その一族で『同族殺し』が起こったのは、紛れもない事実。
 でも、その末裔であるあいつは、生きた。
 身内に起こった禍々しい出来事を乗り越え、自らの血の持つ業を背負いながらも。
『人』として。
『うちは』でありながらも、『うちは』に囚われることなく生き抜いたのだ。
『うちはサスケ』として。
 彼は、あいつをもとに生まれた。
 信じている。
 必ず、あいつのように、乗り越えてゆけると。







宿業  by真也








 二畳ほどの狭い檻の中に、彼は拘束されていた。
 冷たい石畳の上に、膝を抱えて座っている。近づくと、細いからだがびくりと揺れた。
「いいのか」
 顔を上げずに言う。くぐもった声が辺りに響いた。
「雷」
「逃げたりしない。自分のしたことくらい、わかっている」
 彼は過ちを犯した。先日の任務において。
 それは、ごく簡単なもののはずだった。木の葉に潜んでいた「草」が、岩へと逃亡をはかった。仲間数人とこれを追いつめ、待ち受ける上忍のもとへと導く。中忍としてごく当たり前の、危険性の少ない任務。
 中忍のなかでも中堅の彼には、少し物足りない任務だったかもしれないが。
 「草」は上忍のもとには現れなかった。国境近くで岩忍と合流し、中忍達へと襲いかかったのである。
 上忍レベルの岩忍達を相手に、彼らは為す術もなかったはずだ。が、しかし。
 岩忍達は全滅した。戦いの場は焼け野原と化し、敵の死骸はほとんど原型を留めていなかったと言う。
 そして、木の葉の中忍も数名負傷した。
 彼らを傷つけたもの。それは岩忍ではなく、同じ木の葉の忍。
 即ち、雷である。
「ほんとに、いいのか」
 もう一度訊いた。顔をあげ、こちらを向く。細くなった顔。目の下の隈。たぶん、ろくに眠っていないのだろう。
 見慣れた顔に浮かぶ憔悴を見て、ずきりと胸が痛んだ。
「ごめんな。これも、決まりだから」
「・・・・・ナルトが謝ることじゃない」
 視線を落として呟く。膝を抱える手に、ぐっと力が入った。爪が食い込む。
「俺が、悪いんだ」
 彼は自分に言い聞かせるように、はっきりと言った。





 岩忍達のもとにたどり着いたとき、逃げおおせると思ったのだろう、「草」は彼に告げた。
『うちは』一族の過去を。
『同族殺し』の一件を。
 それがきっかけとなり、雷は暴走した。岩忍はおろか、周りにいる者全てを巻き込んで。
 繰り出される雷撃と火炎の渦。
 あと少しでも上忍達が遅ければ、中忍たちの命はなかっただろう。確実に。
「止められなかった・・・」
 絞り出された声。震える肩を、両手で抑えている。
「頭が真っ白になった。怒りがどんどん湧いてきて・・・・・気がつけば、写輪眼で戦っていた」
 よほどのことがない限り、彼は写輪眼を使わなかった。「うちは」ではなく「自分」でいるために。中忍試験でさえ、能力を使わずに乗り切ったのだ。
 その彼が写輪眼を使い、暴走した。おそらく本能だろう。表向きは「うちは」を否定しながらも、心の奥底では、それこそが中核をなしていたのだ。
 彼も「うちは」なのだから。
「俺は・・・・自分を、抑えられなかった」
「雷!」
 駆け寄り、その手を伸ばした。彼に触れたい。その痛みは代われない。でも、共有することは出来る。
「御前。なりません」
 黒い影がよぎった。両手を広げ、行く手を遮る。
「エビス!」
「この者は拘束中です。いくら縁の者と言えど、御前を危険に晒すわけには参りません」
「何を!雷がおれに危害を及ぼすというのか!」
「残念ながら、可能性がないとは言い切れません」
 黒眼鏡の中から、冷静な瞳が答える。
「黙れ!」
「ナルト」
 投げられた声に目を見張る。雷だった。
 彼はゆっくりと立ち上がり、俺を見上げた。真摯な顔。
「エビス上忍の言うことも当然だ。俺は、同胞を危険に追いやったのだから」
「雷・・・」
「御前、そろそろお時間です」
「エビス。もう少し」
「行ってくれ」
「雷!おまえっ」
 振り向いて叫んだ。まだ十分話していない。雷の心を、受け止めきってはいないのだ。
「火影だろ。行けよ。・・・・・俺は、大丈夫だから」
 静かな表情。落ち着いたそれに、言葉がなかった。
 火影である自分。悔しくても、そこから先へは行けないのか。
 唇を噛み、必死で探した。せめて言葉を。
「諦めるな」
「ナルト」
「絶対、諦めるなよ。おまえは、きっと乗り越えられるはずだ。わかったな」
 言葉に全てを込める。こくりと、雷が頷いた。
 それを見届け、おれは踵を返した。出口へと向かう。背中に感じる視線。
 思い切るように、扉を開けた。





 不安がないと言えば、嘘になる。でも。
 信じている、彼を。
 あいつと同じように。
 諦めず、いつか越えてゆけると。
 信じている。





 目の前に広がる青空を見つめ、おれは堅く念じた。



end



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