今、この時がどれだけ続くかわからない。
覚悟は出来ている。それが夢であるかぎり、終わりは必ずやってくるのだと。
それでも、おれは諦めたくない。
最後の一瞬まで、この夢を引き伸ばしてみせる。
言えない言葉 〜ナルト 〜 by真也
「次も、長引くだろう」ぽつりと、サスケが言った。
おれは余韻のさめやらぬ頭のまま、上体を起こした。目の前にあいつの腕。羽織られた夜着のしたから、顔を覗かせている。ついさっきまで、この腕がこの身を抱きしめていた。長くしなやかな指は翻弄し、薄めで形のいい唇は声を奪っていった。
「岩も砂も、民が餓えきっている。戦いなんて、している場合じゃないのにな」
「上に立つ奴らは、そんなこと考えてもいない。兵の命も、使い捨てだ」
横を向いたまま、あいつが吐き捨てる。命を捨てることを厭わない砂と岩の忍びたち。なりふりかまわずのゲリラ戦法に、余程手を焼かされているのだろう。
ふと、視線が合った。あいつがふわりと微笑む。おれの好きな、あの笑顔。
引き寄せられて、口づけられる。額に、頬に、唇に。甘く、舌を絡めた。
「ま、お前は違うけどな」
唇を離して、そっと囁く。
「行きたい」
思わず漏れた。自分に苦笑しながらも、言葉を継ぐ。
「おれも戦いたいよ。その方が、どれだけ楽か・・・・」
「馬鹿」
ポンと、頭をはたかれた。見上げると、眉にシワを寄せている。怒っているような、困っているような顔。
「お前には、お前の役割があるだろう。戦うのは、俺がやる」
額に唇を落として、サスケが立ち上がった。夜着を滑り落として、忍服に袖を通す。
「性に、合わねぇよ」
引き留めたくて、本音を吐いた。みっともない。それでも。
「自分からやると言ったんだろうが。何、言ってる」
「お前と任務やってた方が、よかった」
恨みごとのように言う。本当に馬鹿だ。おまえのせいではないのに。
ため息一つついて、あいつがこちらにやってきた。目の前に屈みこみ、両頬を手で囲む。
「いつまでも駄々こねんな。・・・・・こうして里に帰ったときは、一緒にいるだろう」
「・・・・・足りないよ」
堪えても、顔が歪んでしまう。笑うなんて、できない。
「こら、火影。弱音吐いてんじゃない」
諭すような口調。何故だか、悔しい。自分だけ未練があるようで。意地になって、言い返した。
「その火影抱いてんの、どこの誰だよ」
「うちはサスケだ」口元が弧を描いた。奇麗な笑顔。
一番好きな顔なのに、胸がつまった。
ほぼ一年前、おれは火影になった。長の役割は多気にわたり、ひたすら多忙で、その日のことをこなすだけで精一杯だった。あいつも戦力の要として、常に前線に立っていた。何ヶ月かに一回、つかの間帰還しては戦場へと戻る生活。
時間が、無さ過ぎた。前に会ったのは半年前。里を離れていたおれは、遠駆けの術で夜を忍んで帰ってきた。その前はその四ヶ月ほど前。執務室に詰め込まれてたのを抜け出して、森の家へと二人で行った。
おれの決定一つで、木の葉の里全体が動く。なのに、ただ一つの事だけは、自由にならない。
今度の逢瀬も苦労した。帰還しているのは知っているのに、時間が取れない。外交、執務、政り事。焦り、苛立つ自分に辟易した。
『今夜はサスケ君、家にいるから』サクラが言う。遠話の術で、そっと耳打ちしてくれた。
『おれが宿直ですから、朝まで行ってきて下さい』リーが首肯く。心底、感謝した。
離れて初めて気付く、おまえと在れたことの奇跡。もっと、大切にすればよかった。でも、もう遅い。
絡みつく運命を、振り切って逃げることは、もうできない。
だからこそ。
「おい」手を出された。闇色の瞳が催促する。慌てて、項に手をやった。
伸びた髪を一まとめにし、小刀で切り取る。これは分身。お前と行けないおれの代わり。束ねられた紐ごと、手渡した。
「サンキュ」微笑んで、あいつは受け取った。口づけて、ズボンのポケットへやる。いつもの場所。
「今度、アンが任務に出るんだって・・・。サクラが、心配してたよ」
「そうか」
「早いもんだな。つい最近まで、ただのガキだったのに。もう下忍だってさ」
「そうだな」
ずいぶん長い間、おれたちは共に戦ってきた。
今も戦っている。二人、同じ場所にはいられないだけで。
同じ心で、戦い続けている。
「無理、するなよ」すがるように見つめた。
「こら、誰に言ってる」軽く、睨み返される。
「はは。そうだよな」
自分でもわかる。泣き笑いに、顔が歪んだ。
ふいに抱きしめられる。黒曜石の瞳。目の前で揺れる。泣きそうな、自分の顔が映っていた。
「俺は、帰ってくる」
囁きが、耳に落ちた。
「岩も、こちらの出した降伏条件に乗り出してきている。国力も底をついているから、後一押しだ。次で、カタがつくだろう」
言葉が出ない。どうしていつも、肝心な時に。不甲斐なくて、唇を噛んだ。
「今度帰ったら、あの家に行こうぜ」
背に手を回し、絞り出すように言う。返事の代わりに、強く抱かれた。
『一緒に、いたい』
喉の奥で渦巻く。
『一緒に、いたい』
僅かでも気を緩めれば、漏れ出てしまう。
『一緒に、いたい』
言えない言葉。
心に封じ込めて、その背を見送った。
切ったばかりの髪が、風に揺れる。また伸ばして。お前と行かせる為に。
おれは背筋を伸ばし、自らの戦場へと歩きだした。
END
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