『燃える椿の下で』
by真也
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立ち止まるわけにはいかない。
少しでも、前に進まなければ。
こうして疲弊するだけの生活では、いつか持ちこたえられなくなる。
ACT 11 〜嘘〜
「痩せてきたわね」
手首を拘束しながら、奴が言った。おれは反らしたままだった視線をそちらに向ける。
「まあ、儚くなるのも一興よね。サスケ君への手向けになるし」
俯く表情。長い睫。どれも知ってる。まさしくあいつのものだ。極力辛くなるから、顔は見ないようにしていた。自分を蹂躙しているのは、別の存在だと思った方が楽だったから。
「でもガリガリはいやよ。てんで趣きがないし、その気にもならないから」
こいつは楽しんでいるのだ。おれの心と身体を嬲り、そのことで里を牽制しながら。
「飽きたら殺すわよ。それでみんなおじゃんね。サスケ君もアンタも終わり」
こいつを楽しませるのがおれの役目。決して飽きさせずにできるだけ時間を稼ぐ。その間に解決法が見いだされるかもしれない。
甘いよな。思わず自嘲した。待ってるだけじゃ駄目だ。自分で探し出さなくてはいけない。前に進む方法を。
ならば。
ふと、あることを思いついた。
「訊いていいか」
「なに。自分から喋るなんて珍しいわね。聞いてあげるから言いなさい」
面白そうに黒眼が細められた。おれは口を開く。
「サスケが、おれとしたがっていたって・・・・・・本当か?」
「何をするのよ」
意地悪く笑む。わざとだ。やはり興味を惹いたらしい。
「何って・・・・おまえとしている事だよっ」
俯き、言いにくそうに言う。認めたくないように。それをひどく苦しんでいるように。奴が殊更に目を細めた。
「ふうん。やっぱり、気になるの?」
問われて、上目づかいに見る。小さく「そうだよ」と返した。
「仕方ないわね。特別に教えてあげる。本当よ」
言われて大きく目を開いた。動揺しているように。いや、本心も半分は動揺していた。
「・・・・そうか」
俯き、思い詰めたような顔をする。奴が覗きこんだ。
「後悔してるの?」
「・・・・・・あいつ、何も言わなかった。わからなかったんだ」
「でも、口づけしてたじゃない。どうして受けてたの?」
言葉に詰まる。それは自分でもわからない理由だったから。嫌だと思ってはいた。でも。拒みきれなかったのだ。
「少しでも、その先を考えなかった?」
「友達だったから・・・・」
これは嘘。なんとなくその可能性は考えていた。その時自分がどうするかはわからなかったが。
「友達、か。残酷ねぇ。まさにヘビの生殺しって奴ね」
「そうだとしたら、おれ・・・・酷い奴だよな」
これは本心。知ってて知らないふりをしていた。自分でも怖かったから。
「あいつに会いたい。・・・・会わせてくれ」
詰め寄り、見上げて哀願した。本心も嘘も取り混ぜて。あいつに代われば、何か掴めるかもしれない。おれは答えを待った.
「だめよ」
無慈悲な返事。そう上手くいくはずがない。あいつに会うのは断念。おれは次の言葉を言った。本来の目的の言葉を。
「なら・・・・・・せめて、あいつの顔を見ていたい」
「悔やんでるのね。でももう、遅いわよ。アタシは発動しちゃったし、彼はアタシを押しのけるだけの意志を持っていない。今ごろサスケ君も後悔してるわ。大切なアンタを最悪の形で巻き込んだことをね」
「あいつが・・・・」
おれは顔を泣きそうに歪めた。これは本心からの表情。あいつが苦しんでいるのなら、何とかしたい。
「さあ、おしゃべりは終わりよ。アンタはアンタの仕事をしなさい」
身体が押された。そのまま寝台に倒れ込む。結わえられた両手を頭の上に抑えながら、奴が伸し掛かってきた。手が、唇が、容赦なく肌を吸う。教えこまれた身体が反応しだした。おれはしっかりと目を開く。あいつの顔を見る為に。
「嬉しいでしょ。今日はこの体勢でしてあげる。せいぜい、サスケ君の顔にお詫びしなさい」
あいつの顔が酷薄そうに歪む。本当は見たくない。思い知らされるから。あいつを拒絶してしまった結果を。自分の犯した罪の重さを。でも、見なければならない。疑われるわけにはいかないから。
当分、崩れるかもしれないな。
ぼんやりとそう思った。正直つらい。もっと考えればよかった。話し合って、それがどんな形になろうと納得して先に進みたかった。あいつを受け止めるにしても、あいつと離れるにしても。
間違っていたのだ。
あいつに倍の苦しみを押しつけるよりは、自分も半分苦しみたかった。なのに、おれは跳ね返すことしかしなかった。おれを求める以外、術がなかったあいつを。
こいつに奪われるくらいなら、あの時受け入れればよかったな。
何かに歪みそうになる視界をこらして、おれは見つめ続けた。
「うちはサスケ」の顔を。
その日。おれは前に一歩進んだ。
奴の背中を見る為の一歩を。
このまま、崩れたふりをすればいい。後悔から全てを「うちはサスケ」に捧げてしまう存在になるのだ。
崩れて。乱れて。しっかりと縋って。
そして、奴を観察するのだ。
手がかりを見つける為に。
声が上がる。我慢はできなかった。
「ふふ。今日は素直なのね。やっぱり、サスケ君が効いたかしら」
嬉しそうに奴が手を這わせる。いつもより激しい波の起こりを感じながら、おれは目を開き続けた。
ひどく辛い、夜だった。
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