『朝が来る』by真也

ACT10



 夜半過ぎ、砂の攻撃が始まった。予測通り、前回と同じ波状攻撃。それも更に途切れなく来る。俺達は国境線を走り回った。
『そっちはどうだ』ネジだ。細々と連絡をとってくれる。見渡す力と予測する力。どちらも俺達にとっては、ありがたい。
『変わらない。いや、激しくなったというべきか。ともかく、休ませてくれる気はないらしい』
『当然だな。・・・・奴はどうだ?』
『わからない。そこまでいく余裕がないからな。結界が安定している以上、無事だと思うが』
『それもそうだな』
 ナルトの結界は、思ったより安定していた。このままいけば、朝まで持ちこたえられるかもしれない。が、しかし。
 遠話は途切れたままだった。思えばまる二日以上、殆ど飲まず食わずで結界を張り続けている。体力も、集中力も限界に近いだろう。
『朝までだ』
 念じて、走る。結界を抜けた敵を屠り、侵入しようとしてきたもの達を威嚇する。攻撃は、更に激しくなっていった、息つく暇もないくらいに。
『奴らも、意図が在るのだろう』ネジが呟く。
『ひょっとすると、朝までに決着をつけようとしているのかもしれない』
 ぼそりと、言葉が落とされた。






『もうすぐだ』
 もう何人目になるかわからない砂忍を仕留めながら、俺は自分に言い聞かせた。東の空が白んできている。朝が、近い。
 一晩中休みなく走り続けた身体は、疲労を訴え続けていた。だが、止まるわけにはいかない。朝になり、増援が駆けつけるまで守りきらなくては。
 あいつはどうしているだろうか。結界は変わりなく維持されている。しかし、もうずっと連絡がない。
「!」
 その時、結界が大きく揺れた。まずい。結界が不安定になってきている。攻撃結界を局所的に張り、おれは虎尾の砦に急いだ。 



「ナルト!」
 あいつは膝をついていた。顔が蒼い。駆け寄ると、唇を僅かに歪めて笑んだ。いつもそうだ。苦しいときこそ、笑おうとする。
「おい!しっかりしろ!」
「・・・・・ごめん。ちょっと、めまいがしただけだから」
 そう言って、立ち上がろうとする。足元が揺れた。肩を抱いて、背中から支える。
「立つな。膝だちでも、安定するならそのままでいろ。・・・・・・時間を、稼いでくる。増援が来るまで、この結界を崩す訳にはいかない」
『借りが・・・・できちゃったな』
「あとで、返してもらう」
『でも、休ませてくれよな。もう、身体が痺れてんだ』
「馬鹿。何言ってる」
『サスケ』
「なんだ?」
『里に、帰ったらさ。ラーメンでも作るよ。久し振りにさ』
 柔らかに笑う。苦しいだろに。




 守りたい。
 俺の、一番大切なものを。
 何を犠牲にしても。




「でるぞ」
 囁いて、身体を離した。そのまま背を向ける。
『帰って来いよな!』
 背中に言葉が投げられた。振り返って、精一杯、微笑む。食い入る碧眼。空の色。
「ああ」
 嘘を残して、石垣を蹴った。結界を目指して走る。
『ネジ』
『聞こえている』
『後を、頼む』
 応えはなかった。俺は苦笑する。奴なりの意思表示。きっと、帰って来いという。
 結界の中を駆け抜けた。結界を出る瞬間に火炎印を結び、その場にいた砂忍たちを焼き尽くす。 前へ。もっと、前へ。
 チャクラを右手に集めて、身を低くして走る。迎え来るものを薙ぎ倒しながら進んでゆく。目指すは敵の本陣。あと少しだ。結界と、人の壁が迫る。俺は補助印を組んだ。全て、消し去ってやる。



禁術『自爆砕』



「!」
 最後の印を結ぼうとした時、何者かが俺の腕を掴んだ。体当たりをくらって、吹き飛ばされる。何とか着地して、辺りを見回した。
「はやるな。若者」ガイがウィンクする。
「めんどくせぇこと、すんな」アスマが肩をすくめた。
「後は、任せてもらおう」
 言葉と共に、ふたりは走り去った。そして、俺は見る。砂の本陣へと向かう、木の葉の大援軍を。



 呆然と後ろを見やった。
 虎尾の砦が、光を受けている。
 朝が、来たのだ。






ACT11へ続く

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