『燃える椿の下で』
by真也

 
ACT3   〜うちは屋敷〜  




サスケが失踪した。それも、上忍試験のさなかに。
「順調に勝ち進んでたらしいよ」
 カカシ先生が言った。上忍試験は筆記試験と実技試験、最後に中忍試験と同じトーナメント方式の対戦からなっている。 
「前半の筆記や実技試験は申し分なかった。でも、最終試験の三回戦だけは、様子がおかしかったらしい」
「おかしいって、身体とか壊したのか?」
 心配になって尋ねた。対戦で怪我したのだろうか。ひょっとしたら病気かもしれない。
「いや」
 先生はあっさりと否定した。
「じゃあ、どうして・・・」
 焦れて問いを重ねる。カカシ先生は大きく息を継ぎ、おれの頭をポンポンと叩いた。
「ま、俺も聞いた話だから。鵜呑みにはするなよ」
「なんだよ。もったいぶって」
「あいつは、抵抗できないほど弱った者を、攻撃した」
 聞いた言葉に耳を疑う。
「本当かよ」
「なんでお前に嘘言わなきゃなんないのよ。勝敗がついた後も尚、あいつは攻撃したらしい。それも、殆ど嬲るような形で」
「嘘だっ!」
 反射的に叫んだ。あいつはそんなことしない。そりゃシビアな所もある奴だけど、嬲るだなんて。
「残念だが、その場の上忍数人が取り押さえに入ったそうだ。そして、その晩サスケは失踪した」
「でもっ」
「落ち着け」
 肩にイルカ先生の手。震えていた身体が止まった。必死で落ち着きを取り戻す。
「カカシ先生、何かわけがあるのでしょうか」
「わかりません。でも、あいつらしからぬ言動の後、あいつは姿をくらました。それは事実です」
 重い。カカシ先生の言葉が重く伸し掛かってくる。なぜ。どうして。その気持ちだけが頭の中を駆け巡り、うまく考えられない。おれは唇を噛み締め、下を向いた。膝の上で握った拳を睨み付ける。
「追い忍は出たのでしょうか」
 固い声でイルカ先生が訊く。あの人もショックを受けているようだった。
「ええ。失踪の事実が確認された翌日にね」
「翌日だって?」
 おれは乗り出した。異例の速さだ。カカシ先生が続ける。
「それに、三代目は条件をつけたそうです。できるだけあいつを生かして連れ戻すようにと」 
「サスケの実力を考えると・・・・難しいですね」
 イルカ先生が柳眉を寄せる。ため息を一つ落とした。
「三代目は無くしたくないようです。うちはイタチが死亡した現在、サスケは唯一のうちは一族ですからね」
 うちはイタチ。何度かその名を聞いた。たしか、サスケの・・・・・。
「カカシ先生!」
「なに」
「おれ、サスケの追い忍になるってば。あいつを追わせてくれよっ」
「ナルト・・・・」
 イルカ先生が困ったように見つめている。何か言おうとしてカカシ先生が遮った。
「無理だ」
「えっ」
「お前は中忍。サスケは上忍確実と評価されていた。俺自身の評価も同じだ。お前ではサスケに太刀打ちできない。もしあいつが話の通りになっていたら、殺されるだけだ」
「でもっ」
「ナルト。カカシ先生の言うとおりだ」
 イルカ先生が告げる。言葉が継がれた。
「残念だが、今のお前とサスケでは実力が違い過ぎる。それに、追い忍部隊はもう出されたんだ。今は、その者たちに任せるしかない」
「だって・・・・」
 言い返せなくて下を向く。悔しい。でも、先生達の言う方が正論だ。わかっている。
「詳しい事がわかったらお前にも知らせる。それまで、自分の為すべきことをしていろ」
 きっぱりとカカシ先生が言う。首肯くしかなかった。




 サスケが失踪して一週間。追い忍たちは未だあいつを探し出せていなかった。
「手がかりが殆どないそうだ。気の一つさえ残ってない。あいつらしいと言えばそうだけどね」
 ため息を吐きながら、カカシ先生が言った。残念な気持ちとホッとした気持ち。複雑な感情はおれには整理できなかった。ただ焦れる自分を宥めながら、自分に出来る任務をこなしていた。
「お疲れ様です。ナルトさんは明日から二日間、有休でしたよね」
 任務受付に言われて気付いた。有休。それはあいつと合わせて取った休みだった。
『ウスラトンカチ。どこまで進歩したか見てやる』
 珍しくあいつからそう言った。あれは確か、上忍試験を見送った後。あいつは里の上層部に延々と説教を聞かされていた。
 あれから任務は立て込んでいて、有休を取るのはのびのびになっていた。
 サスケのいない休み。サスケと過ごすはずだった休み。寝て過ごそうかと思ったがやめた。いい機会だ。二日間、自分であいつを探そう。
 おれは人知れず決心した。
 それから二日間、おれは心辺りを探した。さすがに二日では、里のごく周辺しか探せなかったが。
 けれど、あいつは見つからなかった。
『どうしようかな』
 半分途方にくれて、郊外の道をゆく。里に入る手前で気付いた。
 あいつの家。
 サスケの家は郊外にある。カカシ先生の家とは正反対の位置に。
 ここからなら、近いな。
 漠然と思う。まさか、逃げた奴がわざわざ里に戻ってきて自分の家に隠れるなんて。いくらなんでもそんなの安直すぎる。でも。
『ちょっと行って見るだけだから・・・』
 自分に言い聞かせるように呟き、おれは土を蹴った。




「すごいってば」
 思わず言葉がでた。サスケの家は、見上げるほどの大きな屋敷だった。
 そう言えば長い付き合いになるけど、今まであいつの家を訪ねたことはなかった。これが、うちは屋敷。
「駄目か・・・」
 門には鍵が掛かっていた。やはり。少しの間戸惑う。もう、帰ろうか。
『無理だ』
 カカシ先生の言葉が思いだされる。悔しいけどそれは事実。おれは追い忍にさえなれない。
「ちくしょう」
 ぼそりと自分に呟く。無理でもいい。何かしたい。このままじゃいられない。
 おれは塀づたいに屋敷の裏へと周った。もしかしたら。淡い期待を抱く。ひょっとしたら、裏に抜け穴の一つぐらいあるかもしれない。
『そんなにうまくいくわけ、ないよな』
 苦笑して見回した時、それを見つけた。塀が一部ふっ飛ばされている。まるで術で砕破したみたいに。
「嘘だろ・・・」
 信じられないで一人ごちる。それでも前に進んだ。ここから中に入れる。
 意を決し、おれは塀の中へと入っていった。




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