| *注意:この作品はつうの桃白SS「花」シリーズの設定で書かれております。 従いまして、できましたら「花」シリーズを先にお読みいただければ嬉しいです。* 淡雪の天に消えゆく byつう ACT1 〜再不斬〜 すべて差し出せるかと訊いた。淡雪の舞い散る中で。 おまえは頷いた。まばたきすらせずに。 あの日から。 おまえは俺とともに在る。 「白」 名を呼ぶ。 「はい」 おまえは答える。いつものように、わずかに首をかしげて。目で命じると、ゆっくりと夜具の上に進んできた。 「再不斬さん」 問いかける声。そうだな。明日は霧隠れの里に入る。大事の前だ。そんなことはわかっている。しかし。 帯に手をかけた。夜着の前を開き、そのまま倒す。 確かめたかった。この手の中にあるものを。おまえという存在を。 白くなめらかな肌を捕える。てのひらに、指に、馴染んだその感触。伝わる熱が、いま自分が居る場所を教えてくれる。 徐々に熱が高まる。下肢のあいだに指を進める。中はさらに熱く息づいている。 ひざが上がった。開かれたその場所に入り込む。深く、深く。 しばらく、そのままでいた。焦らすつもりなどなかった。ただ隅々まで感じたかった。おまえの中にいる自分を。 黒目がちの瞳が揺れている。つらいのだろう。それでも、唇は言葉を発することはなかった。ただ、苦しげな息を漏らすだけで。 背を抱いて、上体を起こす。白は再不斬の肩にすがりついた。 「……っ……ん……ああっ…」 耐えきれなくなったのか、声があふれた。角度が変わる。内壁をなぞるように動かした。強烈な刺激。腰を引きつけると、細い体は何度も痙攣を起こしたように震えた。 「いい子だ」 耳元で囁く。白はやっと安心したように、微笑んだ。ゆっくりと、自ら動き出す。 『再不斬さん……』 薄紅色の唇が動く。明確な音にはならないが。 それだけでよかった。おまえが俺の名を呼ぶ。俺を求めている。それだけで。 『だれかに必要とされたいか』 真摯な瞳を向けるおまえに、俺はそう言った。 『俺のために、すべて差し出せるか』 なにもかも。 心も体も命も、魂さえも。 もし、おまえがそれをくれるなら。俺は「鬼」となってよかったと思った。 霧隠れの里の学び舎は、人であっては生きていけぬ世界だった。否。人を排除するための場所だったと言ってもいい。 忍となるために、日夜苦しい修錬を積んできた者たちの半数が、たかが「卒業」のために命を落とす。 そんな馬鹿なことがあるかと思った。ついきのうまで、ともに学び夢を語った仲間を殺さねばならないなどと。 忍とは非情なものだ。心など持っていてはやってゆけぬ。それはある意味、真実であろう。だが。 そんなことは、命のやりとりをするいくさばで会得するものであるはずだ。しかるに、霧隠れの上層部は「無駄」だと判断した。たとえ「下忍」であっても「忍」と名がつくからには、即戦力となる者でなければ意味はない。それゆえ、学び舎の「卒業」の際に、あのような方法を取っていたのだ。 使えない忍は要らないのか。なら、俺が全部、始末してやる。 「使える」忍は俺ひとり。これで文句はないだろう。 仲間を殺して、殺して、殺して……。 こんな思いをするのは、この俺が最後だ。 そうして、霧隠れの里の卒業試験は大改革を余儀なくされた。ひとりの鬼人の出現によって。 規則正しい寝息が聞こえる。月明りに浮かぶ頬は、ほんのりと色づいて。再不斬はその穢れのない面(おもて)を見下ろした。 白。 俺は、本当にいい拾い物をした。あのときおまえに会わなければ、俺はとうに自分を失っていただろう。夢も、理想も、そのために払う犠牲も。 おまえのおかげだ。おまえが居たから、俺はいま、ここにいる。おまえが、俺とともに血の海に沈んでくれたからこそ……。 『だれかに必要とされたいか』 白に向けたあの言葉は、自身への問いでもあった。 必要とされたかったのは。だれかを、なにかを求めていたのは。 それはだれでもない。おのれであったのだ。 格子の外で、ちらちらと雪が舞いはじめた。淡く頼りなげなそれは、一陣の風に乗って、まだ明けぬ空へとのぼっていった。 ACT2へ |