『朝が来る』by真也
ACT8
「はあっ!」
走り込んで、火炎を繰り出した。結界の隙間から侵入した者を焼きつくす。ついで、後から続くものがいないようにもう一発、隙間に火炎を投げ込んだ。断末魔が上がる。どうやら次に続いていたらしい。
「よし。ふさがったな」一息ついて、印を組んだ。写輪眼で見る。次は、あそこか。俺は再び、走り出した。
高氏の自治領側の国境に砂の兵達が現われて、もう半日が過ぎようとしている。まずは砂忍たちの先発隊。ナルトの張る結界の隙間をぬって、小人数でやってくる。このぐらいの攻撃、どうということはない。ナルトの張った結界。まだまだ不完全ではあるが、充分、守りに事足りた。何度か同じことを経験したら、完全に隙間のない結界を長期間張ることも可能だろう。
だが、問題はある。
地平線上に姿を見せた砂の軍勢は、膨大な数だった。なのに、この小人数ごとの攻撃。緩急をつけて、隙間なく襲ってくる。これは、消耗戦だ。そうなると、小人数であるこちらが不利。ナルトの結界も、いつまで持つかわからない。
『あれだな』
前方に人影、結界を抜けたところらしい。俺は小柄を突きたてた。
『らちがあかないな』遠話で話してくる。ネジだった。
『お前がみたところどうだ?』遠話で訊き返してみる。一瞬の間が開いた後、『消耗戦だな』と、返事が帰ってきた。
『やはりな。・・・・・気付かれているのだろうか?』
『防戦一手だからな。こちらが出て行かない以上、そう取られても仕方がない。もっとも、攻めてゆく兵などこちらにはいないが』
『そうだな』俺は苦笑した。確かにそうだ。
あいつの結界。これを防御にこちらから攻め入っていれば、かなりのダメージを砂に与えられるはずだ。
木の葉の人手不足が口惜しかった。どう考えても絶対的な人数が足りない。
『おい』再びネジに呼ばれた。
『何だ』
『敵が一端、退いてゆくぞ。今のうちに、こちらも身体を休めたほうが得策だ』
「ああ」口に出して首肯いた。虎尾の砦に向かう。あいつが心配だった。
虎尾の砦の頂上の見張り場で、あいつは結界を張りつづけていた。立ちっぱなしで、顔に疲労が見え始めている。
『よう』気配を察して、遠話で話しかけてきた。顔は前を向いたまま。
『ごめんな。どうもこんなに広い結界、制御出来なくてさ。しゃべったり、別の方向むいたら、上手く安定できないんだ』
「いや、かまわない」
『結界、穴だらけだろ?』
「思ったよりしっかりしている。・・・・何か欲しいものはないか」
『そうだな。水、くれるか?』
俺は砦の中に入り、水と簡易食料を持ってきた。水をコップに注ぎ、ナルトに差し出す。
『悪い。印、外せないんだ。修行が足りなかったらしい』バツが悪そうに口元を歪める。
俺は苦笑して言った。
「お前はよくやっている。こんなこと、他の誰にも出来ない」
『気持ち悪いな。おだてたって、何もでないぜ』
ナルトが照れくさそうに笑った。嬉しそうな顔。目を細めて見つめた。水を口に含み、唇を通して流し込む。触れ合う舌。絡めたいのを必死で我慢して、唇を離した。
「今のうちだ。腹の中に入れておけ」簡易食料を口に突っ込む。『サンキュ』と応えて、ナルトは口を動かせていた。
「首尾はどうだ?」ネジがやってきた。見たところ、殆どダメージはない。ほっと胸をなで下ろした。
「まあまあだ。そっちも大丈夫そうだな」
「あの位、攻撃のうちに入らん。それに、北側は貴様が捌いた残りが流れてくるだけだ」
物足りなげに、ネジが言った。ナルトの方を顎でしゃくり、遠話で『奴はどうだ?』と、訊いてきた。同じく遠話で『疲労は出ている。が、大丈夫だ』と、返事する。
『もうすぐ、夜が来るな』白眼が見つめる。
『ああ』
『おそらく、夜通し来るだろう。相手はこちらの体力の消耗を狙っている。奴の結界が弱まったとたん、一斉攻撃にでるはずだ』
『たぶんな。それまでに、なんとか数を減らしておきたい』
