一目でわかった。
 黒い瞳、黒い髪、自分と同じ顔。
 でも違う。俺じゃない。
 これが、奴なんだ。







残像 〜雷side〜   by真也








「返してよ!」
 こっそり見ていた手紙を取り上げたら、真っ赤な顔をして追ってきた。
 俺と同じ顔。風の名を持つ双子の兄。
 いつもはすました顔なのに。崩れたのがおもしろくて、逃げ回ってみた。 
「返してったら!」
「いやだ」
 屋敷中を走り回る。力は互角だから、そう簡単には追いつかれない。
「雷〜っ!もう、容赦しないからね!」言葉と同時に、印が組まれた。まずい。おとなしい兄を怒らせたようだ。そう思ったときには、強風に吹き飛ばされていた。ドンと鈍い音がして、背中を本棚に打ち付けられる。本が数冊降ってきて、一冊が頭を直撃した。
「痛いっ」
「ごめん。でも、雷が悪いんだからね」
「畜生」
 やられた悔しさに、頭に血が上る。痛みをこらえて立ち上がり、右手にチャクラを集めた。わずかに放電が起こり始める。
「雷!なにするのっ!だめだって!また怒られるよっ」
「うるさい!」
「また火影さまに迷惑かかっちゃう!忘れたの?」
 言われて、我に返った。そうだ。前回『千鳥』を使ったとき、庭の木を倒してしまった。アンとガイ上忍にさんざん怒られ、木に吊されたのだ。後で現われたナルトが二人に謝って、やっと許してもらった。
 思い直して、力を抜く。風がほっとした顔で見ていた。仕方がない。しぶしぶ手紙を返そうとしたとき、足元にあるものに気がついた。
「どうしたの?」
 拾い上げてみる。一枚の古びた写真。どうやら、本の間に挟まれていたらしい。
 数瞬、二人で見つめた。
 三人の子供と一人の大人の写真。
「誰だろう」
「これ、アンに似てるな」
「この人、上忍の格好しているね」
「覆面に片目か。変だな」
「じゃ、この子は?」
「金髪に青い目か。誰かに、似てる」
「何してるの!」
 いきなり後ろから声がして、俺たちは飛び上がった。とっさに写真を後ろに隠す。
「わっ!」
「サクラおばちゃん!」
「見事にやってくれたわね。あんた達、これ、片づけなさいよ」
 にっこりと笑って凄まれる。背筋が寒くなった。いそいそと片づけだす。こんなとき、口答えは厳禁だ。かなりの確率で飯抜きになる。今までの経験が物語っていた。
「ちゃあんと、元通りにするのよ。ずるしたら、わかってるわね」
 言い捨てて、俺たちの育ての親は行ってしまった。二人、顔を見合わす。諦めて、黙々と作業を続けた。
「雷が悪いんだよ。ちゃんと返してくれないから」ぼそりと、風が言った。
「わかってる」憮然と答えて、騒ぎの原因を思い出す。
 それは、女からの手紙だった。
 風は老若男女を問わず、よくもてた。柔らかい物腰と落ち着いた物言い。俺と違って愛想もいい。
 当然といえば当然だった。
「ねえ」
 本をまとめながら、風が訊いて来た。
「なんだ」
 埃を叩きながら答える。
「・・・・・似てたよね」
「ああ」
 答えて、写真を取り出した。改めて見直す。
 いやでも最初に目がいってしまった。同じ顔。黒い瞳、黒髪。自分より二つか三つ年上の少年。
「これやっぱり、シギの言ってた人かな」
「たぶんな」
 研究所で一度だけ聞いた。ここに来てからは、何度も耳にした。
 黒髪の上忍。木の葉の『攻守の要』とまで言われた忍。
 俺たちの原型となった人物。



『うちはサスケ』



「どんな人だったのかな」ぽつりと、風が言う。
「知らねぇ」そう答えた。





 闇の中、天井の節目をぼんやりと数えていた。障子越しの月が、ぼんやりと部屋を照らしている。
 床に入ってからだいぶん経つ。でも、目は冴えきっていた。ごそり。身を起こして、枕下の写真を取り出す。
「眠れないの?」
 隣がもそりと動いた。どうやら、風も同類らしい。二人で、写真を見つめた。
「この金髪の子、火影さまだね」
「ああ」
「二人とも、にらみあってるね」
「そうだな」
「仲、悪かったのかな」
「さあ・・・」
 そう答えて、唇をかむ。嘘だ。わかっている。誰に言われなくても、それくらいわかる。
 言葉が見つからなくて、俺たちは押し黙った。その時。
 気の流れが揺らいだ。風がふわりと巻き起こる。来た。
「いつまで起きてるんだ?」
「ナルト!」
「しーっ。声が大きい」声をひそめて、ナルトが言う。
「火影さま、抜けてきたの?」
「ああ。だから静かに。なっ」
「うん」
 微笑みに促され、小さく頷いた。
 ナルトの膝に頭を預けて、二人、おとなしく身体を横たえた。ゆっくりと、髪を撫でられる。
「ねえ」風が訊いた。
「ん?」
「訊きたいことが、あるんだ」
「なんだい?」
「あのね。今日、ぼくたち、写真を見つけたんだ」
「どんな?」
 ナルトの声と風の目が促す。俺は写真を差し出した。手にとって、ナルトが見つめる。碧い目が一瞬見開かれ、ゆっくりと細められた。懐かしそうに、嬉しそうに。そしてつかの間、哀しそうな表情に変わる。
「どこで見つけたんだ?」
「本に挟まってた」
「そうか・・・・」
「これ、火影さまでしょ?」身を起こして、風が訊く。
「ああ。そうだよ」
「じゃ、これは?」
「サクラだ」
「サクラおばちゃん?アンかと思った」
「こら。アンが聞いたら怒るぞ」
「この人は誰なの?」
「カカシ先生だ。すごく強かったんだぞ」
「へえ。ナルトよりも?」
 驚いて、訊いた。火影のナルトより強いなど。意外だったから。
「ああ。『写輪眼のカカシ』って言ってな。強いだけじゃなくて、優しい先生だったよ。イルカ先生に負けないくらい」
「イルカ先生って?」
「アカデミーで教えてくれた先生だよ。はじめて、おれを認めてくれたんだ」
「ナルト、火影なのに?」
「そうだよ。昔はいろいろあったのさ」
「ふうん」
 俺たちが眠りにつくまで、ナルトは様々な話をしてくれた。カカシ先生という人のこと。イルカ先生という人のこと。サクラおばちゃんとリーおじちゃんのこと。
 でも、一つだけ、教えてくれなかった。
 写真に写る、黒髪の少年のことは。



 そして俺たちも、訊くことはできなかった。



 ナルトをあんなにも微笑ませて、同時に哀しませる者。
 俺たちを生み出した者。
 ナルトの、大切な人
『ちくしょう・・・』
 訳のわからない気持ちを抱えて、俺は唇をかみしめた。




end 



ナルトsideへ

戻る