『朝が来る』by真也
ACT7
リーが西方の砦に向かった後、おれ達は詳しい段取りを話し合った。
「ナルトが木の葉の国境全体に結界を張るとして、オレ達は穴埋めだな。貴様と国境西側、半分ずつか」
地図を見ながら、ネジが言う。
「いや、北側の虎頭の砦までは行かないだろう。主に、虎尾の砦の周辺。高氏の自治領側が有力だろうな」
「では。中忍たちは虎頭の砦周辺に集めよう。遠話ができる奴を一人置く。それでなんとかもたせる」
「細かい指揮は、お前に任せる。お前の方が、北側には詳しいだろうからな。それに、白眼の方が洞察できる範囲は広いはずだ」
「承知した。ということは、貴様が虎尾の砦周辺になるぞ。もちろんオレも守りにくるが」
「大丈夫だ。伊達にうちはをやっていない」
「じゃあ期待させてもらう」ネジが不敵に笑う。
「こちらもな」サスケも微かに微笑んだ。
二人は着々と役割を決め、人員配置を決め、それに合った指示を出していった。
おれはそれを聞いていた。サスケには少しでも眠れと言われたが、そんな気になれなかった。
極秘裏に準備を整え、おれ達はその時を待った。
真っ暗な空に、爪のような細い月が浮かんでいた。
風もない。身体の芯まで冷えていきそうな、砂漠の夜。
「来るかな」
おれは隣を見やった。空と同じ色の瞳が応える。「たぶんな」と言葉が紡がれた。
虎尾の砦の見張り場で、おれたちは高氏側の国境を見つめていた。ネジも中忍たちも配置につき、あとは砂側の動きを待つだけ。
「ちゃんと掛けておけ。身体を冷やす」
落ちかけていた毛布が、しっかりと身体に巻かれた。
「おまえこそ。忍服のままのくせに」
「俺は大丈夫だ。鍛え方が違う」
思わず、苦笑した。もう、これくらいでどうとなる身体ではないのに。
あいつの中で、おれはまだあの頃のままなのだろうか。でも、おとなしく従った。
「静かだな。これから戦になるなんて、嘘みたいだ」
「ああ」
「・・・・・守らないとな」
「不安なのか?」低音が響いた。優しい声音。褥で囁かれるものと同じ。
おれは微笑んで見上げた。拳一つ高い位置にある、あいつの顔を。
「正直、不安がないと言えば嘘になる。いくら火影に匹敵する結界技を学んできたって言っても、火影になれるわけないからな。それほど、自分に自惚れてはいない。でも、今はそうは言ってはいられない」
「そうだな」
サスケも微笑みかえす。弧を描く口元。おれの好きな、あの笑顔。
「守るよ。精一杯。里には、サクラやアン、仲間たちがいる」
「ああ。あそこには、俺達を迎えてくれる人々がいる。里は、俺達が帰る場所だ」
「うん。おれは、おまえと帰りたい。だから、守る。里を、木の葉の国を」
項にあいつの手がまわった。そのまま引き寄せられる。唇が触れた。一度離して、また深く繋ぎなおす。探って、応えて。絡めて、吸い上げて。熱い舌が、隅々まで確かめてくる。背に腕を回した。自然と、指先まで力が入る。
お互い満足して、唇を離した。サスケが困ったように眉を顰める。意味が分からず、瞳で訊いた。
「・・・・まずいな」
「なにが」
「こんな時でなければ・・・・・・今すぐ、抱きたい」
甘い囁き。耳に落ちた。こみ上げる幸福感。
これだけで、いい。
今度はおれの方から口づけた。深く、喉の奥まで迎え入れる。
息を奪って。舌を差し出して。心まで、開いて。
やるよ。
全部やる。
だから、おれといて。
おれと、生きて。
離れないで。
ふいに感じた気配に、ふたり同時に顔を離した。
地平線の先に、おぼろげな影。遠く瞬く、篝火。立ち籠める、殺気。
来た。
『続きは、後でな』囁いて、サスケが砦の石垣を蹴った。着地して、見る間に配置に着く。
おれは苦笑して、見送った。
『さあ、戦闘開始だ』深呼吸する。息を大きく吸い込んで、止めた。腹に力を溜めて、補助印を切る。精神集中。
どこまで維持できるか、分からないけど。
練り込まれチャクラが気と混じり合って、青白い光を放つ。よし。結界印。
膨大な結界が広がった。おれは奥歯を噛み締める。全てを、おれの大切なものを守る。誰にも侵させやしない。
昇りはじめた太陽を背に、おれ達は戦う。
長い一日の始まりだった。
ACT8へ続く