*注意:この作品はつうの桃白SS「花」シリーズの設定で書かれております。
 従いまして、できましたら「花」シリーズを先にお読みいただければ嬉しいです。*






淡雪の天に消えゆく       byつう







ACT2 〜白〜



 すべて差し出したいと思った。
 必要とされるならば。心も体も命も、なにもかも。
 全部、あなたのものになる。この血の、最後の一滴までも。




『水影の動向、知りたくはないか』
 そう言って霧隠れの上忍のひとりが近づいてきたのは、かれこれひと月前。再不斬はその話に乗り、明日、数年ぶりに里の土を踏む。
 罠ではないか。その疑いは多分にあったが、もはや手段を選んでいる暇はないと、再不斬は判断したのだろう。
 先のクーデターの折、再不斬に従って野に下った者たちも、その半数はすでに亡い。残った者に報いるためにも、なんとしてでも水影の首を獲らねばならぬ。
 以前にも何度か立ち寄った古い猟師小屋に、ふたりは潜んでいた。
 入念に武器の手入れをする。いかなるときにでも、どんな命令にも即座に対応できるように。
「白」
 名を呼ばれた。
「はい」
 千本を置き、顔を上げる。再不斬は夜具の上に胡坐していた。その目が要求を告げる。
 白はゆっくりとひざを進めた。いいのだろうか。明日の大事の前に、このような……。
「再不斬さん」
 自分はかまわない。あなたがそれを欲するならば。しかし今夜は、少しでも休息をとっておいてほしい。
 再不斬の手が帯にかかった。するりと解かれ、夜着の前が開かれる。ふたりはそのまま、夜具に倒れた。




 幾度こうして肌を合わせただろう。あなたに求められて。そのたびに思う。しあわせだ、と。
 生きることも死ぬこともできなかったこの身を、あなたは拾ってくれた。生きる意味も、死ぬ意味も、あなたが与えてくれた。あの日。
『だれかに必要とされたいか』
 必要としてくれるの。
『俺のために、すべて差し出せるか』
 受け取ってくれるの。ぼくを。
 まばたきすら、できなかった。目をつむっているあいだに、あなたが消えてしまいそうで。
 頷いて、立ち上がった。まっすぐにあなたの側へ行く。大きな手が、頭を撫でる。
『今日から、おまえの血は俺のものだ』
 がっしりと掴まれる肩。
『ついて来い』
 あの手のぬくもり。あの腕の力強さ。それはいまも同じ。




「……っ……ん……ああっ…」
 もう、抑えられなかった。肩にすがりついて、声を散らす。内部で荒れ狂う情炎。腰から背中に刺激が這い上がり、体ががくがくと震えた。
「いい子だ」
 耳元で、声。低く深く、染み込んでいく。白は微笑んだ。すぐ横にある、大切な人の顔を見つめて。
 ゆっくりと体を浮かせた。ぎりぎりまで上がった熱を、いったん冷ますために。そして、もう一度呼び覚ますために。ゆるやかな流れを作り、あなたが望む岸へと辿り着く。
『再不斬さん……』
 ふたたび流れに身を投じた。ひとつ処へと向かって。
 交わされる熱。溶ける息。あなたの全部をこの身に受けて、ぼくはあなたの一部になる。




 格子の隙間から、うっすらとした光が差し込んでいる。遠くで、鳥の声。まもなく夜明けだ。
 いよいよ、今日。霧隠れの里へ。この人の夢のために。
 白は衣服を整え、土間へと下りた。閂を外して外を窺う。
 ひんやりとした空気が、小屋に中に入ってきた。あたり一面に薄く雪が積もり、朝の光がきらきらと輝いている。
 名残りの雪。おそらくは最後の……。
 そっと両手ですくってみた。淡くやわらかなその雪は見る間に解けて、指の隙間から落ちていった。



  (THE END)


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