行月byつう

ACT2〜龍頭砦〜
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セキヤは加煎の帰りを待っていた。
密書を預けたのは、昨夕。夜明けまでには返書を持って帰ってくるはずだった。
東の空が白みはじめた。鳥が枝を渡る音が聞こえる。と、同時に、回廊を歩いてくる衣擦れの音。
外から声がかかる前に、セキヤは戸を開けた。
「ただいま戻りました」
加煎だった。
「首尾は」
「上々です」
「よし。すぐに発つ。あとは頼む」
「御意」
長衣の裾をつい、と捌いて踵を返す。セキヤは房に戻り、武具を確認した。
セキヤたちが連山の北端にある龍頭の砦に入ってから、もう一カ月になる。
龍頭は古い砦で、装備もそれほど強固ではなかったので、今回のいくさでは実質的な役割はほとんど負っていなかった。強いて言えば、木の葉が北方に築いた新しい砦の見張りといったところか。
「まさか番犬扱いされるとはね」
憮然として、セキヤは言った。
「兵部は、あなたを惜しんでいるのですよ」
加煎が淡々と言った。
「なにしろ、あなたは『朱雀』ですからねえ。兵部にとっては掌中の珠のような存在でしょ」
「オレはあんなジジイに操を捧げる気なんかないよ」
セキヤは連山の地形図を広げた。
「兵部がオレたちをここに置いておく理由はわかってる。けど、それはあっちの都合だからね。知ったこっちゃないよ。問題は、西方の砦を巡って雲と木の葉がぶつかったとき、オレたちがここにいちゃ意味がないってことだ」
セキヤは西方の砦までの最短ルートを示した。
「西方にあの男の部隊が投入されたら、すぐにここを出る」
あの男。すなわち、「写輪眼のカカシ」。
「そのためには、龍央以北の木の葉の部隊と、いつでも停戦できるようにしておかなきゃいけない。……加煎」
セキヤは目で指示を出した。
「わかりました。さっそく、打診してみましょう」
加煎は翌日から、連山に点在する木の葉の砦に接触を試み、内々の取り引きを進めていった。
しばらくのち、物見から、はたけカカシの率いる中隊が西方の前線に入ったという報告が届いた。セキヤは即刻、停戦を促す密書を木の葉側の砦に送った。龍央以北の隊を総括しているのはガイという名の上忍で、義を重んじる好漢だった。セキヤの書状に、ガイは「諾」と返答した。
醍醐と加煎に龍頭の砦をまかせて、セキヤは西方近くの前線に到着した。
布陣は明らかに乱れていた。指揮系統は混乱し、雲の国のつわものたちも忍も浮き足立っている。
木の葉の部隊は十日あまりにも及ぶ包囲の中で辛抱強く応戦し、本日未明に一斉に撤退したという。
「それで、どうしてこんなに混乱してんのよ」
セキヤは訊いた。物見の仲間は、蒼白な顔をして事実を報告した。
銀髪の忍が、ひとりで大隊を全滅させた、と。
やってくれるねえ。
セキヤは思った。部下を逃がして、自分だけ残ったってわけだ。で、大隊を全滅かよ。
もっとも、その鬼神のごとき忍も、いまは砦の北壁に孤立しているという。
セキヤはその場所に急いだ。あの男のことだ。ぎりぎりまで引きつけて、もろともに自爆するかもしれない。おのれの屍を、欠片ひとつも残さぬように。
雲ひとつない蒼天の下。セキヤは彼を見た。
銀の髪、ふた色の瞳。
片方の脚はすでになかった。焼けただれた土の上に、岩にもたれてすわっている。
だれひとり、近づけなかった。皆、遠巻きにして微動だにしない。
「俺が行く。俺にしか、できないからな」
セキヤは自分がこれから為すことを刃に告げた。写輪眼を余人に渡すわけにはいかない。
「わかった」
刃は唇を結んだ。
「半径五十メートル以内は巻き添えになる。無傷でいては兵部に疑われるだろうが、余計な怪我はするなよ」
「直撃を受けなければいいんだろ。できるよ」
「頼む」
セキヤは囲みの中に入った。強烈な気。全身がびりびりと震えた。
一歩一歩、近づく。
一間ほど離れた場所で、立ち止まった。
「遅いよ」
銀髪の忍は言った。ひどくかすれた声で。