暗部の苦労人達を見守ろう作品NO,4
鈴が笑っていた。
奴の前で、嬉しそうに。
里で同じ年ごろの少年達が話しているみたいに、『うちは』の末裔と笑い合っていた。
初めて見た。
皮肉そうな笑みではなく、冷たい嘲りのそれでもない。
あれが、鈴の本当の笑顔。
奴が引き出したもの。
笑顔のゆくえ 『終わらない夢〜暗部編〜』 ACT16対応作品 by真也
「それにしても、よかったじゃん」
動きを止めずに言った。目の前の仏頂面が、さらに愛想のないものになる。
「どうしたのー?やっこさんもまずまずの感触だったんでしょ?」
「『任務の相棒として申し分ない』と、言っていた」
「なら、いいじゃない」
言ってすぐ腰を掴まれた。深く内部を抉られる。短く声を上げた。
「シノ〜」
抗議に口を尖らす。憮然とした表情で返された。
「なによ、不満なの?」
「『任務の相棒』では、条件に満たない」
「最初のこと思えば上等じゃん。焦っても仕方ないでしょー?年くってんだから、その分落ち着きなよ」
皮肉れば大きく揺らされた。そのまま休みなく暴れ回る。急に上昇する体温。腕を掴んで堪えた。
「・・・・もしもし?アンタ、八つ当たりしてない?」
「お前だってしただろう」
「ちょっとー。あれとこれじゃ、状況がちがうでしょ?」
「変わらない」
言い返そうとした時、手が伸びてきた。腕を取られ、引き寄せられる。口を封じられた。
そうだ。こいつは封じたいのだろう。一番正直で辛辣なオレの口を。
息が返ってきた途端、身体が返された。大きく足が開かれ、二つ折にされる。再度、相手が深く分け入ってきた。
鈴と雷が組みだして三ヶ月が経った。
最初はぶつかり、鈴は屈伏した。ボロボロになって横たわるあいつを見て、オレは思った。
『これはやばい』と。
しかし奴は鈴を介抱した。献身的とも言える細やかさで。正直、奴の考えていることがわからなかった。
鈴の体力が回復するとすぐに、二人は組んで砂の国へと向かった。それは、鈴にとっては初めての戦闘任務だった。
『鈴は帰らないかもしれない』
そう危惧していたオレ達の心配をよそに、二人は大きな外傷もなく帰ってきた。そして今。
鈴と奴は互いに教え合っている。チャクラのコントロールを。結界術を。自分から進んで教えているのだ。
『まあまあね。思ったより扱いやすいよ』
頃合いを見て様子を尋ねたオレに鈴は言った。言葉こそそれまでと変わらなかったが、それを言うあいつの表情は全く違っていた。
もしかしたら。
期待は膨らんでゆく。でも、シノの言うとおり、浮かれてしまうわけにはいかない。わかっている。
けれど。
今は少しだけ、落ち着いて見ていたい。せっかく笑顔を取り戻したあいつを。
「結局はオレ達さー。見てるしかできないんだよね」
ようやく熱の冷めた身体で呟く。隣がむくりと起き上がった。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
言いながら腰が取られる。うつ伏せのまま、ぐいと引き上げられた。指が侵入してくる。
「・・・・・本当。今日は御機嫌ななめね」
「そういう日もある」
「はいはい。お付き合いしますよん」
笑って答えた。徐々に呼び覚まされる身体。先程の余韻も消えてなかったから、乱れるのは時間の問題だろう。でも、いい。
見守るしかできないのなら、しっかり見つめてゆこう。
あいつの笑顔のゆくえを。
シノの熱さを受け入れながら、オレは妙に納得していた。窓の外には月。クリーム色のそれが、空を明るく照らす。
あいつの笑顔に似ていた。
end
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