『燃える椿の下で』
by真也

 
ACT 13 〜時限印〜  




 誰かが見つめている。うっすらと霞のかかった視界で、一際目立つ漆黒の瞳。そして黒髪。痛々しそうに歪められた顔を縁どっている。
 誰だろう。誰かがこんな顔をしていた。まるでこっちの何倍も痛いみたいな、思い詰めた表情で。
 大丈夫だよ。
 思うより先に言葉が出ていた。そうだ。おれは大丈夫。ちょっと今はうまく動けないけど、すぐに元気になるから。 
 心配するなよ。
 無意識に言葉が飛び出す。いつもしかめっ面の、心配性な顔が浮かんできた。
「サス、ケ」
 自分の声で気付く。それはサスケだと。そして気付いた。今おれを覗きこんでいるのは・・・・。
「・・・・イルカ先生」
 慌てる。間違えたのだ。あいつと同じ色を見つけたから。
「起きたか」
 穏やかな微笑み。心に染み入るような。ばつが悪くて、上目づかいに見た。
「先生、ごめん」
「どうした?謝るなんて、変な奴だな」
 やんわりと問い返す。わざと知らぬふりをしてくれているのだ。胸が詰まる。思わず口を開いた。
「あのさ、今日、あいつに会ったんだ」
「本当か?」
 見開かれる黒眼。おれは頷いた。
「うん。本当にちょっとだけだったけど、確かにサスケだった」
 噛み締めるように言う。正直不安だった。あいつはいないんじゃないか。もう消されてしまったんじゃないか。そう思ってしまう日もあったから。不意に視界が歪む。
「よかったな・・・」
 背中に手が置かれる。ポンポンと宥めるように叩いた。必死で込み上げるものを堪える。大きく息を吐き出し、涙をやり過ごした。泣いてる場合じゃない。手がかりを見つけたのだ。あいつを取り戻す手がかりを。おれは口を開いた。
「イルカ先生、カカシ先生は」
「今、火影様の所だが・・・・」
「いつ帰るの?」
「昼にはと言っていたから、もうすぐだと思うが」
 イルカ先生が困ったように首を傾げる。大きく息を吸って、告げた。
「見つけたんだ」
「えっ」
「おれ、見つけたんだよ。印を」
 先生の顔が瞬時に引き締まる。素早く印が組まれ、遠話の術が使われた。




「確かにこの印は、あなたが受けたものに似ていますね」
 おれの書いた印の絵を見て、カカシ先生が言う。
「しかし、サスケの呪印にも似ている部分があります」
 イルカ先生も覗きこんでいる。本人から直接聞いたことだけど、この人は本当に時限印を刻まれていたのだ。刃のような気をカカシ先生に向けていた、数年前のあの日を思いだす。 
「先生、大変だったんだな」
 ぼそりと感想を漏らした。黒眼が二つと蒼眼が一つ、こちらを凝視している。
「おまえなあ・・・」
「あのねぇ。今大変なのはお前とサスケ。他人事じゃないのよ」
 二倍の教育的指導を受ける。おれは頭を掻いた。
「ともかく、詳しくは専門家に訊きませんとね」
 印の描かれた紙を手に、カカシ先生が立ち上がった。
「暗部研究所にいかれるのですか?」
「いいえ」
 怪訝そうにイルカ先生が目で訊く。隻眼が面白そうに細められた。
「いるでしょ?とびきり上等の忍達が。あなたも知ってるはずです」
 その言葉にイルカ先生が頬を緩めた。きっと心当たりがあるのだろう。
「丁度あなたの同僚がいい情報を掴んできたんですよ。実は今朝、そのことで奥殿に呼ばれていました」
「空木が・・・」
「ええ。おれはこれから三代目と交渉してきます。彼らを動かす為にね」
 言うが早いか、カカシ先生が玄関へと進む。イルカ先生が後を追った。おれもと立ち上がりかけたが「休んでろ」と釘を刺された。一人部屋に残される。仕方なく辺りを見回した。
 細くなったな。
 自分の腕をしみじみと見る。奴の相手をし始めてから、自分を鍛える余裕などなかった。ただ、日々をやり過ごすのに必死で。
 ちょっとは鍛えなきゃ。いざと言う時、役に立たない。
 まだ戦いは始まったばかりだ。それもかなりこちらが不利。おれは時限印さえ十分にわかっていない。ましてやそれを滅するなど。でも、しなければならない。でないとあいつは取り戻せないのだから。
 ゆっくりと拳を握りこみながら、おれは意を固めた。




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