■『燃える椿の下で』ACT11 対応作品■


愁眉
byつう

 ねじれるように乱れた敷布が、いましがたまでの行為のあれこれを如実に物語っていた。
「……どうしたんです。今日は」
 心配そうな声で、カカシが言った。イルカは夜具に沈んだまま、しばらくは目を開けることもできないでいた。
 四肢が重い。鼓動がやけに大きく聞こえる。目の奥がじんじんと熱かった。もちろん、カカシを受け入れていた場所も。
 痺れるような感覚がほんの少し収まってきて、イルカはやっとまぶたを上げた。眼前には、見慣れた顔。
「なんだか、昔のあんたみたいでしたよ」
「昔?」
 かすれた声で、問う。カカシはわずかに口の端を持ち上げた。
「ええ。俺が里を空けるたびに、不安定になってたころの」
 そうかもしれない。ナルトの帰りを待つだけの日々は、想像していた以上につらいものだった。むろん、いちばんつらいのはナルト自身だというのはわかっているが。
 このところ、ナルトの様子が変わってきた。以前は身体的なダメージが大半で、それに耐えるのに必死になっていたが、ここしばらくは精神的にかなりまいっているようだった。
 なにか大蛇丸に心理的な攻撃を加えられたか。そう思ってナルトが眠っているあいだに意識の裏を調べてみたが、その類の細工をされた形跡はない。とすれば、この変化の原因はなんなのだろう。
 考えられることが、ひとつ。
 四、五日前から、ナルトは背中に擦傷を負ってくるようになった。それはつまり、大蛇丸が対面で事を行なっているということだ。
 助けたい。取り戻したい。切にそう願っているサスケの顔を見ながら、サスケではないものに身を供す。ナルトにとっては、地獄以外のなにものでもない。
 一刻も早く印を見つけて、滅しなければ。だが、自分が手を出すわけにはいかないのだ。カカシが言っていたように、それはナルトの仕事だから。
 何度も何度も、自分に言い聞かせる。流されてはならぬ、と。
 一時の感情に負けて法(のり)を越えてしまったら、歯止めがきかなくなる。きっともう、忍として生きていくことはできないだろう。いや、人としてすらも。
「不安定……ですから」
 ぼそりと、イルカは言った。
 ナルトがいないあいだの自分は、つい余計なことを考えてしまう。あらゆる場面を想定して、そうなったら次はどうなるか、どうすべきかシミュレートして。
 自分でもいやになる。だから今夜は、そんな自分を壊したかった。カカシが誘ってきたのをいいことに、それに甘えてしまった。
「まあ、わからなくはないですが」
 カカシは小さく息をついた。
「あしたは、大丈夫?」
 ふた色の瞳が問いかける。イルカは頷いた。
「……はい。たぶん」
「それはよかった」
 長い指があごにかかる。唇が降りてきて、重なった。
「ほんとに、別人みたいだね」
「別人って……おれがですか」
「そ。ふだんは、とーっても厳しいのに」
 にんまりと笑って、さらに唇を近づけてくる。イルカはなんとかそれを押し返した。
「あらら。つれないんですねえ。さっきはあんなに積極的だったじゃないですか」
 たしかに、そうだ。なにも考えたくなくて、わざと自分を追い込んだ。追いつめて、追いつめて。あのまま意識を手放してしまいたかったのに。
 イルカは起き上がった。先刻脱いだ夜着に手をのばす。
「駄目ですよ」
 カカシの手が、それをさえぎった。
「今度は、俺の番です」
「どういう意味です」
「言葉通りの意味ですよ」
 言いながら、カカシはイルカの手首をひねり上げた。
「……!」
 ふたたび夜具に倒される。乱れたままの敷布の上に。
「今度は、俺があんたをもらう」
 低く、深い声。指が肌の上を滑っていく。唇と舌がそのあとを追う。新たな熱を求めて。
 イルカは抗わなかった。カカシから得たものに自分がどれほど満たされたか、十分にわかっていたから。
 能動的な交わりとは違った刺激が全身に走る。細やかな愛撫が鎮まりかけた体を目覚めさせる。内部はもう、そのときを待ち受けていた。
 首に手を回す。脚をさらに大きく拡げる。するりとカカシが入り込む。
「……は……ん……っ……ああっ…」
 動きが声をいざなう。もう隠しようがない。
 おれのほしいあなたと、あなたのほしいおれと。
 それらが循環している。いま、この瞬間に。



 夜は過ぎ行く。
 月が山の端に消えるころ、ふたりは互いを互いの中に感じながら、眠りについた。



(了)



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