『燃える椿の下で』
by真也
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ACT20 〜修行〜
「防御結界を張れ」
「・・・・またかよ」
呟くおれを振り向きもせず、理寧のおっさんが縁側へ向かった。腰を降ろして腕を組み、閉眼している。そのまま動かなくなった。
駄目だな。おれは肩をすくめる。おっさんには何を言っても無駄だ。森の国に帰ると言い出さないうちに、言われたことをやるしかない。口を結んで印を組んだ。
精神集中。チャクラを練りはじめる。気を徐々に高め、維持してゆく。今日はいつまで張らされるんだろうか。きっと昼飯は抜きだな。ともかく途中で結界が切れないよう、力加減を調整しなければ。
しばらくして、青白い光が見えはじめる。今だ。結界印を。
「・・・・・・ふう」
なんとか防御結界になった。いささか不安定ではあるけれど。肩の力を緩める。その時。
ぱちり。おっさんの隻眼が開いた。左手で細かく印を切る。横一列に右手が引かれた。
「うわっ!」
衝撃。結界が破られた。途端に裂けた結界の破片がおれを襲う。体中のあちこちに鋭い痛み。慌てて結界を張りなおした。必死で安定を試みる。
「何すんだよ!」
頭にきて怒鳴った。闇色の左眼が見つめ返す。相変わらず感情が読めない。何を考えているのやら。
「中途半端な結界だ」
「なんだと!」
「破られるようでは結界と言わぬわ」
悔しさに唇を噛み締めた。なんでこんなことしてんだよ。おれは結界修行したいんじゃない。時限印の解術が知りたいのに。
「不安定だ。それも持たぬな」
侮蔑の表情。思いっきり睨んだ。奥歯がぎりと鳴る。
目を閉じて自分に言い聞かせた。乱れてはならない。乱されてはならない。まずはこれを安定させなければ。でないと、次には進めない。
修行が始まって一週間。おれは毎日防御結界を張っている。結界印を習い、最初はごく小さいものを短時間。今ではカカシ先生の家全体を、無制限に張らされている。
どうしてこんなことをしているのかわからない。でも今は、おっさんを信じるしかない。めどの立たない修行は、ひどくじれったいものに思えた。
理寧のおっさんは結界の安定性と強度にうるさい。ちょっとでも不安定な面が見えれば、容赦なくおれの結界を破る。おかげで、細かい傷が体中に増えた。
じっと我慢しながら印を組み続ける。やっと結界が固定化した。でも気は抜けない。ちょっとでも緩んだ瞬間、一からやり直しだ。
力が足りない。それは充分自覚していた。それまで結界はあいつが張っていたのだ。教えてもらうことも出来ただろうに、おれは訊こうともしなかった。細やかな報酬を嫌がったが故。
理寧のおっさんが見ている。冷たい視線。まるでモノを見るような。全身に突き刺さってゆく気がする。
サスケの方が絶対楽だったよな。今さらながらに思う。それほど今までのツケは大きかった。
これがもし体術だったら・・・・やばかった。この数ヶ月で、かなり体力が落ちていたから。
結界を張ることは体力的にはそう負担はない。問題は気力と精神力だ。それも、一番おれが苦手とする忍耐力を要した。
長時間気を張り詰め、精神を集中しつづける。それはなまじな事ではなかった。
体力的にもつだろうか。そんなことを考えたこともあった。しかし、今のところ夜の影響が昼に及ぶことはなかった。もちろん毎夜奴を受け入れていたから、身体はいつもだるかったが。
「昼餉が出来ました」
座敷から声。イルカ先生だ。理寧のおっさんは無視している。決まり、だな。
もう既に鳴いている腹を宥めながら、おれは結界を張り続けた。
「もっと食べていいぞ。おかわりあるからな」
椀を手渡しながら、イルカ先生が言った。おれは頷く。当然、二食分食ってやるってば。
結局大蛇丸の所に行くぎりぎりの時間まで、理寧のおっさんは結界を張らせた。もう目の奥がじんじんしている。
箸を取り椀の中を覗きこむ。ご飯だ。焼き魚をおかずに、飯をかきこむ。のどに詰まった。思わず咽せる。
「こらー。もっとゆっくり食べなさいよ。胃に悪いぞ」
とんとんと背を叩く手。カカシ先生だ。イルカ先生が茶を持ってきてくれた。
「ほら」
「イルカ先生、ありがと」
「煮物も食えよ」
「うん」
修行が始まってから、薬草粥は朝食のみになった。最近、夕餉はもっぱらご飯が出る。
ここんとこ、ずっと一日二食だもんな。おれは苦笑した。先生達もさすがに身が持たないと思ったのだろう。
理寧のおっさんは僅かな時間も惜しんで修行にあてる。おれの飲み込みが悪いからかもしれないが。
昼間の修行は食欲を増進させた。人間食べればしゃんとする。考え方も自然と前向きになった。少し前はサスケを理解できていなかった自分を責め続けていた。全てを耐えることでそれが何とかなるような錯覚さえ覚えて。でも、違う。
耐えているだけでは、自分を責めているだけでは前に進まない。自分の落ち度を噛み締めながらも、一歩を踏み出さなければ。
そういう意味で今の修行は、おれにとっていい精神安定の材料になった。
もうちょっとカンカン進めばいいんだけどな。黙々と口を動かしながら、横目でちろりと理寧のおっさんを見る。おっさんはすでに食べ終わっていた。
小食だよな。いつも思う。理寧のおっさんはあんまり食べない。体術をしている所も見たことがない。でもカカシ先生に劣らない長身と、引き締まった身体をしている。
やっぱりあの、踊りみたいな体操がいいのかな。思わず考え込んだ。ひょっとしたらあの森の国独特の拳法、すごいのかもしれない。
つらつらと考えていたら、じろり。おっさんがこっちを向いた。反射的にぎくりとする。
「明日から攻撃結界をする」
言い捨て、腰を上げる。おれはぎゅっと箸を握った。やった。ちょっと進んだ。時限印じゃないけど。
「わかったってばよ」
満面の笑みで答える。おっさんはおれを一瞥して立ち上がった。スタスタと出口へと向かう。部屋を出ていった。
「よかったな」
目の前でイルカ先生が言う。カカシ先生も笑ってる。
「うん。おかわり」
首肯き、空になった椀を差しだした。
さあ、食べよう。
腹に満たして夜を越えよう。
勇気を、自信を、希望を詰め込んで。
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