『朝が来る』by真也
ACT6
明け方近くになって、おれは虎尾の砦にたどり着いた。
「遅かったな」
「悪い。砂忍一人片づけたんだ。大至急、ネジたちを呼んでくれ。砂が攻めてくる!」
「わかった」
サスケによって虎頭の砦に連絡が取られ、二時間後、虎尾の砦に四人が揃った。
「ナルトさんっ、自治領は!やはり砂が攻めてくるのですか?」
「リー、落ち着け。で、証拠は見つかったのか?」ネジが訊く。
「ああ。まず、自治領全体に結界が張ってあった。あれで、こちらの目をくらませていたんだ。それと、高氏の城。城門が砂忍によって守られていた」
「何、城門が?」ネジの片眉が上がる。
「ああ。四つとも全部」
「まずいな」腕を組みながら、サスケが呟く。言葉を継いだ。
「すべての城門が砂忍に守られているということは、高氏自体が砂に占拠されたか、吸収された可能性が大きい」
「ではっ!木の葉の里に連絡をっ」リーが腰をあげる。
「待て。今、里には戦力になる上忍がいない。残った中忍だけで部隊を編制しても、ここの到着に最低三、四日はかかる」ネジが言った。皆、押し黙る。
「結界を張っていた砂忍がやられたのは、もうバレているだろうな」
おれは、サスケを振り向く。
「たぶんな。お前のもたらした情報が事実ならば、攻めてくるのは、早くて・・・今夜」
「そんなっ、ここの戦力だけでは守り切れませんっ」
「どう考えても、時間と戦力が足りない。忌々しいことだ」ネジが吐き捨てた。
カカシ先生の死後、ネジは砂側の守りを一端遠ざかった。里の命令とはいえ、そのことが口惜しいのだろう。確かにその期間、白眼を持つ彼がいれば、ここまでの事態にはならなかったはずだ。
「ともかく応援が来るまで、おれたちで持ちこたえないといけないってわけだ」
「そんなっ!どうやって」
「策はある」サスケが言った。皆の視線が集まる。
あいつは、組んでいた腕をほどき、国境線を示した地図を指差した。
「木の葉の国境全体に、完全結界を張る。その間にリー、お前は西方の砦へ向かえ。そして、出来るだけ多くの上忍にこちらへ連れてきてくれ。火影には、俺から遠話の術で知らせる」
「サスケさん、それは命令違反になります。まずは、火影様の指示を仰がないと・・・」
「火影は弱っている。長老どもの判断を待つ時間はない。中忍部隊の到着を待つなど、もってのほかだ。命令系統に囚われて、優先順位が判断できないような上忍たちなら、それも仕方がない。木の葉はその時点で滅びるだけだ」
「では、どうやって守る。完全結界だと?今の火影様にさえ張れないのに。誰が張るというんだ」
強い口調、ネジだった。サスケを睨み付けている。
「完全結界を張る者は、いる」無表情にあいつが応えた。
「お前か?」
「いや。結界を張るのは、ナルトだ」
「ええっ!おれ?」おれは目を見張った。
「そうだ」あいつは静かに、そう答えた。つかつかと目の前にやってくる。両肩が掌に包まれ、真摯な瞳が見つめた。
「おまえは火影を目指して、今まで修行を積んできた。技術的にはもう教えることはない。あとは、お前の意志しだいだ。里を守る、皆を守るという心の強さがすべての力になる。今、ここを守れるのは、おまえしかいない」
「でも、おれの完全結界は、まだ不完全だ。安定してないじゃないか」
「だから、不安定になって結界が薄くなった所を、俺とネジが守る」
「なるほど。白眼を持つオレと、写輪眼を持つお前なら可能だな」ネジが言う。納得した様だ。
「サスケ」
不安で、名を呼んだ。できるのだろうか。里全体の完全結界など。確かに、火影を目指してやってきた。でも、だからこそわかる。火影になるということが、どんなことなのか。
「俺は、お前を、信じている」
漆黒の瞳。まっすぐにおれに注がれる視線。あいつの、想い。
おれは息を吐きだした。そして大きく吸い込む。
「やるよ」目を反らさずに言った。サスケの口元が、弧を描く。「ああ。お前なら、できる」と囁いた。
そうだ。今は、やるしかない。背筋を伸ばして、奥歯を噛み締めた。
「リー。そういうそういうわけだ。俺達が持ちこたえられるのは、長くて三日。いけるか?」
サスケの言葉に、リーは決心したように首肯いた。
「わかりました。”八門遁甲の体内門”を開けます」
「大丈夫か?あれをやったら、タダでは済まないんじゃ・・・」
たしか、中忍試験の予選でリーは五門を外して、重傷を追ったはずだ。
「ナルトさん。木の葉の里がどうなるかの瀬戸際で、自分の身体がどうとか言ってられませんよ。ナルトさんも、サスケさんも、ネジも頑張るのですから。おれだって負けていられません。ね?」
そう言いながら、リーはネジとサスケを見た。二人が首肯く。リーもゆっくりと首肯いた。顔が引き締まる。精神集中をして、構えをとる。髪が逆立ち、血液が逆流したかの様に顔が血色を帯びた。開門。一気に生門まで開けた。
「では。参ります」
一礼をし、リーは駆けだした。瞬く間に外に出て、見えなくなった。
ACT7へ続く