『燃える椿の下で』
by真也

 
ACT 14 〜取り引き〜 




 朝、奥殿に出かけたきり、カカシ先生は夜になっても帰ってこなかった。きっとこれからの対応策を話し合っているのだろう。誰か外部の力を借りるようなことも言っていたし、大がかりなことになりそうだ。
「どのみち今のおまえにできることは一つだ。休める時にしっかり休んでおけ」
 イルカ先生に諭される。先生は鋭いから大変だ。ちょっと起き上がって何かしようとするだけで、さりげなく部屋に入ってくる。で、しっかりお説教して寝かしつけてくれるのだ。
「先生。時限印って、発動したらもう元どおりにならないのかな」
 夕食の煮魚をつつきながら尋ねる。
「さあな。・・・・・おれのは発動しなかったから・・・・」
 苦笑しながらイルカ先生がお茶を飲む。湯のみ全部を飲み干した後、
「でも、彼らはおれたちより時限印についてよく知っている」
 そう静かに言った。
 彼ら。カカシ先生が「専門家」と言っていた人たち。
 どんな人が来るのだろうか。
 ぼんやりと考えながら、おれは箸を置いた。




 翌朝。
 カカシ先生が帰ってきた。忍服から土と草のにおい。どうやら遠出してきたようだ。おれ達と朝食を摂った後、奥の間でイルカ先生と何やら話していた。おれは監視の目が緩くなったのを幸いに、庭で柔軟と簡単な体術の型を試みていた。
「やっぱ、鈍ったよな」
 改めて思い知る。日々の鍛錬の大切を。これではいざという時役に立たない。少しずつ取り戻していかねば。
「こら」
 じっとりと全身が汗ばんできたところで、縁側から声。振り向いた。
「ちゃんと休まなきゃ駄目だろ」
 眉にシワを寄せて、イルカ先生が立っていた。
「充分休んだよ。話し合い、終ったの?」
「まあな」
「で、どうなんだって。助っ人の人って来んの?」
 昨夜の話を思いだし訊いてみる。
「たぶんな。まあそれは来てからの話だ」
 苦笑してイルカ先生。ふと気付く。いいにおいがしてきた。あれはみそ汁。ぐうと腹が鳴る。
「入ろうか。昼は久しぶりにカカシ先生が作ってくれてるんだ」
「やった。楽しみだってばよ」         
 にんまりと微笑む。だとしたら、あの粥じゃないかも。心持ちわくわくしながら、おれは縁側に上がった。




「さすがに復活したみたいね」
 夕刻。格子の前に立ったおれを、奴はくすりと笑って迎えた。
「アンタが来ないと一日が長いのよ。本当、退屈だったわ。入りなさい」
 言われて無言で鍵を開ける。格子の中へと入った。それを見計らい、カカシ先生が背を向ける。
「待ちなさい」
 奴がそれを引き止めた。先生が振り向く。
「明日の朝、この子を迎えに来る時火影を連れてらっしゃい。交渉を再開するわ」
 不敵に奴が告げる。カカシ先生が「承知」と答えて、地上へと上がっていった。
「いらっしゃい」
 出口が完全に閉まったところで奴が呼んだ。こちらを手招いている。おれは黙って前へと進んだ。長椅子に腰かける奴の前に立つ。
「今日もいい顔を見せてね。サスケ君の顔も見せてあげる」
 弧を描く口元。妖艶という感じに微笑んでいる。意を決し、口を開いた。
「この間は・・・・・ありがと」
「なんなの?」
 訝しげに奴が訊いてくる。おれは視線を反らさずに言った。
「あんたがサスケを出してくれたんだろ。少しだったけど・・・・話せたから・・・・」
 黒眼が大きく開く。しばし沈黙の後、奴が大きく吹き出した。そのまま身を屈めて笑っている。
「な、なんだよっ!」
 あんまり笑いが止まらないので怒鳴った。サスケの顔が涙目になりながら迫ってくる。
「アンタって・・・・馬鹿ねぇ」
「何でだよっ」
「もう、どうしようもないお人好し。よく忍なんてやってるわ」
 困った顔で言われる。これはあいつがよくした表情。いつもこの顔で「仕方ないな」と言われた。
「だって、おれにはあいつを引き出すなんてできないし、ご褒美って聞こえたから・・・・」
「アンタを手なずける作戦だとは思わないの?うまく言いくるめて結界を解かせ、逃げ出すかも知れないわよ」
 意地悪そうに覗き込まれる。確かにそうだ。言葉がなくて憮然と睨む。
「はいはい、そんなに拗ねないの。いらっしゃい。仕事をしましょう。アンタとアタシの仕事を」
 言われて思いだす。自分達の関係を。おれはこの身を供する者で、奴はそれを使う者だと言うことを。衣服を脱ぎ、一枚一枚床に落としてゆく。拘束されるために両手を前に差し出した。
「アタシを憎んでるんじゃないの?」
 拘束を施しながら、奴が訊く。
「そうかもしれないけど・・・・・・・わからない」
 ぼそりと答えた。目の前の顔がまた困った表情をする。「変なコね」とため息をついた。



 その夜も奴はおれを抱いた。
 確かに拘束こそされていたけれど、それまでのように執拗に嬲られることはなかった。
 少しだけ、奴が優しくなったような気がした。




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