『朝が来る』by真也

ACT4



 その後しばらくして、事態は動いた。
 虎尾の砦の寸前で、死骸が発見された。砂漠に数日放置されていたそれは、干からびて素性は分からなかった。が、腕に刻まれた刺青の文様から、高氏の王族の所有物であることが伺えた。
「高氏から逃げてきたのかな」ナルトが言った。
「逃げるのなら、木の葉の国より砂だろう。木の葉は高氏の自治を公認している。木の葉に逃げても、自治領に連れ戻されるだけだ」
「なら、なんでわざわざここまで・・・」
「何から逃げて来たかによるな。まっとうに考えれば、木の葉に敵対するものだろう」
「おいっ、それって決まりじゃないか」あいつが乗り出す。目で制した。言葉を続ける。
「あくまで、仮定での話だ。証拠がない」念を押すように、ゆっくり言った。あいつは考え込んでいる。
「どちらにしても、虎頭の砦に連絡を取った。もうすぐネジたちがやってくる。奴らとも話さなければならない。もしそうなら、尚更だ」
「ああ。そうだな」ナルトが首肯く。
 岩の国の商人たちの移動。木の葉ー砂の国間と自治領ー砂の国間の国境の静けさ。そして、今回の自治領からの脱走者。何かが動いているのは確かだ。現状の防衛では、明らかに木の葉は不利。早急に確かめる必要がある。その為には、北側の砦の協力も必須だ。
 俺達はひたすらネジ達の到着を待った。





 一刻程して、二人が虎尾の砦に着いた。これまでの経緯を聞き、例の刺青を確認してネジは口を開いた。
「間違いない。高氏の文様だ」
「では、自治領から高氏につかえるものが逃げてきた。と、考えていいですね。ならば、どうしてわざわざ木の葉側の国境に逃げてきたのでしょう?」
「な。裏がありそうだろ?」
「確かにな。だが、情報が少な過ぎる」
「ったく。サスケと同じかよ」ネジの言葉にナルトが焦れた。 
「あたりまえだ。判断材料は多いに越したことない」ため息混じりにくぎを刺す。あいつがバツが悪そうに頬を掻いた。
「ともかく情報を得ませんとね。何かいい方法はないでしょうか」リーが皆を見渡した。皆、黙り込む。
 しばし、沈黙が落ちた。
「あのさ」ナルトが切り出す。皆の視線が集まった。それを見ながら、あいつが言葉を継ぐ。
「ここでいろいろ言ってても始まらないし、いっそのこと、行ってみようぜ。自治領にさ」
「馬鹿な。わざわざ戦を起こすつもりか」思わず、声がでる。
「ここにいる人数では、太刀打ちできません」
「サスケ、リー。何も攻めてゆくわけじゃない。おれ達は忍だぜ。忍は忍らしく行けばいい」
「そういうことか」思いついたように、ネジが言った。
 普通、砂や岩の国と木の葉の国の人間は容易に区別がつく。砂や岩には色素の薄い者が多く、木の葉には色素の濃い者が多い。
「確かに、金髪碧眼の貴様ならば、砂にまぎれ込む事も可能だ」
「だろ?」あいつがにやりと笑う。
「なるほど、名案です!」
「おれだったら、サスケほど名も売れてないし」
「だが・・・・危険だ」
 ぽつりと言って、皆の視線に気がつく。あいつが呆れたように言った。
「なあ・・・。おまえ、おれのこと上忍だと思ってるか?」
「サスケさん、案外心配性なんですね」
「過保護もいい加減にしないとな」瞬時に、頭に血がのぼる。羞恥なのか、屈辱なのか、自嘲なのかよくわからない感情が身体を駆け巡った。
 気持ちのやり場がなくて、黙り込む。ナルトが覗きこんできた。
「大丈夫だよ。やばくなったらすぐ逃げる」空色の瞳が、宥めるように見つめてくる。
 俺は息を吐いた。そうだ、信じなくては。火影にだって通用するように、俺が育てたお前なのだから。諜報活動の一つや二つ、こなせないはずがない。
「・・・・・深入りはするなよ」
「うん」力強く、あいつが首肯いた。




 その日の夜半、ナルトは高氏の自治区へと潜入した。忍服を脱ぎ、庶民風の衣裳に自治領独特の風習であるターバンを巻いたあいつは、何の違和感もなく西側の人間に見えた。
「くれぐれも、油断するな。慎重にいけよ」
「ああ。わかってるって」
 幸運にもその夜は新月だった。暗闇が更に濃くなる。
「じゃあな」
 闇に消えてゆくあいつを、俺はただ一人、見送った。
 




ACT5へ続く

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