夜明けの猫  by 近衛 遼




 そっとポケットをさぐり、メモを取り出す。
 霞洲翁の本。その五巻目が明日、「竹林堂」に入る。
 業者が来るのは十時。ちゃんと納品書にサインして、受け取って。そして……。
「おーい」
 うしろから、声。
「なに?」
 馨は振り向いた。
「風呂の湯、入ったぞ」
「そ。じゃ、一緒に入る?」
「え、あの、それは……」
 大亮は顔を赤らめた。
 なんだよ。それぐらい、いいじゃん。
「そういうのって……イヤ?」
 ちょっとワザを使って言ってみた。
「……んなワケ、ねえだろ」
 たっぷり十秒のちに、大亮は言った。


 シャワーの音。流れる湯。それを浴びながら、馨は大亮の中心を丹念に育てた。ゆっくりと、何度も。
 のどの奥にそれが当たる。でも、まだ満足していない。
 持ち上げて、からめて、吸い上げて。奥にあるものを呼び起こしているのに。
「……どうしたの」
 顔を上げて訊く。
「これじゃ、ダメ?」
「いや、あの、そうじゃなくて……」
 大亮は馨の体を引き上げた。
「……て……ほしいんだけど」
「え?」
「おまえが、さきに……」
 告げられた要求。それに、全身が震えた。
 手が。舌が。ありとあらゆるところに伸びていく。触れるだけの箇所もあれば、痛いほどにきつく扱われる箇所もあって。
「……っ、は……っ……ひっ……」
 どうして、そんなところまでいくんだ。いい。もう、いかなくていい。それ以上は……。
「あ……っ、あ……うっ……んっ」
 視界が狭くなっていく。前にも経験していたはずなのに、それとはまったく違う。
 溢れた。おもてに出てしまった。それを受けとめられて、さらに。
「……ど……して……」
 声がかすれる。
「どうして……」
「……いいから……このままで」
 するりと指が動いた。中をおのれの蜜で満たされる。
「んっ……ふっ……ううんっ」
 敏感な部分を刺激された。そのままでいられるわけがない。
「あ……あああっ……」
 深く沈める。そんなものでは足りないことは、体が知っていたけれど。
「まだだ」
 耳元で言われた。
「まだ……待ってくれ」
 それが訪れるまで。
 馨は頷いた。やがて。
 中を溶かすものが踏み込んできた。強く、激しく。
 痺れていた。ほかにはなにも感じられなかった。そのまま、自分などなくなってもいいと思えるほどに、馨は大亮の情熱を受け止めていた。


 白々と夜は明ける。交わした熱が冷めていく。体のそれがおさまって、心の充足が濃くなって。
 ふたりはベッドの上に移動していた。体温がその交流を証明する。
 夜明けにはすべてが終結し、ふたりはまた、新しい朝を迎えた。

   FIN.

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