そしておれは、彼の中におまえを見つける。
 まだ歪められていない、本来のおまえを。








残像 〜ナルトside〜   by真也








  暗闇にかすかな寝息が聞こえる。二人とも、やっと寝たようだ。
 そっと床を抜けようとして、何かに引っ張られた。袖をつかむ小さな手。
「いやだ」
 大きな、黒い目が見つめる。
「雷」
「ナルト、いくな」
 への字に結ばれた口元。泣きそうにゆがむ顔。必死な目。
 立ち去ることはできない。片づけるべき仕事は山積みなのだが。
 ため息一つでそれを流して、彼の頭を膝にのせた。そっとあたりを伺う。もう一人の子供は、ぐっすりと眠っているようだった。
「眠れないのか」
 膝の頭が、かすかに揺れる。少し堅めの、収まりの悪い黒髪。あいつと同じ手触り。指先が覚えている。
 雷の頭を撫でながら、おれは訊いた。
「なにか、あったのか?」
 問いかけに彼は答えなかった。やや不安になり、思いを巡らせる。アカデミーも難なく卒業し、下忍となった彼ら。スリーマンセルも始まり、本格的に忍としての生活が始まる。それだけに、さまざまな話を聞く機会も増えるだろう。いいことも、悪いことも。
「だれか、なにか・・・」
「違う」
 言い終わらぬうちに遮られた。はっきりとした意思表示。反らすことのない視線。
「皆、俺たちによくしてくれる。でも・・・」
「でも?」
「みんなが言う。ナルトは火影だと。火影さまと呼べと」
 横たわる上体を起こし、思いきったように言った。悔しそうな表情。
「ナルトは、ナルトだ」
 断言して、唇をかみしめる。求めてくる瞳。漆黒の中の、ひたむきな光。
「そうだよ」
 そう答えると、あからさまに安心した顔になった。しかし、言葉を継がねばならない。
「でもね。同時に火影でもある」
 目が丸く見開かれた。困惑したような顔、意味を計りかねているようだ。少し考えて、口を開く。
「・・・・いけないのか」
「雷」
「ナルトって呼んじゃ、いけないのか?」
 伺う視線。何かをこらえるように。
「風は平気なんだ。火影さまって呼ぶの。ナルトなのに。俺は、いやだ。ナルトが遠いのはいやだ」
 下を向きながら言う。くぐもった声。胸が痛んだ。




 本当は、与えてやりたい。
「うずまきナルト」を。おれ全部を。
 おまえが求めるただ一つのものを。
 でも。
 彼をおれに縛り付けることはできない。
 おれが火影であると同様に。




 苦笑して、手を伸ばした。
 頬を両手を囲み、覗き込むようにその顔を見つめる。
「遠くなんて、ならないよ。心はいつも、雷といっしょさ」
「ほんとか?」
「ああ。だって雷と風は、おれの大事な宝物だもの」
「ほんとに?」
「疑り深いね。本当だよ。何よりも、大切なんだから。でも、おれには火影の役割もある。だから、いつも一緒にはいられない。わかるな」
「うん」
 頷く頭を、優しく抱いた。愛しい命。おれが待ち受けた、おれを救ってくれた命。 
「雷、えらいな。だから、今夜はここにいるよ」
「いいのか?」
「朝までならね。さ、もう寝なさい」
「・・・・膝で寝て、いいか?」
「甘えただね。いいよ」
 微笑んで答えると、再び膝に頭をおいてきた。温かい。子供特有のにおい。背を撫でていると、数度の身じろぎの後、規則正しい寝息が聞こえてきた。あどけない寝顔を見つめる。長くのびた睫。柔らかい頬。耳元の産毛がかすかに揺れる。


『いい夢、みろよ』
 心の中で、つぶやいた。



 いいんだ。
 これでいい。
 おれは、生きてゆける。
 おまえのもとへいける、その日まで。
 やるべきことを成し遂げて、安心できるその時まで。
 待ち続けてゆけるだろう。
 おまえの残像を見つめながら。
 この命たちと共に。



『おやすみ』
 ちいさな額に唇を落とし、おれはそっと目を閉じた。



end


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