その科学者が、ぽつりと訊いた。
『君は、写輪眼が好きですか?』と。
ぼくは、こくりと頷いた。
綺麗で、とても好きだったから。
それは、雷とぼくだけにある紅い眼。
古びた写真に写る、その人から受け継いだもの。
残像 〜風side〜 by真也
眠りに落ちる瞬間、空気の揺らぎを感じた。
「いやだ」
聞き慣れた声。薄目を開けながらあたりを伺う。
雷が彼を引き留めていた。
「雷」
「ナルト、いくな」
泣きそうな声で言う。人一倍、負けず嫌いな弟。聞いてしまったことが悪いような気がして、眠ったふりを続けた。
「眠れないのか」
ため息を落としながら、彼が訊く。隣の体が、かすかに動いた。
「なにか、あったのか?」
心配そうな声。火影という立場にありながらも、彼はぼくらに心を砕いてくれる。いつも、水のように染みいる優しさ。
それは、親のないぼくたちにとって、何よりも大切なものだった。
彼の大切な人からぼくらは生まれた。大人達は多くを語ろうとしない。でも、言葉や表情の端々に見え隠れしている。
人々はいつも、記憶をたどる。
ぼくらの一挙一動を見つめながら。
そして、比較している。
彼らの知ってる『うちはサスケ』と。
『うちはサスケ』が何を考え、ぼくたちを生み出したのか。それは、誰も知らない。
彼を除いては、誰も。
それでも、ぼくは惹かれてやまない。
『うちは』に。
『写輪眼』に。
ただ一つ、ぼくの中ではっきりしていること。
『この紅い眼を、消したりしない』
「みんなが言う。ナルトは火影だと。火影さまと呼べと」
悔しそうに言う。どんなに諭されても、弟は自分の意志を曲げない。同時に、そこから生じる敵意も恐れない。
まるで、それこそが後悔しない方法だというかのように。
「ナルトは、ナルトだ」
雷はひたむきに火影さまを思い、彼を求める。他には何も欲しがろうとしない。
どんな人の優しさも、好意も。
ぼくは人の好意がうれしい。同じくらい、敵意が怖い。だからこそ、どちらも直接受けないようにしている。
「・・・・いけないのか」
「雷」
「ナルトって呼んじゃ、いけないのか?」
震える声。絞り出した言葉。雷の気持ちが手に取るように伝わった。
「風は平気なんだ。火影さまって呼ぶの。ナルトなのに。俺は、いやだ。ナルトが遠いのはいやだ」
それは、仕方がないと思う。
彼は『火影』なのだから。
人々がぼくらに『うちは』を求めるように、彼も『火影』として、人々に応えねばならないのだ。
雷にはそれがつらい。だから、彼が遠ざかることを、ひどく嫌う。
たぶん、雷とぼくとは違うのだろう。彼に求めるものが。
「遠くなんて、ならないよ。心はいつも、雷といっしょさ」
「ほんとか?」
「ああ。だって雷と風は、おれの大事な宝物だもの」
「ほんとに?」
嬉しそうな声。それまで張りつめていた弟の気が、どんどん和らいでゆく。
雷はきっと、何かを失ったまま生まれてきたのだろう。そして、それを埋められるのは『写輪眼』でも『うちは』でもない。
彼だけなのだ。
同じ姿形でも、性格も求めるものも違う弟。それでも、彼には笑っていてほしい。
慈しむべき、もう一人の『うちは』だから。
おだやかな声と言葉で、ナルトが諭してゆく。雷の気が安堵に変わって、眠った時のものへと変わってゆく。しばらくして、規則正しい寝息が聞こえた。
なぜだかひどく安心して、ぼくはそっと目を閉じた。
「ねえ」
「なんだ」
「雷は写輪眼、好き?」
翌朝。
まだ眠そうな弟に、ぼくは訊いた。
何故そんなことをしたのか、自分でもわからない。でも。
本当は確かめたかったのかもしれない。
雷とぼくの違いを。
弟は黙りこくっていた。いつも通り、眉間に皺を刻ませて。
「・・・・・知らない」
「えっ」
「わからねぇよ。生まれたときからあるもんに、好きも嫌いもあるか」
「・・・・そう」
「とりあえず、強くなるためには必要だな」
「まあ、そうだろうね」
「俺、強くなって、ナルトを守るんだ」
弟はまっすぐ、前を見据えて言った。
ぼくは静かに頷いた。
雷は雷の道を歩いている。
ぼくは、ぼくの道を行こう。
同じ眼で違うものを見つめながら。
その先にあるものを信じて。
end
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