暗部の苦労人達を見守ろう作品NO,3
遮蔽 『終わらない夢〜暗部編〜』 ACT7対応作品 by真也
濡れた音が止めどなく続く。漏れでる掠れた声を伴って。
自分の上で細身の、しかし程よく引き締まった筋肉の身体が揺れる。目を閉じ、貪るように感じ続けている。
いつまでこうしているのだろう。
そう思い、相手の腰に手を掛けた。体勢を変え、最終的な段階に入ろうとして遮られた。
「だめだよ」
上がったままの息で言う。俺は怪訝に見上げた。
「まだ、だめ。もっと弱らなくちゃ・・・・・危ないのよ」
言ってる意味が分からず見つめ続ける。苦笑して再度口を開いた。
「今、終ったらさ。飛び出しちゃうよ。『うちは』さんの所へさ」
聞いてやっと納得する。相手の乱れの原因を。そして、自らの中にも同じものを見つける。
「わかった」
呟いて状態を起こした。中のそれが内部で動く。綺麗にオウガが背をしならせた。
「・・・・何すんのよ」
「弱りたいのだろう?」
答えて腕を相手の膝の裏に回した。繋がったまま身体を抱き上げる形になる。一部分に集中する体重。
「ん・・・・はあっ」
たまらず首に腕を回してきた。頬が触れる。目の端に奔放な黒髪。くすりと笑った。
「どうかしたのか?」
予想外の反応に訊いてみる。金色の瞳がこっちを向いた。
「いや。シノもやるねぇと思って」
にやりと笑った口元から大きめの犬歯。乾いた唇を舐めて潤す。肉食獣が舌なめずりするようなしぐさ。
「おかしいか」
「冗談。嬉しくてわくわくしてるよ」
言葉と共に腕の力が強まった。しっかりと首に縋る。それが、合図だった。
深い繋がりの状態で更に前後に揺さぶる。肩に爪が刺さった。気にせず更に激しく揺する。
艶やかな声。誘うような、せがむような響きをなしている。
出来るだけ早く余裕がなくなるように、俺は変則的に揺さぶり続けた。
その日、鈴は集合場所に連れて来られた。ぐったりと横たわり呻いている。申し訳程度に衣服は着ていたが、身体の至る所にすり傷や打撲傷。それは明らかに雷とやりあい、屈伏させられたことを示していた。
「酷く、荒っぽいことをしたんだな」
敵意を含めて言う。闇色の目が睨み返した。
「こいつは俺の命を狙った。当然の報復だ」
抑揚ない言葉。明らかな蔑み。『うちは』の末裔は鈴を侮蔑していた。
俺は危惧した。鈴は待ち続けた者に命を奪われるのだろうかと。が、しかし。
「触るな。それは、俺のものだ」
彼は宣言した。明確に執着を示したのだ。
「ちょっとさ、つきあってよ」
雷が鈴と部屋に戻った数刻後、オウガは俺を訪れた。例によって窓の外から。
「何か用か。任務に戻れ」
「鈴なら大丈夫だよん。奴は鈴に手を出さない。自分で言ってたぜ」
「馬鹿な」
俺は眉を顰めた。
「本当だよー。嘘言う奴には見えないし。実際、鈴をベッドに寝かして自分は床で寝てたぜ」
言葉がなかった。不可解な言動。彼は鈴を蔑んではいなかったか?
「それだけじゃない。食事も食べさせてたし、着替えもさせていた。だから、オレは退散したのよ」
「・・・そうか」
意外な気持ちで頷く。急に腕が取られた。次の間に引っ張っていこうとしている。
「おい」
「ちょっとだからさ。それとも、今じゃ起たない?」
挑戦的な目。意地悪く笑った。ふと気付く。いつになくこいつが余裕を持っていないことに。
「ね?」
伺う視線。放っておけば何をしでかすかわからない気がして、俺は次の間に進んだ。
今までにも何度かこいつと身体を繋いだ。でも。
今日はいつもと違い過ぎていた。せわしない動き。自らの準備も整わないうちに、中へと俺を導いた。
「くっ・・・」
吐き出される音。そこには苦痛も混じっていた。けれど、オウガは自らを追い詰めるように先を急いだ。
「納得出来ないのか?」
責めを弛めて訊いてみる。すかさず抗議に腰が動いた。潤んだ目が睨み付けている。
「意地悪、すんな・・・よ。納得、してる、さ」
「なら・・・」
「頭でわかって・・・ても、気持ちが収まら・・・・ない、から」
「なるほどな」
そう言って交わりを引き抜いた。金色の目が大きく開く。呆然としている身体を返して、腰を高く挙げさせた。背中を押さえ、胸を寝具に押しつける。
「なに、よ」くぐもった声。
「このほうがいい」
そう答えて、再度深く分け入った。
「初めてなんだよねぇ・・・・」
ぐったりとうつ伏せになったまま、ぶちぶちとオウガが呟く。
「何度目かだと思うが?」
「馬鹿。オレじゃないよ。初めてなんだ。鈴が自分から他人に興味を持ったのって。今まで、あいつは術にしか興味を持たなかった。でも、今回は『うちは』さん自身に興味を持ち、自分から仕掛けた」
「ほう」
「でさ、あいつもしっかりご執心みたいだし。本物かなーと。でも、鈴が痛めつけられんのは辛いから」
ぼそりと本音。こいつは見続けて来たのだ。鈴の苦しみを。手出し一つ出来ずに。
「だから、アンタに八つ当たりしにきたのよ」
ぺろりと舌を出す。少年を残す顔。悪戯がバレたような表情をした。
「様子観察。だけだろうな」
唯一出来る方法を告げる。
「わかってるよん」
口をとがらせて言った。
「任務。砂の国だって?・・・・・うまく行ったらいいよな」
ぽつり。ほとんど聞き取れるかどうかの声で言う。俺は頷いた。それきり俺達は黙り込む。
充分な確信は、二人とも持っていなかった。
願うしかない。
見守るしかない。
見極めるしかない。
その夢を見るのも叶えるのも、彼ら自身なのだ。だから。
今は己の感情を、遮蔽するしかない。
空が白んでゆく。
彼らのこれからを願いながら、俺達は朝を待った。
end
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