『燃える椿の下で』
by真也

 
 一歩前に進んで、奴と向き合えるようになった。けれど。
 その一歩はおれにとって、自身を切り裂く一歩だった。




ACT 12 〜サスケ〜




 何度も自分に言い聞かせている。
 これはサスケじゃない。身体はあいつでもそれを支配する意識は別のモノなのだと。それでも。
 おれの身体は、言うことをきかない。
「本当、我慢強いわね。もうぎりぎりでしょ?」
 言うと同時に強くそこを吸い上げた。背が波打つ。思わず崩れてしまいそうになるのを必死で堪えた。へその辺りであいつの顔が綺麗に微笑む。
「やっぱり、顔を見ると見ないでは大違いね」
 後ろに指がやられた。侵入してくる。湧き起こる波のやり場がなくて、ひたすら首を振った。それでもやめずに目を開き見続ける。うちはサスケの顔を。あいつではない、あいつの顔を。掻き回されて声が漏れる。止められるほど甘くはなかった。
『あいつの顔を見ていたい』
 おれはそう奴に哀願し、奴はそれを許した。そして今、目の前にはあいつの顔がある。
 表向きは後悔とそれを埋める為の哀願、実はあいつの身体を調べる為の手段。が、しかし。
 あいつの顔を見ながら、あいつでない奴に身体を任せる。
 それはおれにとって、新たなものを生み出してしまった。即ち、苦痛以外の感覚である。
 それまでの奴に背を向けた体勢では、苦痛しか感じなかった。苦痛だったからこそ、耐えることができたのだ。自分を蹂躙しているのはあいつじゃない。そう思いこんで。けれど。
 奴と向き合った時点でその図式はあっけなく壊れた。見上げればサスケがいる。あいつの手が、唇がおれの身体を彷徨っている。目を反らすことはできない。自分が今どのような状態にあるのか、嫌でも思い知らされた。大きく足を開いて、サスケを受け入れている。あいつとは違うと頭でわかっていても、身体はそうはいかなかった。
 抱かれる度に思いだしてしまう。あいつを拒絶した時のことを。そのあとのあいつの顔を。向けられた背中を。
 心底悔やんでいる。どうしてよく考えなかったのだろう。いつものあいつじゃなかったのに。おかしいと思っていたのに。どうして。
「んっ・・・・・あ・・・・はあっ」
 こうすればよかったのだろうか。おまえを受け入れて。その後で話を聞いて。そうすればこんなことにはならなかったのだろうか。


 会いたい。


 気持ちがぽとりと落ちてくる。おれの本当の気持ちが。認めざるを得ない。
 そうだ、おれはおまえに会いたい。会って、謝りたい。おまえを撥ね付けてしまったことを。そして、おまえと話したい。おまえの話を聞いて、おれの本心を言って。 


 おれの、本心。


 ふと気づく。どうしてきちんと話して欲しかったのか。なんでこんなことまでして、あいつを取り戻したいのか。あいつの顔を見ただけで、身体が感じてしまうのか。


 そうか。好きなんだ。


 答えに自分でも納得する。見上げればサスケの顔。おれを見つめ、嬉しそうに笑んでいる。
 あいつじゃない。
 あいつじゃないんだ。でも。
 息づかいも、汗のにおいも、まさしくあいつ。
 あいつのものだ。


「  」
 

 溢れくるものを抑えきれず、ついにおれはその名を呼んだ。




「いい顔をするようになったわ」
 耳元に囁き。ぼんやりとした意識の中で聞こえる。
「サスケ君がそうさせてるなら、冥利に尽きるってとこね」
 いつもの小馬鹿にしたものではない声音。心なしか優しく感じる。
「ご褒美をあげる」
 確かに耳に響いた。何かと目を開ける。
「・・・・・・」
 しばし見つめあった。目の前に漆黒。大きく見開かれている。引き結ばれた唇。息を忘れているようだ。
「・・・・・ナルト・・・・」
 急速に意識が戻ってきた。身体が離されようとしている。結わえられた手を相手の首に回した。しっかりとしがみつく。
「・・・う、ああっ・・・」
 相手が起き上がろうとした為、繋がった部分が大きく動いた。思わず仰けぞる。ぴたりと動きが止まった。どうしたらいいかわからない。と、いった顔が見つめている。
「起こしてくれ。ゆっくりだと、大丈夫だから」
 微笑んで言った。こんなの大したことない。おまえなら。
 そろそろと背中にあいつの腕が回り、ゆっくりと身体が起こされた。膝の上に座った形になる。交わりが深まり、顔を少し歪めた。心配そうに覗きこまれる。再び結合が外されようとした。しがみついて首を振る。困惑した瞳が向けられた。
「いいんだ」
 息をつきながら、言う。
「ナルト?」
「いいんだよ。それよりサスケ、ごめん・・・・・」
 身体を密着させた。頬にあいつの肩。温かい。
「・・・・何を・・・・」
「あの時、一方的に拒んですまなかった。おまえの話も聞かないで」
 目の端に見つけた。項の下に印。紅く浮かび上がっている。
「サスケ。おれ、本当は・・・・」
 身体を離して見つめた。言いかけてやめる。そこにあいつの表情はなかった。見慣れた、酷薄な表情。
「残念ね。ご褒美はおしまい」
 生けどった獲物を前に、奴がにやりと笑った。
「おもしろい格好をしているのね。まだ抜いてないんだ」
 がしりと腰が掴まれた。揺らされる。暴れ回るものが、急速に思考を奪ってゆく。
 耐えられるだけの余裕はなかった。身体的にも。精神的にも。
 ただ声を散らし、乱れ続けるしかなかった。

 
 ずるずると身体を引きずられる。陥ちていた意識が浮上してきた。鳥の声。朝だ。
「何をした」
 カカシ先生の声。隠しきれない怒気を孕んでいる。
「何も。寝てるだけ。ちょっと苛めちゃったのよ」
「こんな状態では、今夜は無理だ」
「わかってるわ。明日でいいわよ。供物は大切に使わなきゃね」
「連れてゆく」
 ゆっくりと身体が引き起こされた。おれに与える影響を最小限にして。膝の裏に手が差し入れられ、抱き上げられた形になった。格子の締まる音。口呪が聞こえはじめた。
 帰るんだな。
 ぼんやりと思った。周りの空間がぐにゃりと歪む。次の瞬間、すべてが白くなった。




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