『朝が来る』by真也

ACT5



 自治領を取り囲む城壁の門は、厳重に警護されていた。まるで、何処かの国と未だ戦い続けているように。
 砂も高氏の自治は認めているはずだ。一応は友好条約をかわしているはず。木の葉にしたってそうだ。なのに、ここまで厳重にする必要があるのだろうか。
 岩陰に身を潜め、おれは城壁の様子を伺った。さて、どう潜入するか・・・。
『そうか』ふと、思いつく。
 ここは砂漠だ。砂上の街。土台は、脆いはずだ。
『中忍試験以来だよな』
 懐かしく思いながら、印を組みだす。今なら、かなり長距離掘れるはずだ。ただ、全体の展望ができない。
『こんな時、あいつがいれば楽なんだけどな。ま、勘で行くか』
 そう思いながら、砂中に右手を入れた。左手で印を結ぶ。
『土遁。土中進』
 次々と掘り進められる穴に、おれは身を沈めた。





 土中進の術でかなりの距離を掘り進み、おれは自治領へと侵入した。 地上に出る間際、何かを感じた。念のため防護結界を張り、地面より顔をだす。幸い、そこは町外れのゴミ捨て場のようだった。
『やっぱりな』
 地上にでて、明確に分かった。これは結界だ。かなり微妙に張られていて、外からは分かにくい。が、確かにこれは攻撃結界。他者を寄せつけなくするもの。
 こんなことは、ある程度結界の修行を積んだ者でないと出来ない。
 高氏は忍の一族ではない。ただ戦術と外交術に長けた民族だ。
 なのに、この結界。背後に忍が関与している可能性が高い。
『一応、やっとくか』おれは再度印を組み、自分を取り巻く防護結界を強化した。
 このくらいの攻撃結界なら、防護しなくても簡単に破れる。しかし。今、これを破って敵方に見つかるわけにはいかない。まだ情報が足りないのだ。もっと確かな証拠を探さなくては。
 おれは石造りの建物に飛びあがった。身を低くして辺りを伺い、高氏の城を確認する。
『あれだな』
 一際大きな建物に目をとめ、おれは屋根を蹴った。極力、音を立てないように行く。城の少し手前で、地面に降りた。建物の陰から城門の辺りを伺う。
『げっ』
 思わず、声が出そうになった。
 高氏の城の城門を守っていたのは砂忍だった。念のため、他の城門にも行ってみる。結果、高氏の城の四つの城門は全て、砂忍に守られていた。
 まずい。
 これでは不審な動きどころか、高氏は砂の国に占拠されているということじゃないか。
 そしてそれを極秘にしているということは、高氏の自治領側の国境から木の葉に攻め入ると考えていい。
『砦に帰ろう』そう思った時、手裏剣が飛んできた。防御結界に当たり、跳ね返る。前方に、黒い影。目だけが白く光って見えた。あれは、砂忍。おれの侵入を感知できたのだから、おそらくこの結界を張った奴だろう。
「オマエハ、ダレダ」
 殆ど聞き取れるかどうかの、しゃがれ声が投げられた。返事の代わりに、クナイを飛ばす。一応、弾き返したようだ。それなりに、使い手らしい。
「見タトコロ南ノ民族二見エルガ、違ウナ。木ノ葉カ?」
「当ててみな!」叫んで、印を切った。途端に、風が巻き起こる。
 攻撃結界の程度は分かった、じゃあ、防御の方は?
「はあっ!」
 風に真空を交えて放つ。怯んだ。真空は奴の身体を傷つけてゆく。
『あれくらいか』
 おれはにやりと笑って走り出した。飛び上がり、屋根を渡る。城壁の外へ。奴は追って来ていた。一際高い屋根を蹴り、城壁を越える。大きく飛んで、砂の上に着地した。再び走り出して、ちらりと後ろを振り返る。
『よし』
 奴はまだ、おれを追って来ていた。しめた。これで城壁の外で仕留められる。そのまま走り続けて、自治領と木の葉の砦の中間くらいの所に来たところで立ち止まった。くるりと踵を返す。
「ごくろうさん!」殊更に大きく言って、構えを取った。砂忍も構える。
 砂漠に吹きつける風で、ターバンが緩む。ゆっくりと、ほどけた。
「オマエハ!」砂忍が叫ぶ。どうやら、おれも結構有名らしい。でも。
「もう遅い!」言いながら、走った。クナイを投げる。相手が避けている間に印を組む。再び、真空混じりの風を放った。
「やるな」
 おれは目を見張った。奴は、今度は無傷。どうやらチャクラの殆どを防御結界に当てたらしい。不敵に笑っている。
「結界勝負だな。いいだろう」言いながら、結界印を組む。自らに防御結界を張って、おれは突進した。ぶつけてやる!
 奴の結界か、おれの結界か。弱いほうが術者もろともに消し飛ぶだろう。
 結界同士のぶつかり、青白い火が飛ぶ。手応えは充分。力で、押し切った。
「ギャアァァ!」砂忍は結界ごと消し飛んだ。
『やれやれ』息を吐き出した。すぐに身体を返す。一刻も早く、砦へ。
 三度、おれは走り出した。





ACT6へ続く

戻る