『燃える椿の下で』
by真也
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ACT33 〜拒絶〜
まだ答えは出ていない。
奴が滅されて当然だとは、おれには思えないから。
誰にも必要とされず、死んでよかったと思われる人間なんて、いて欲しくない。
そんなの認めたくない。
夕刻。いつものように奴はおれを呼んだ。ホッと胸を撫で下ろす。内心、ひょっとしたらもう呼ばれないかもしれないと思っていたから。
昨夜、おれとサスケは約束した。おれが呼ぶまで、あいつは表に出て来ないと。
奴にとってサスケは邪魔なはずだ。今あいつを封じるには、おれに合わさなければいい。一生は無理かもしれないが、かなりの時間稼ぎになるはずだった。しかし、大蛇丸は今日もおれを呼んだのだ。
心の揺れを抑え襖を開ける。奴は座敷の奥で呑んでいた。
「来たわね」
迎える声。黙って奥へと向かった。少し離れた所で立ち止まる。
「あらら。まだそんな顔してるの?」
呆れたような表情。小首を傾げて言葉を継いだ。
「悩むのは若さの特権だけどね。ほどほどにしなさいよ」
言いながら杯を差し出される。前に進んで座った。表情を変えずに酒を注ぐ。
「あーあ、暗いわねぇ。これじゃあ睨まれる方がいいわ。屈伏させる楽しみもあるし」
無視して注ぎ続けた。視線が合う。探るような黒眼。きらりと光った。
「それもいいわね」
銚子を持つ手を掴まれた。引き倒される。膳が大きく揺れた。零れる、酒。
かたん。
奴が杯を置いた。おれの上に馬乗りになってくる。
「サスケ君を呼んでもいいのよ」
降りてくる手。首筋を撫で上げた。耳にまわって鎖骨へと降りる。爪を立てられ身体が揺れた。
「呼ばないの?」
囁き。耳を噛むように落とされる。固く目を瞑った。奴の手が身体の脇へと伸びる。
「それとも、アタシとしたいのかしら」
間近に迫られ目を反らした。自分に訊いてみる。たぶん違う。奴としたいわけじゃない。奴が好きなわけでもない。だが、拒むほどの嫌悪も、怒りもないのだ。
こいつには何度も酷い目に合わされている。身体を奪われ、痛めつけられた。でも。
何故だろう。おれには憎しみがなかった。こいつを傷つけたいと思える程の思いが。それに。
いいのかもしれない。
そう思ってしまった。おれはこれからこいつを倒す。あいつを取り戻す為、滅してしまう。それだけのことをするのだ。だから、今ここで奴に身体を与えても・・・・・。そう考えて目を閉じた時。
ぱしん。
左の頬に痛みが走った。肌を彷徨う手がするりと抜ける。奴が身体の上から退いた。
「お帰り」
驚いて目を開けた。上体を起こして見上げる。蔑むような目が睨んでいた。背筋が凍るような、冷たい視線。
「・・・え・・・」
「アンタ、アタシを舐めてんの?帰んなさい。冗談じゃないわ」
「あのっ」
「図に乗るのもいい加減になさい。供物の分際で。さっさとお帰り!」
ぴしりと言われて戸惑う。どうして。おれが何かしたんだろうか。そろそろと立ち上がった。
「・・・おれ・・・」
「安心しなさい。サスケ君には手を出さないわ。頭を冷やして明日の夜、来るのよ」
憐れむような顔で言われる。言葉がなかった。目で促され、仕方なく衣服を整える。ふらふらと出口へ向かった。
「よく考えなさい」
背中に声。
「アンタの大切なものを、見逃しちゃだめよ」
振り向こうとした。「行きなさい」と追い打ちされる。振り向かずに部屋を飛び出した。
夜道をとぼとぼと歩く。考えがまとまらなかった。
奴は急に怒り出した。けれど、理由がわからない。
何か気に障る事を言ってしまったのだろうか。ちがう。今日は殆ど喋らなかった。引き倒された時だって抵抗してない。奴の言う通りにしていたのだ。なのに。
『アンタの大切なものを、見逃しちゃだめよ』
奴の言葉が頭を巡った。必死だった声。耳から離れない。どうしてあんなこと言ったんだ。
「何が言いたいんだよっ」
苛立ちを言葉に換える。でも。前には闇。何も見えない。
「畜生」
やり場のない感情を胸に、おれはカカシ先生の家へと歩いた。
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