暗部の苦労人達を見守ろう作品NO,5





 その雛鳥はわずかな羽毛だけを武器に、生き抜かねばならなかった。しかし、今。
 彼は白く美しい翼を広げて、番いのもとへと飛び立つ。








出立 『終わらない夢〜暗部編〜』 ACT33対応作品  by真也








『シノ。厄介なことを引き受けさせてすまない。でも、頼む』
 死期が迫り、病の床で友人は言った。透き通った空色の瞳を向けて。
『確かに・・・・難しい条件だな』
 率直に意見を述べる。五代目火影にではなく、友人うずまきナルトへの言葉を。彼は困ったような笑顔を浮かべて、ぽつりと言った。
『わかっている』
『敢えて、か』
『ああ。この条件はどうしても必要なんだ。彼らが自分自身の為に生きてゆくには』
 まっすぐな視線。それは少年の日となんら変わりはなかった。言葉が継がれる。
『おれは、自分の歩んできた道が間違っていたとは思わない。考えるかぎり、最善を尽くしてきたと思っている。でも・・・・」
 ナルトは一旦、言葉を切った。そして、ひどく寂しそうな顔をした。 
『おれ達がもっと互いだけを考えていれば・・・・・別の生き方もあった』
 絞り出した言葉。泣きそうに歪む面。今も忘れられない。いつも笑っていた友が、ただ一度見せた顔を。それに動かされて、ここまで来た。
 うずまきナルトは鈴に暗部を離れる条件を架した。すなわち。


『全てを捨てて鈴を選ぶ者を、鈴が命も、ここで生き抜く目的も投げ出して選ぶ』ことである。





「構わない!」
 その時、鈴は叫んだ。たった一つのものを捨て、雷のもとへと行く為に。
 蟲を封じる為とはいえ、自らに毒針を打ち、無謀とも言える方法で暗部長の俺へと向かってきた。
 実力差はもちろん、裏切れば自分や育ての親である研究者がどういう目にあうかも、十分にわかっていたはずだった。でも。
 鈴は奴を選んだのだ。
「条件は成立した。行け」
 蟲を退かせた俺の言葉に、鈴が怪訝そうに眉を顰める。「何のことだ」と疑問が投げられた。
 俺は話した。鈴が暗部を出る条件を。雷が鈴を里に迎えようと尽力していたことを。本当は、鈴を縛るものは何もないということを。彼の目が大きく見開かれた。
 正直に思った。『よかった』と。
 純粋に俺は賞賛した。彼らの勝ち取ろうとしているものを。そして、それを確実にする為に鈴を促した。
「早く行け。解毒処置も忘れるなよ。雷の足でまといになっては困る。追って、応援を出す」
「シノ」
 鈴の顔が泣きそうに歪む。あの日のナルトに重なった。
「行け。あいつにはお前が必要だ」
 再度促す。彼らには別の選択をさせたくて。頷き、走り出す鈴を俺は見送った。




「行ったの?」
 気配と共に現われる。黒髪に金色の目。オウガだった。
「ああ。今すぐ第一中隊を招集してくれ」
「してるよん。もう、シノが作戦話すだけ」
 返事に驚く。目端が効くとは思っていたが・・・・。
「気付いて、いたのか」
「あったりまえでしょー?オレは、鈴の監視役なんだよ」
 にやりと笑った。自慢げな子供のように。
「さ、行こうぜ。せっかく鈴が決心したのに、あいつが殺られちゃったら洒落になんないよ。ま、簡単にくたばるタマじゃないけど」
 オウガが踵を返した。腕が引かれる。俺は苦笑しながら、その後に続いた。


 半刻も掛からずして、暗部長以下暗部第一中隊は、龍髯の砦に向かって出立した。



end


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