれに奴が執着している間は、サスケは始末されることはない。奴にも、里にも。
「来たわよ」
 声に気付く。迎えだ。遠くから見計らっていたのだろうか。カカシ先生の気が近づいてきた。




「ただいま」
 おれはいつもそれだけ言う。他に余計なことを言って心配させたくない。
「おかえり。風呂、沸いてるぞ」
 イルカ先生もそれだけ。たぶん、余計なことを訊いておれに嫌な思いをさせまいとしてくれている。
 それは既に、奴から解放された時の儀式と化していた。
 朝。カカシ先生の家におれは帰ってくる。里の者には見られないよう、カカシ先生が遠駆けの術で連れてきてくれるのだ。
 家に戻って一番におれは風呂に入る。ふらつきそうになりながらも身体を洗う。何度も、何度も。
 風呂から上がったら、食事をとる。大抵、身体にいいとされるあの粥を。その味にも少し慣れてきた。最初はちょっと泣きそうだったが。人間、順応力があると思う。今はよそった全量食べられるのだから。
「あ・・・・」
 今日は煮物がついてる。鳥肉だ。おれは頬を弛ませた。
「カカシ先生がな、たまには蛋白質を食べさせないとって」
 複雑な顔でイルカ先生が言う。おれは吹き出した。
「何笑ってる」
「だって・・・先生、子供みたいだ」
「こら」
「ごめん」
 くすくすと笑いながら箸を手に取る。鳥肉を食んだ。じわりと染み出る、肉の味。
「美味しい。イルカ先生、うまいよ」
「そうか。よかった」
 不思議なものだと思う。逃げないと自分に誓いはした。けれど、正直潰れるかもしれないと自分で危惧していた。絶望してしまうかもしれないと。でも。
 おれは日々をおくれている。潰れることも、挫けることも、狂うこともなく。
「おかわり、いるか?」
「うん」
 きっと、先生達のおかげだと思う。彼らがおれを信じて、おれの帰る場所を作って待っててくれるから。だからおれは立ち向かえるのだ。あの牢と奴に。
「ごちそうさまでした」
 手を合わせて感謝する。イルカ先生がお茶を入れてくれた。香り豊かなほうじ茶を。
「これ飲んだら、少し休め」
 促されて、首肯いた。休もう。まずは体力を回復させないと。今夜も、またあそこへ行くのだから。
「おやすみなさい」
 そう告げて、おれは部屋へと入った。
 床に入って天井を見上げる。もう欄間の模様も、天井のシミさえも覚えてしまった。それらを眺めながら考える。奴の背中を、首筋だけでも見る方法を。一気にそこまで進めることはできない。怪しまれないように、徐々に事を運ばなくては。そこまで考えて、急速に眠気が襲ってきた。
 とにかく、寝よう。起きてから考えるんだ。
 そう思った瞬間力が抜け、ふいに天井が暗くなった。   




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カカイル連動作『画策』

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