行月byつう



ACT1〜龍尾連山〜

 空が、青い。
 雲ひとつない晴天だ。連山の山なみは錦に染まり、それが蒼天とあいまってあでやかに浮かび上がっている。
 あと、どれくらいもつかな。
 草も木も根こそぎ倒され、焼き尽くされた一帯。その真ん中あたりの岩陰で、カカシはひとり、考えていた。
 まったく、雲の国にしては品のないことをしてくれて。
 先代の国主や丞相が化けて出るかもしれない。消耗戦とさえ言えないような、ひどい戦い方だ。
 鉄砲玉ばかりを投入し、それこそ日に何百もの命を使い捨てる。まさか雲の国が、こんなやり方をするとは思わなかった。
「もう少し早く、見切りをつければよかったんですかねえ」
 カカシは胸のあたりをさぐりつつ、そこにいるイルカに語りかけた。
「ここに至っても、やつが出てこないなんて思ってませんでしたからね。兵部に謀られましたよ」
 雲の国の兵部尚書は、「朱雀」の組織を傭兵として雇ったにもかかわらず、なぜか最前線には配置しなかった。西方の砦を巡る攻防が始まってからも、いちばん遠い龍頭の砦に「朱雀」の隊を留め置いたままだ。
「あいつら、もう包囲を抜けたかな」
 夜明けとともに、カカシは配下の中隊を南回りのルートで脱出させた。補給の途絶えたいまとなっては、それが最善だと判断したから。そして追手を食い止めるため、網を張った。
「まあ、ここにこれだけいるってことは、あいつらは無事でしょうね」
 カカシの周りには、二百を超えるつわものや忍が集まっていた。もっとも、その半数はすでに骸となって、あちらこちらに散らばっているのだが。
 もう半日あまり、カカシはひとりで戦っていた。
 いや、正確に言えば、ふたりで。
 ずっと一緒だった。いまも側にいる。満身創痍の銀髪の上忍を支え、穏やかに微笑んでいる黒髪の中忍。
『大丈夫ですよ』
 やさしい声がする。
『あんたも、みんなも』
 そうですね。あなたが言うなら、間違いはない。
 カカシはふたたび天を仰いだ。高く蒼い空。なんて奇麗なんだろう。風までもきらきらと輝いて見えるようだ。
 そのとき。
 つん、と、一条の波動がカカシの脳裡に届いた。十間ばかり離れて取り囲んでいたつわものたちが、ざわざわと列を乱して移動した。
 ぽっかりと空いたその空間に、あざやかな朱が見えた。濃い縹色の空に、緋色の髪がひときわ目立っている。
 やつだ。やつが、やっと来た。
 カカシは朱髪の男を見据えた。ゆっくりと近づいてくる。たったひとりで、剣も抜かずに。
 一間ばかり離れたところまで来て、男は止まった。
「遅いよ」
 カカシは言った。声が、自分の声ではないようだった。さっきの攻撃でのどもやられたかな。いや、鼓膜が片方、破れたのかも。
「すまん」
 男は答えた。つらそうな顔だった。
「もっと早くに来たかったんだが、動けなくてね」
「へえ。あんたもか」
「こんな馬鹿げたいくさになるとは思わなかったよ」
「同感だ」
「ま、いくさってのは、たいてい馬鹿馬鹿しいもんだけどさ」
 男は焦土色の目をわずかに細めた。
「このままでも、あと一刻ともたないと思うけど……どうする?」
 それは自分でもわかっていた。あちこち骨折しているし、内蔵のダメージも大きい。片脚は先刻の爆風でもげてしまった。出血はもう止めようがない。
「あんたは、どうしたい?」
 逆に、訊いてみる。
「やなやつだね、あいかわらず」
 男は苦笑した。
「朱雀」
 カカシは男の名を呼んだ。自分が知っている名を。
「なんだ?」
「この眼……ほしいか?」
 真紅の瞳。千以上の術をコピーした、写輪眼。
 男はまじまじとカカシを見た。
「ほしいと言ったら、くれるのか」
「やるよ」
 あっさりと、カカシは言った。

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