『燃える椿の下で』
by真也
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ACT26 〜師〜
「とりあえず、家に帰ったら風呂に入れ」
前をゆく背中がぼそりと言った。おれは言葉もなく頷く。一足ごとに、頭がずきずきと疼いた。
「まったく。ハメはずしちゃだめでしょーが」
ぶつぶつと愚痴っている。その通りだ。でも、昨晩は飲むしかなかったのだ。
『飲みなさい。あっちは楽しめないんだから、せめて飲んでもらわないとね』
そう言って奴はおれに酒を注ぎ続けた。それは倒れ込むように眠ってしまった明け方近くまで続いた。
二日酔いって、本当に頭痛いんだな。
いつぞやカカシ先生が言ってたのを思いだす。当の本人は今、ネチネチとおれを突いているけれど。
「イルカ先生、怒るだろうねぇ」
青筋立てて怒鳴る師を思いだし、おれはただただ、苦笑した。
「さっさと身体拭いて出てこいよ。薬湯、用意してあるから」
予想通り額に青筋を浮かべながら、イルカ先生が風呂場に顔をのぞかせた。
「・・・・・わかったってばよ」
おれは顔の下半分を湯船に沈めて、先生の言葉を聞いていた。やっぱり恐い。あれはかなり、頭にきているだろう。
おれにはおれの事情があるんだけどな。そう言い訳したかった。でも今回はどう考えても自業自得。それは聞いてもらえそうになかった。
正座で説教かな。
重い気持ちを抱えて座敷へと向かう。そこにはカカシ先生とイルカ先生、理寧のおっさんが勢揃いしていた。
「おぬし、今日は何の日かわかっておろうな」
おっさんの地を這う低音。ぎゅっと唇を結んだ。
「・・・はい」
とにかく項垂れる。元凶を作ったのはおれ自身。どうにかして許してもらうしかない。
「おまえなぁ、せっかく今日は時限印の解術を教えてもらうっていうのに。どうして自粛できなかったんだ。肝心な日に二日酔いだなんて、先生は情けないぞ!」
ずきん。イルカ先生の怒鳴り声が頭に響く。割れそうな頭におれは手をやった。
「先生・・・痛いってばよ。もうちょっと小さな声で・・・・」
「おれの声がでかいのは生まれつきだ!」
火に油を注いだらしい。さらに声が大きくなった。
「まあまあ。ナルトも奴に勧められて飲んだんでしょうし・・・」
カカシ先生が助け船を出す。イルカ先生がキッと睨み返した。
「しかし、今日は時限印の解術なんですよ。なのに、こいつときたら・・・・」
「見苦しい」
低音が投げ捨てられた。理寧のおっさんだった。
「時間の無駄だ。始めるぞ」
「いいのか?」
びっくりして聞き返す。
「庭へ出ろ」
即答だった。気の変わらないうちにと腰を上げる。さっさと縁側へ向かった。
助かった。
心ならずもそう思ってしまった。理寧のおっさんが遮らなければ、説教タイムに雪崩れ込んだだろう。そうしたら経験上、いつ終わるかわからない。
助けてくれたのかな。ほのかな期待を胸に、おれは庭へと出た。
「時限印の解術は印を探すための術、その印を凍結させるための術、さらにそれを外部に取り出し、滅するための術の三つからなる」
「わかったってばよ。それで?」
「うみの殿、これへ」
おっさんはおれを無視し、座敷を振り返って呼んだ。先生がやってくる。
「何でしょうか」
「動くな。動けば命は保証せぬ」
言葉と同時に印が組まれた。今まで聞いたこともないような音の口呪が紡ぎだされ、見たこともないような形の印が凄まじいスピードで組まれてゆく。凄まじい気。
おっさんの右手がイルカ先生に翳された。掌が白く輝いている。
「刻!」
「く!」
イルカ先生がよろめいた。数歩後ずさって踏みとどまる。瞬時に体勢を立て直した。
「先生に何すんだよっ!」
詰め寄っておれは大きく叫んだ。隻眼が無感動に見下ろしている。
「時限印を施した」
「えっ」
「おぬしがこれを解けなければ、一年後に作動させる」
「なんだって!」
「解けばよい。それだけだ」
「おっさん!」
「黙れ」
ぴしりと言われた。心が乱れる。先生に時限印が。でも、とにかく落ち着かなければ。解術を会得しないことには、何もできないのだ。
あいつを取り戻すことも。
イルカ先生を助けることも。
繰り出されるおっさんの言葉と手印。食い入るようにおれは見つめた。
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