たとえ、俺達を別つ時間が流れても。
 どれだけそれが、長くても。
 二度、三度。お前の前に立つから。
 その時。俺に、与えてくれ。
 欲しいものを。
 求めているものを。
 お前を。






冬麗     by真也






 静かだな。
 空を仰いで、俺は思った。
 もう何も、見えはしないのに。
 抉り出した両眼は彼女に託した。桜色の髪の、意志の強い口元と眉を持った下忍の少女に。
 『うちは』の命。写輪眼を渡すわけにはいかない。あれは、俺を創り出す為に必要なものだ。彼と、あの科学者に約束した。必要なものは全て渡すと。そのかわり、『うちは』を甦らせると。
 この体を渡すことはできそうにないが、写輪眼があればなんとかなるだろう。その為に、これまでサンプルを提供しつづけてきたのだから。
 今、俺のすべきこと。アンが無事に逃げ切れるように、できる限り多くの追っ手を殺すこと。簡単なことだ。写輪眼がなくたって、十分可能だ。
 ここは岩の国。周りの岩山たちが、俺に味方してくれる。飛び散った岩達は追跡の道をふさぎ、追っ手達の命を奪うだろう。その間に、白眼を持つ奴が、道を切り開く。
 初めて任務についたサクラの娘。生まれた時から知っている少女。必ず里にたどり着くよう、守らなければ。
 携えた眼と言葉。どちらもナルト。お前にあてたもの。
 お前の為に、俺は存在してきた。お前から全てをもらって。
「今度帰ったら、あの家に行こうぜ」
 戦いに出る前の晩。褥で囁きを交わした。貪るように求め合った交わりの後。苦労して割いた刹那の逢瀬で。
 小さな、森の家。二人の始まりの場所。一年ほど前に訪れた。火影になったばかりのナルト。会えなくて、それも役目と諦めて。眼を閉じようとしたときに、見慣れた碧眼が俺を覗き込んだ。
 一番もとめていたもの。離したくない、離れたくないもの。
 瞳と同じ色の空を背負って、俺のもとへ現れた。
 お前の瞳に俺が映るということ。この眼がお前を映すということ。それ以上に嬉しいことを、俺は知らない。
 あの日も晴れていた。冬の間の、風のない日。穏やかな空気。
 ちょうど、今日のような。
 ズボンのポケットに右手をやる。ナルトの髪を収める場所。いつも手がいってしまう。苦笑した。
 ふと、思い出す。奴のしぐさを。
 銀髪の上忍。蒼い瞳と、紅の眼を持っていた師。
 イルカ先生が亡くなった後、いつからか・・・・・。
 一人の時。話している時。カカシはよく、胸元を触っていた。まるでそこにあるものに、触れているかのように。
 いや、おそらくそこにあったのだろう。あの人の代わりになる、何かが。
「ちっ」思わず、舌打ちする。俺も奴と同じだなんて。
 仕方がない。俺が師と呼べるのは、奴だけだから。
 髪の束を取り出して、口付けた。あいつのにおい。
『連れてけよ』
 泣きそうな顔で、そう言った。
 言葉などなくてもわかる。一緒に、いたい。同じ夢を見て、お前の横で戦って。
 叶わなかった小さな願い。気が付けば二人、それができる立場ではなかった。
『無理、するなよ』
 あいつの顔が浮かぶ。
 不安な顔。笑う顔。怒る顔。泣き顔。俺を感じて、乱れる顔。
 どれもみな、脳裏に焼き付いている。
 いつも、活き活きとお前の命を映しだして。
 全部、目を奪われた。





「来たな」
 気配でわかる。近づいてくる。
 岩の国の忍。まわりを取り囲む多数のチャクラ。俺は補助印を切った。
 精神集中。風を起こして。全てを巻き込んで。
 複雑な手印。難解な口呪。このときの為に。
 引きつけて。
 引きつけて。
 引きつけて。
 口元だけで、にやりと笑った。
 禁術 『自爆砕』
 全てを吹き飛ばし、焼き尽くして。
 俺諸共に。





 ある冬の晴れた日。
 岩の国で大規模な爆発が起こった。
 巻き上げる突風と崩れ落ちた岩山の犠牲となり、恐るべき数の武将と忍、兵達が死亡したと聞く。
 この出来事がもととなり、事実上、岩の国は統一国家として壊滅した。
 現在は、小国が常に小競り合いを起こしている状態となっている。



 同じ日。木の葉の里の上忍が一人、殉職した。
 知らせを聞いた五代目火影はただ一言、『わかった』と呟いたという。



 忘れるな。



 俺は、戻ってくるから。
 必ず、還ってくるから。
 いつでも。何度でも。
 お前のもとに。

 

 だから、忘れるな。



 たとえ、俺達を別つ時間が流れても。
 どれだけそれが、長くても。
 二度、三度。お前の前に立つから。
 その時。俺に、与えてくれ。
 欲しいものを。
 求めているものを。
 お前を。

 

 忘れない。 
 輪廻の輪に組み込まれてしまっても、忘れやしない。
 たった一つのことだけは。



 欲しいのは、お前だけ。



end




『君への道』へ



あとがき>
まずは皆様へ、サスケを見守ってやってくださって、ありがとうございました。
大切なものを守るため、彼は精一杯やりました。
ただ、一つのことだけは叶えられなかったけれど。それでも、全力を尽くしてくれたと思います。ありがとう、サスケ。
真也拝


つうコメント>
里のために、仲間のために、そしてなにより愛する者のために。
サスケは自らの道を決しました。
サスケが遺したものが、どうかナルトに伝わりますように。
ふたりの道がふたたび出会う日を信じて・・・
これからもナルトを応援していきたいと思います。

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