『燃える椿の下で』
by真也

 
 その屋敷は、あるものを封じていた。
 そして今。彼は、そこにいる。




ACT4   〜牢〜




「迷路みたいだってば」
 気配を殺し、薄暗い通路を進んでゆく。夜目が利くとはいえ、外から差し込む僅かな灯。それだけが頼りだった。
 いくつもの部屋。中には大広間のような場所もあった。どれも欄間には様々な装飾がなされ、部屋はすっきりと何もなかった。
 静かだな。あまりに何も無さ過ぎて恐いくらいだ。最低限に押さえた自分の息音だけが、響くように聞こえる。なんだか息が詰まりそうだった。
「広いな」
 言わずにはいられない。とてつもなく広い家。でもあいつ以外、誰もいない家。静かな、物音一つしない家。
 こんな所で暮らしてたんだな。しみじみと思う。うちはの虐殺で一人残され、あいつは暮らしてきたのだ。ここで、一人で。
 探そうと思った。最初はちょっと中を覗いたら帰ろうと思っていたけど。ここにいないかも知れないけど。それでも、自分で納得いくまで探してみようと思った。この部屋の広い家のどこかで、あいつは暮らしていたのだ。それを確かめたい気がした。
 一つ一つ、全ての部屋を確認する。あいつの気配はないか。何でもいい。あいつの残したかけらはないか。
「・・・・あった」
 奥座敷の隅に、次の間を見つける。小さな、大人一人が屈んでやっと入れる入口。最初は物置かと思った。がらり。引き戸を開ける。
「ここだ」
 中に入り、確信する。僅かに残された気。間違いない。これはあいつの気だ。
 火遁で灯を点け、部屋を見渡す。小さな箪笥。整然と並べられた忍び用具一式。衣紋掛けにきっちりと掛けられた衣服たち。ここが、サスケの部屋。
「・・・あれ?」
 ふと疑問に思った。これだけきちんと衣服や物品が整理されているのに、部屋のまん中には布団が敷きっぱなしになっている。それもかなり乱れた形で。なんだか、あいつらしくない。
「サスケだったら・・・・・毎日畳みそうだよな」
 首を傾げて呟く。あいつは整理整頓にうるさかった。おれのうちに来た時なんか、いつも汚いだの不衛生的だなどとブツブツ言っていた。
 どうして敷きっぱなしなんだ。まるで、慌てて被せたような。気になって布団をどける。そして、それを見つけた。
「・・・・・なんだよ」
 灯を近づけ、更によく見ようと試みる。鉄の扉。朱で文様が描かれている。これは、うちはの。
『入れるかな』
 そう考えて扉の取ってを引っ張る。かなり重いけど、なんとか開けられた。気が流れてくる。
「・・・これは・・・」
 思わず声が出た。扉の下には地下へと続く階段。その奥で感じる、なじみのある気。あいつだ。
 迷いはなかった。階段が壊れないように気をつけながら降りてゆく。下には微かな明かりが灯されていた。それを目指して奥へと進む。結構広い。灯の近くに格子を見つける。あれなんだよ。これじゃあまるで、牢屋みたいだ。
「・・・・誰だ」
 格子の向こうにぼんやりと人影。誰か座っている。あの声。
「サスケ!」
「・・・・ナルト。ナルトなのか?」
「サスケ!お前、こんな所にいたのか!」
 言いながら牢に近づこうとする。あいつが叫んだ。
「来るな!」
「えっ・・・なんだよ」
「いいから来るな!ここから出て行け!」
「何言ってんだよっ」
 怒鳴りながら格子に手を掛けた。がしり。その手があいつに掴まれる。骨が折れてしまいそうな、尋常じゃない力で。
「いい所に来たわね」
「・・・・・サスケ?」
「あんた、九尾の小僧ね。久しぶりじゃない」
 サスケの整った顔が、妖艶に微笑む。違う。サスケの気もある。でも、もう一つ、どす黒い醜悪な気も感じる。
「おまえ・・・・誰だ」
 拳を握り締めて訊いた。目の前の薄い口が、面白そうに弧を描いた。
「さすがにわかるのね。伊達に長年一緒にいたわけじゃないということかしら」
「誰なんだよっ・・・・くっ!」
 掴まれた腕の力が更に強まる。まずい。このままじゃ折れる。おれは奥歯を噛み締めた。耳元に奴の声。
「誰でもいいじゃない。アタシ困ってるのよ。この忌々しいうちはの結界から出られなくてね」
 凄まじい力で振り飛ばされる。壁に背をぶつけた。一瞬、息が止まる。
「火影を呼んでらっしゃい。サスケ君を死なせたくないでしょ。もうずっと呑まず喰わずなのよ。アタシを出さない為に、眠ろうともしなかったし」
「なんだって」
「早く呼んでらっしゃい!でないと彼を殺すわよ!」
 鞭のような声に飛び出す。急いでうちは屋敷をでた。



 サスケじゃない。でも。
 誰かの変化でもなかった。ならば、身体はおそらく、あいつ自身。
 どこかで聞いたような声。話し方。
 今は思いだせない。
 奴は、誰だ。



 全力で走り続ける。おれは火影屋敷へと急いだ。




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