『燃える椿の下で』
by真也
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ACT27 〜口づけ〜
「疲労困憊、って感じねぇ・・・・」
夕刻。おれの顔を見るなり奴は言った。
「アンタ供物なんだから、もっと愛想よくしなくちゃね」
「悪かったな」
言いながら膳に手を伸ばした。銚子を持つ。
「飲むんだろ?」
おれの問いに、奴は黙って見つめていた。ため息混じりに口を開く。
「何があったか知らないけどね。焦ったって空回りよ」
図星を指された。むっときて顔を反らす。唇を噛んだ。
わかってる。焦ったって無駄なことくらい。でも気持ちが抑えられないのだ。
理寧のおっさんはイルカ先生に時限印を刻んだ。朝からここにくるギリギリの時間まで印を探したけど、全然見つからなかった。怪しいと思える場所さえ解らなかったのだ。
『おぬしがこれを解けなければ、一年後に作動させる』
言い放たれたおっさんの言葉。背筋が寒くなる。もし、おれがあれを解けなかったら・・・・。
「そんな悲壮な顔、初めてね」
声に気付く。奴が覗きこんでいた。静かな黒。その中に、泣きそうなおれが映っている。
「あのさ、あんた何でおれを・・・・」
「やめましょう。選手交代ね。それはアタシの役目じゃないわ」
途中で遮られる。奴の目が変わった。無くなる焦点。しばらくして、馴染んだ表情が帰ってきた。
「サスケ」
「ナルト」
「代わったのか?」
「ああ。だが俺の意志じゃない。奴が押し出したようだ」
腑に落ちない。と、いう顔でサスケが言った。
「大蛇丸が?どうして・・・・」
「わからない」
自分の意志でサスケと交代したというのか。確かに選手交代とは言っていたけど。理由がわからなかった。完全とは言えなくても、奴はまだサスケを支配している。おれも供物のままなのに。
「どうした?」
「えっ」
「浮かない顔をしている」
サスケにまで言われてしまった。心配そうに見ている。余程情けない顔をしているのだろう。思わず自嘲した。
「何でもないよ。今日二日酔いだから、ちょっと頭痛いだけ」
「そうか」
「うん。だから、心配するなって」
意識的に微笑んだ。目の前の顔が少しだけ緩む。それを見てほっとした。
言えるわけないもんな。心の中で呟く。本当に言えやしない。特にサスケにだけは。
時限印の解術を学んでいることも、イルカ先生に時限印が刻まれたことも、両方とも。それに、サスケの中には奴がいる。
「おまえの方はどう?」
殊更明るく訊いた。
「結構慣れてきた。コツも掴めたぞ」
しっかりとした声で返される。あいつなりに成果を上げてるらしい。
「そっか。ま、がんばれよ」
「わかっている。お前もな」
サスケが頷く。おれも頷き返した。
そうだよな。
落ち込んでたって始まらない。
とにかくやるんだ。それこそ、全力を出して。
サスケも戦っているんだ。
おれも戦わなければ。
そして、取り戻すんだ。
おれとおまえの未来を。
大きく息を吸い込んで座りなおした。背筋をぴんと張る。まっすぐにサスケを見つめた。
「サスケ。おれ、きっと今の状態を何とかする。たぶん、おまえの力も借りる事になるだろうけど。でも、絶対一緒に任務やってたあの日を取り戻す。だから・・・・」
そこで一端止めた。再度息を深く吸う。思いきって言った。
「だから、全てが終った時、おまえに話して欲しい事があるんだ」
「俺に?」
「うん。約束してくれ」
本当は、すぐにでも教えて欲しい。あの任務の日、おまえに何があったのか。おまえの兄さんのことも。うちはのことも。全部聞かせて欲しかった。
「な、いいよな?」
念押しに訊いてみる。サスケが目だけで頷いた。真摯な顔。心から嬉しかった。
「じゃ、前払い」
笑みながら腕を引いた。あいつの顔が近づいてくる。驚きに薄く開いた口。自分の唇を押しつけた。
少し冷たいや。
思ったとおりの感触。けれど、胸がドキドキ言ってる。不思議だな。相談料とかでしてた時は、あんなに嫌だったことなのに。今は、全然違う。
唇を離した後も、サスケは呆然としていた。信じられない。そんな表情をしていた。
「・・・・ナルト、お前・・・」
「飲もうぜ!おまえ、酒飲んでたんだってな。奴が言ってたぜ」
やっとでた言葉を敢えて封じる。今日はここまで。今ので充分、元気をもらったから。明日からまた、おれは頑張ることができる。
杯をサスケに手渡す。酒をなみなみと注いだ。戸惑うあいつに微笑みながら、おれは酒を注ぎ続けた。
どうしてだか奴は出てこなくて、おれ達は朝まで飲み続けた。
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