『燃える椿の下で』
by真也
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ACT21 〜大蛇丸〜
「細かい傷が増えたわね」
昼間できた傷を指先でなぞり、奴が言った。
「白くてキメ細かい肌なのに、もったいないわ」
呟き、唇を落とした。傷口の一つ一つに舌を這わせてゆく。自然と背が震えた。
「昼間、何をしてるの?」
耳元で訊かれる。探るような響き。答えずにいたらやんわりとそこを掴まれた。指先で弄んでいる。声が出ぬよう、唇を噛み締めた。
「さぞかし悪いコト、してるんでしょうね」
綺麗に笑む口元。濡れたような漆黒の瞳。妖しく輝く。緩急をつけて、ゆっくりと追い詰めてくる。固く目を瞑った。
「声、出さないつもり?じゃあ、これはどうかしら」
熱をもて余す場所が包まれた。なま温かい空間。内部で濡れたものが蠢く所。絡みつき、細やかに動いた。
「・・・・・んっ・・・・」
声が漏れる。望んだ声ではない。それでも止められなかった。
「ほら、そんなに噛み締めてないで。唇が切れちゃうわよ」
無視していたら思い切り吸い上げられた。びくりと腰が跳ねる。すんでで踏みとどまった。
「ぎりぎりで堪えたの?・・・・いいわよ」
言葉と共に膝が割られた。踏み込んでくる奴の身体。それが押し当てられる。
「お馬鹿さんね。先にイッた方が楽なのに・・・・」
言葉と裏腹に足が抱えられ、容赦なく相手が押し入ってきた。背が撓む。敷布を握り締めた。
「力、抜きなさい」
中で留まったまま、奴が告げる。以前は待ってなどくれなかった。おれの力が抜けてゆくのを、今はじっと待っててくれる。慣れもあったが、その行為は最初の頃より、ずいぶんましなものになっていた。
奴が動きだす。目の前にサスケの顔。冷たい表情は見えない。むしろ、微かに笑んでさえいる。
錯覚しそうになる。
間違えるな。間違えるんじゃない。
いつも自分に言い聞かせた。サスケじゃないと。別人なのだと。でも、身体は反応してしまう。
「いい子ね。その顔が好きなのよ」
声。耳の奥に落とされる。細かく首を振った。
「知ってる?」
深い所に突き入れ、奴が囁く。何かと薄く目を開けた。
「アンタ、いく時サスケ君を呼ぶのよ」
崩れた。奴の言葉が思考を奪い、頭の中がサスケで満たされてゆく。求めてしまう心が、流れ出てしまった。
変わったと思う。
誰でもない、目の前の奴が。相変わらずサスケをのっとり、毎夜おれを支配する男。でも、何かが変わってきていた。
それまではただ責め続けていた。おれを傷つける事。それだけが目的だったかのように。けれど、今は違った。奴はおれを受け入れやすい状態に誘ってから、身を進めてくる。
何故なのかわからなかった。おれが昼間に何かしているのもわかっているだろうに。大蛇丸は追求しない。もしされたとしても、おれが言うはずないと思っているのか。
違うよな。
自分で打ち消した。そんなはずない。奴はサスケの命を握っているのだ。それを楯に脅せば、おれは言わざるを得ない。時限印の解術を会得しようとしていることを。なのに。
「今日はもういいわ。寝なさい」
奴が身仕度を整え、膳の所へと歩いてゆく。今日も飲むつもりらしい。
思えば行為の回数も減った。大抵一度か二度。且つては一晩中責められたこともあった。寝ることも許されず、意識を失うことでやっと逃れられた日もあった。
どうしたのだろうか。この変化の原因がわからない。里との交渉が上手くいってるからなのだろうか。現にうちはの結界を広げてもらったし。それともいつぞや言ったように、おれを手なづけるためなのだろうか。
正直、助かってるよな。
しみじみと思った。以前の状態で夜を過ごし、昼に理寧のおっさんの修行を受けていたら、恐らく体力的に潰れていただろう。夜が比較的楽になったからこそ、精神的にも身体的にもやっていけるのだと思う。
『アタシは裏切り者なのよ』
奴はそう言った。里を裏切り、多大な犠牲者を出したと。今もサスケを含む何人かを時限印にかけ、苦しめていると言う。
どうしてなのだろうか。この男にも感じる。里を愛している心を。だのに、なぜ。
「眠れないの?」
投げられた言葉に頷く。こちらに来いと手招きされた。夜着をつけ差し向かいで座した。
「寝ないなら付き合いなさい。アンタでもいないよりマシね」
杯が手渡される。酒が注がれた。奴の好きな、木の葉の酒が。
「アンタ、人を憎んだことある?」
訊かれて首を振った。今まで九尾が原因で嫉まれ続けた。ずっと悲しかった。でも、憎もうとは思わなかった。今思えば、イルカ先生のおかげだと思う。人を憎んでしまわぬように、おれの心を守ってくれた。信じるという楯で。
「そう。じゃあ、人を愛したことは?」
これも首を振った。確かにイルカ先生は好きだ。カカシ先生も尊敬している。サスケも、悪い奴じゃないと思う。たぶん、好きだ。でも、愛してるかと言われたら違う気がする。そもそも、愛すると言うこと自体おれには理解できていない。
「本当、アンタってまだまだお子さまね」
くすりと笑いながら奴が言った。手の杯に口をつける。中を空けた。二杯目を注ぎ、ぼんやりと何かを考えている。少し間を置いて、こちらを見た。
「教えてあげる」
真摯な目。そこには脅しも蔑みも殺気もない。おれは反らさず、見つめ返した。
「人間ってね。憎みすぎても愛しすぎても駄目。どちらも結局、堕ちるだけ。ちょっといい加減位がいいのね」
「・・・・あんた」
「アタシはたぶん・・・・・・憎みすぎちゃったのよ」
呟き。独り言のように落とされた。それはおそらく、おれに当てたものではない。自分自身へ向けたもの。
「それ飲んだら寝なさい」
促されて杯を飲み干す。再び布団へと向かった。床に入ろうとしたその時。
「もっと早くにアンタみたいなのに会ってたら、アタシもちょっとはマシだったかしら」
消え入るような声。返事はできなかった。無言で布団を被り、おれは固く目を閉じた。
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