『朝が来る』by真也

ACT9



 砦に迫っていた砂忍達を屠り、俺達はつかの間の安息を得た。その間にネジに解毒術を施す。
 念のため、虎頭の砦に集めていた中忍達を国境線上に置き、監視と防衛を申し渡しておいた。
「どうだ」
「貴様の解毒術はよく効いている。息も、楽になった」
「そうか」
「知らなかったぞ。貴様が毒に詳しいとは。やはり、暗部でか?」
「まあな」
 そう答えて、苦笑した。かつて、あの研究施設でシギに学んだこと。それが、こんな所で役に立っている。
「オレは大丈夫だ。・・・・・・あいつの所へ、行ってやれ。例え何も手伝えなくとも、そばに居てやることはできるからな」
 白眼が真摯に向けられた。首肯いて、踵を返す。前に進んだ。
 膨大に広がる防御結界。青白く光る。それを目の前に、あいつが立ち続けていた。
「大丈夫か」 
『ああ』
 言葉少なく、問いかけに応える。多分、遠話でさえも辛いのだろう。更に顔色が悪くなった。
 俺は拳を握りこむ。火影に匹敵する結界。木の葉を守りきる結界。それを成し得る力はナルトが望み、俺は応えた。
 結果、俺はお前にこれ程の苦行を強いている。
『くだらないこと、考えるなよな』
 いきなり言われた。思考が止まる。
『おれは自分でやるっていったんだ。修行も、この結界も。お前に言われて仕方なく、じゃない』
 怒ったように遠話が継がれた。
「そうだったな」
 思わず、自嘲に顔を歪める。見透かされていたようだ。
 確かにそうだ。全てが自分の責任だなどと。それこそ傲慢。あいつの意志を無視している。
「俺にできることはないか」
『そうだな。できたら、背中、支えてくれないか?もう、立つのしんどくてさ』
 俺は首肯いて、ナルトの後ろに立った。腕を回し、その身体を抱く。一回り細い肩。
 今、この肩に木の葉全体の運命が伸し掛かっている。背中から流れてくる重みと体温。想いを込めて、支え続けた。





『夕刻、西方の砦のガイから、そちらに向かうと報告がありました』
『では、朝には到着できるな』
『おそらくは』
『しかしエビス上忍、俺は火影に直接連絡をとったはずだが。これはどういうことだ』
『サスケ君。私が伝えていることは、全て火影様のご指示です。ただ・・・・』
『ただ?』
『君にだから言います。今の火影様の遠話では、そちらまで届きません』
『・・・・そうか。そこまで、なのか』
『はい。ですから今は、君たちだけが頼りです』
『わかった』
『では。また何かありましたら連絡します』
 遠話はそこで途切れた。どうやら、増援のメドはついたらしい。俺は胸を撫で下ろした。が、しかし。
『朝までか・・・』
 苦笑しながら思う。辺りにはもう、暗闇が押し寄せていた。窓から外を視る。遠くに篝火。高まってゆく殺気。 
「そろそろ動きだす頃だな」
 ネジが簡易食料を手にやってきた。
「もう動いていいのか」
「当然だ。日向の能力を舐めてもらっては困る。気を通し直して、完全に解毒した。で、上層部はなんと?」
「ガイ上忍ら増援の上忍がこちらへ向かっているらしい。朝には着くだろう」
「そうか」
 ネジが息をつく。が、すぐにその口元が歪められた。
「問題は今夜。だな」
「ああ。朝まで、だ」
 俺は小さく首肯く。そう。全ては今夜、守りきれるかどうか。それに全てが、かかっている。おそらく、砂は昨夜と同じ戦法で来る。そして、俺達の防御にスキが出た時、一斉に襲いかかってくるだろう。それだけは避けなくてはならない。どんな方法を使おうとも。
 火影は更に弱っているようだ。いつ、命がつきるとも限らない。火影と同等の結界を張り切れる者。ナルトを含めて数人しかいない。ならばこそ。里には、あいつが必要だ。
 俺は目を閉じた。大きく息を吐き出し、吸い込む。口を開いた。
「ネジ」
「なんだ」
「今度あいつの結界が乱れて砂の総攻撃が始まった時、俺は『自爆砕』の術をつかう」
「!」
「そうすれば、殆どの奴らを片づけることができるだろう」
「貴様、本気か?」
 ネジが眉を顰めて訊く。
「ああ」
 白眼を見つめながら答えた。『自爆砕』。自らのチャクラと気を最大限に高め、身体を爆発させることにより、その周辺のものを広範囲に道連れにする術。
「ならば、俺がやる」
「だめだ」
「なんだと」
「お前には、里の結界全体を見渡してもらわなければならない。いくら『自爆砕』でも、全ての兵を屠るわけにはいかないだろうからな。それに・・・・お前には、帰る場所が、待っていてくれる者たちがいる」
「何を言う!貴様こそ、奴はどうするのだ!」
「声を控えろ。・・・・・ナルトには、聞かせたくない」
「言わないのか」
「言ってどうする。結界が不安定になるだけだ。あとは、増援が来るまで、なんとかもたせてくれ」
「まったく・・・」
 ネジが大きく息をついた。頭に手をやり、こめかみを押さえる。白眼が閉じられた。
「面倒なことを、押しつけてくれる」
「すまない」
 白眼が開かれた。まっすぐ視線を受ける。
「一つだけ、忠告してやる。あの人は、カカシ将軍は命より大切なものはないと言われた。オレもその通りだと思う。『自爆砕』を使うのは、本当に最後の手段にしろ。わかったな」
 ネジなりの心遣い。今の状況を正しく判断して尚、思いやってくれる言葉。オレは黙って首肯いた。
「オレは先に配置につく。先に出るぞ」言い捨て、奴は姿を消した。どうやら気を利かせてくれたらしい。
 俺は苦笑して、見張り場への階段を上がった。






ACT10へ続く

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