今、この時がどれだけ続くかわからない。
 夢の終わり。あいつを得てから、それは常に俺の頭にあった。
 この世に永遠なものなどない。それでも。
 俺は、あいつを手離すことは出来ない。






言えない言葉 〜サスケ 〜    by真也






「次も、長引くだろう」独り言のように、俺は言った。
 ナルトがゆっくりと、上体を起こす。未だ潤む瞳。目尻が紅い。物憂げにため息をつく。ついさっきまで、あの息を奪っていた。白い肌に所有の印を刻み、わななく背をこの腕に抱いた。
「岩も砂も、民が餓えきっている。戦いなんて、している場合じゃないのにな」
「上に立つ奴らは、そんなこと考えてもいない。兵の命も、使い捨てだ」
 思い出して、嫌悪に吐き捨てる。手段を選ばない砂と岩の忍ども。女でも子供でも、爆薬を抱いて迫ってくる。彼らが純粋にそれを正義だと信じているだけに、虚しさが拭いきれない。捕虜にしても、自害するだけだ。
 視線に気付く。不安げな顔。心配させてしまったらしい。
 微笑んで、見つめ返した。ナルトも微笑む。お前には、笑っていて欲しい。
 引き寄せて、口づけた。額に、頬に、唇に。熱い舌が、応えてくれる。
「ま、お前は違うけどな」
 濡れた唇を見つめ、囁いた。
「行きたい」
 消え入りそうな声。泣きそうに顔を歪めて、あいつが言う。
「おれも戦いたいよ。その方が、どれだけ楽か・・・・」
「馬鹿」
 聞くのが辛くて、頭をはたいた。それ以上聞いたら、自信がない。聞きたくて、仕方がない自分。困り果てて、眉にシワを寄せた。
「お前には、お前の役割があるだろう。戦うのは、俺がやる」
 唇を額に落として、立ち上がる。羽織っただけの夜着を落として、忍服に袖を通した。
「性に、合わねぇよ」
 震える声。顔は見なかった。振り向かなくても、どんな顔かわかっているから。気持ちを悟られないように、固い声を出す。
「自分からやると言ったんだろうが。何、言ってる」
「お前と任務やってた方が、よかった」
 寂しげに言う。何とかしてやりたい。
 沸き立つ感情をため息で誤魔化し、ナルトのもとへ行った。目の前に屈みこみ、両手で頬を包む。
「いつまでも駄々こねんな。・・・・・こうして里に帰ったときは、一緒にいるだろう」
「・・・・・足りないよ」
 堪え切れず、歪む顔。俺と同じ、心の痛み。それでも、言わなければならない。
「こら、火影。弱音吐いてんじゃない」
 悔しそうに、口角が下がった。拗ねたような目。それさえも、惹きつけられる。
「その火影抱いてんの、どこの誰だよ」
「うちはサスケだ」胸を張って言った。
 お前を抱くこと。俺の喜び。ただ一つの、俺の誇り。





 ほぼ一年前、ナルトは火影になった。満場一致の結果とはいえ、内外に問題を抱えている。里の中はサクラと長老上忍に任せるとして、外は油断ならない状況だった。俺は戦力の要として前線に立ち、何ヶ月かに一度、里に戻れる生活を送っていた。
 多忙なお前。時間が取れないのは、わかりきっている。無理も言えない。それでも、諦めようとする俺を、お前は救ってくれた。あるときは抜け出して。またあるときは遠駆けの術で。いちばん求めているときに、お前はいつも現われてくれた。
 『会う』という、ごく簡単なこと。なのに、それが最も困難だった。写輪眼など、ものの役に立たない。虚しいくらいに。
 今度の逢瀬も半分、覚悟していた。帰還の報告はしたが、里の情勢も分かっている。外交、執務、政り事。どれも、里にとっては大切なものだ。
『今夜は、家にいてね。何とかなるかも』サクラが言った。手をこまねくことしか出来ない自分。気持ちを押さえるだけで精一杯だった。
 思い知らされてしまう。おまえと在れたことの奇跡。もっと、大切にすればよかった。でも、もう遅い。



 絡みつく運命を断ち切り、あいつを奪う。
 それは、してはならない。



 ふと見ると、ぼんやりとしていた。たよりなげな表情で。 
「おい」手を出した。ナルトが慌てて髪を掴む。
 差し出された金色の髪。柔らかく、美しく光る。お前の分身。
「サンキュ」微笑んで受け取る。口づけて、ズボンのポケットへ。もう定着してる、あいつの場所。
「今度、アンが任務に出るんだって・・・。サクラが、心配してたよ」
「そうか」
「早いもんだな。つい最近まで、ただのガキだったのに。もう下忍だってさ」
「そうだな」



 ずいぶん長い間、俺達は共に戦ってきた。
 今も戦っている。二人、同じ場所にはいられないだけで。
 同じ心で、戦い続けている。



「無理、するなよ」すがりつくような瞳。
「こら、誰に言ってる」胸の痛みを堪えて、軽く睨んだ。
「はは。そうだよな」
 泣き笑いに、歪んだ顔。
 我慢できなくて、抱きしめた。掠いたい。このまま二人で、行ってしまいたい。何もかも捨て去って。誰に何を言われても。邪魔するものを全て、殺しても。
「俺は、帰ってくる」
 必死で囁いた。
「岩も、こちらの出した降伏条件に乗り出してきている。国力も底をついているから、後一押しだ。次でカタがつくだろう」
 自分に言い聞かせる。平和になれば、もっと会えると。その日まで耐えられると。
「今度帰ったら、あの家に行こうぜ」
 絞り出すように、あいつが囁く。背にまわされた手。言葉が出なくて、強く抱いた。





『一緒に、いたい』
 喉の奥で渦巻く。
『一緒に、いたい』
 僅かでも気を緩めれば、漏れ出てしまう。
『一緒に、いたい』
 言えない言葉。





 心に封じ込めて、あいつに背を向けた。



「お互い因果だが、よろしく頼む」
 集合場所で、ネジが言った。
「ヒナタは、順調なのか」
「ああ。もう三人めだから、心配はしていない」
「・・・・帰らないとな」
「もちろんだ。貴様、変わったな」
「そうか?」
「そうだ。それでは、あの人のようだ」
「・・・・・そうだな」


 俺は背筋を伸ばし、自らの戦場へと歩きだした。


END


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