『でるか?』ちらりとナルトの方を見やりながら、ネジが訊いた。
『いや、二人一緒では駄目だ。結界を張っている分、あいつは自分の防御まで気が使えない。どちらかが、守らなければ。結界が解ければ終わりだからな』
『では、貴様が守れ。オレが外に出る』
『いや。外に出るのは俺だ。お前の術は数を捌けない。それに、全体を見渡す白眼を失う訳にはいかない』
『写輪眼を持つ奴が、何を言う』皮肉げに、ネジの口元が歪む。その時。
気配を感じた。ネジも気付いたようだ。
「話は後だ。また始まったらしい」言い捨てて、俺は砦を離れた。
ネジの読み通り、攻撃は一昼夜続いた。断続的に。それも複数で分散して。明らかに俺達の疲労を狙ってのものだった。
『いかにも、砂らしいやり方だ』
ネジが吐き捨てる。送られてくる遠話が不安定だ。かなり疲労しているらしい。
『いい加減、うざいな』ぼやきながら、大きく飛ぶ。新しく侵入してきた砂忍を屠る。まだ少年といっていい位だ。汚いやり方に、殊更苛立ってしまう。まずい。休息をとらなければ。思考が鈍るのは危険だ。
『うわっ』
ネジの声。やられたか?しかし、今は動けない。北側へ動いてしまったら、南側がおろそかになる。
『サスケ!行ってくれ』あいつだ。遠話で話しかけてきた。
『その分、南側に重点的に結界を張る!』
『わかった』言葉と共に走り出す。
虎尾の砦から少し行った北側の場所で、ネジが囲まれていた。負傷している。俺は印を組んだ。
『よけろ!』
声と共に火炎を投げる。上手くかわして跳んだ。よし、あと5人。逃げ出そうとするところを捕らえて一突きにする。後ろきた奴の足を払い、ネジが引導を渡した。
「すまない。助かった」砂忍の首を折りながら、白眼が言う。
「いや。大丈夫か」クナイで捌きながら訊いた。
「傷は大したことはない。腕をやられただけだ。だが、まずいことになった」
最後の一人に、とどめを刺す。ひと息ついた。
ネジの右腕に刀傷。あまり深くない。が、手当てをしようとして気付く。毒だ。急いで傷口を裂く。血を押し出して、解毒剤を張った。
「まだ動ける」白眼を顰めて、ネジが笑う。
「駄目だ。少しでも休んでおけ」
「そうはいかない。奴らが攻めてくる。いくら貴様でも、西側国境線全部を守るのは無理だ」
その時、結界が大きく揺れた。不安定になっている。もしや、あいつが。
俺はネジに動かない様に言い捨て、虎尾の砦へ急いだ。もう夕刻になろうとしている。やっと、一日半。リーは西方の砦に着いただろうか。皆、疲労が色濃くなってきている。
ナルトは砦の頂上にいた。前方に、砂忍。クナイを投げた。弾いているところに詰め寄り、喉から延髄へ突き刺す。下に蹴り落とした。
『サンキュ』微かに笑った。顔色が悪い。
「ケガはないか」
『ああ』
「お前がやられたら、全ておしまいだと言っただろう!なぜ結界を緩めた」
苛立ちに怒鳴ってしまった。でも、どうして。
『ごめんな。南側重点的に守るとさ、どうしても何処か薄くしないと安定しないから。北側はネジがケガしてるし・・・』
青ざめた唇で、あいつがぎこちなく微笑む。
言葉が出なかった。不甲斐なさに唇を噛み締める。
「もう、そんなこと、するな」
『サスケ』
「結界を通るぞ。俺が、時間を稼ぐ」
『無茶だ』
「通せ。俺自ら、結界を破るわけにはいかない」
睨み付ける。もう手ぬるいことはしていられない。
こいつにも、ネジにも、そして俺自身にも休息は必要だ。
「でるぞ!」
言葉と共に、砦から飛び降りた。結界へと真っ直ぐ進む。一時間でもいい。時間を稼がなければ。結界の中に走り込み、補助印を組む。一番敵が多そうな所を目指して・・・・あそこか。
結界を抜けた。火炎印を組んで炎を纏う。焼き尽くしてやる。
砂忍たちが目を見張る。逃げ出そうとして・・・・逃がさない。
「ギャアアアアア!!」
生きながら焼かれる者達の叫びが砂漠に響く。
一人として、残しはしなかった。
ACT9へ続く