見えない。
今まで、自分のことのようにわかっていたのに。
雷の心が、もう見えない。
ぼくたちは、進むしかないのだろうか。
大きく分かれて行く道を。
岐路 by真也
ACT1
「雷を探してほしいの」
サクラおばさんが言った。
雲の国での長期任務を終えて、ぼくは郊外の家にたどり着いた。家はいつもと変わらず、ぼくを迎えてくれた。
ただ一つ、雷がいないことをのぞいて。
「任務で失敗したの。それで、拘束されて・・・・もう出てきているはずなのに、この家に帰ってこないのよ。どうやら任務には出ているようなのだけど、単独任務ばかりみたいで。誰も姿を見ていないの」
困り果てたようにアンが言った。極秘に監視がついているらしいが、リーおじさんもガイ上忍も雷の所在を教えてくれないらしい。
「ともかく、風ならあの子も会うかもしれないし。お願いね」
二人に頼まれ、ぼくは家を出た。
「さて・・・と。どこから行くかな」
疑問ばかりだった。雷は気性こそ激しいけど、里への忠誠は固いはず。任務を失敗したらしいけど、どんな任務だったのだろうか。ともかく、情報が足りない。
ぼくは受付所へと向かった。
「申し訳ありませんが、その件の報告書はお見せできません」
受付は言った。言葉の後ろに感じる嫌悪と畏怖。受付も里の町中も、周り全体の空気がおかしかった。それまで、これらの感情を向けられたことはあった。でも、比較にならなかった。
「では、雷の居所はわかりませんか?任務には出ているみたいなんですけど」
「それも、こちらではなんとも・・・。確か、今朝に復命しているはずです。ですから、里のどこかにはいるはずですが」
任務予定表を指差しながら、受付は言った。ぼくは目を見張る。雷は単独任務ばかりやっていた。それも、追い忍処理や夜盗駆除。中忍一人でするには、あまりに危険度の高いものばかり。
「どうして・・・・誰も雷とは、組まないんですか?」
「今は難しいでしょうね。彼自身も単独を希望されてますし」
「でも、危険じゃないか。もし、失敗したら・・・」
「失敗することも念頭に置いて、でしょうね」
「なんだって!」
「とにかく、これは上も承知していることですので」
そっけなく言い、受付は背を向けた。ぼくにはそれ以上、聞き返せなかった。
単独任務。ぼくが雲の国や森の国でしている外交の根回しではない。すべて戦闘。それも、失敗して殉死しても構わないだなんて。いったい、どうなっているのだろう。それじゃあ、雷は捨て駒じゃないか。
こんなことになった原因の任務。その内容を知らなければ。
ぼくは木の葉中央病院へと足を向けた。
雷の関わった任務の内容は知らせてもらえなかった。でも、同じ任務についた忍の情報は手に入れることができた。
日向ナツヒ。彼は日向ネジ上忍の三男で、ぼくらより一つ年上だった。癖のある性格をしており、ぼくとはソリが合わなかったけど、雷とは悪友みたいな関係だった。たしか、スリーマンセルも一緒だったと思う。
そのナツヒが入院していた。雷と同じ任務の後に。『何か聞ければ』そう思い、ぼくは病室のドアを開けた。
「よう。めずらしいな」
ナツヒはベッドに座っていた。腕に包帯。火傷を負ったと聞いた。
「一年ぶりか?」
「うん。それくらい」
「任務でも会わねぇもんな。ま、オレはいいけど」
「ぼくは雲側の任務多いから。君は雷と気が合ったものね」
「まあな。あいつとは、勝負ついてないし」
白眼を向けて、にやりと笑う。思いだした。アカデミー入学してまもなく、雷は上級生のナツヒと訓練中もめて、勝負したのだ。その後も何かにつけてやり合ったと聞いていたが、まだ決着がついてなかったとは。
「弟を知らない?」
思いきって訊いてみた。ナツヒの眉が顰められる。ぼくは言葉を継いだ。
「雷が家に帰ってないんだ。ぼくは長期の任務で里を離れてて、今日帰ってきたんだけど、そしたら雷がいなくて・・・・彼に何があったか知らない?」
一気に言った。彼以外、手がかりはもうなかったから。
「・・・そうか。あいつ、家に帰ってないのか」
しばらくの沈黙の後、ぽつりとナツヒは言った。
「ナツヒ、知ってるの?」
期待を感じて聞き返す。彼は一瞬複雑な顔をして、諦めたように口を開いた。
「一ヶ月ほど前のことだ。オレと雷は、数人の中忍達と任務についた」
「うん」
「簡単な任務だった。『草』を所定の位置に追い込んで、待ち伏せた上忍に始末させる。でも、状況が変わった。『草』の奴、潜ませていた岩忍と合流しやがった。どいつも明らかに上忍でな。囲まれて、オレ達はやられるしかなかった。でも、岩忍たちは全滅したんだ」
「上忍相手に?応援が来たの」
「いや。雷が倒したんだ。『草』があいつに何か言ってて、急にあいつは暴走した。すさまじい気で雷撃と火炎を繰り出してな。息をつく暇もなかった。オレも逃げるのに必死でさ。何人か逃げ遅れて、やられた。上忍達が止めてくれなかったら、皆殺しだっただろう。雷はその咎で、しばらく拘束されたんだ」
「雷が・・・・」
信じられなかった。雷が、味方さえ巻き込む、だって?
「あいつ、暴走中のこと覚えてなかった。半月前、ここに来たんだ」
「ナツヒ。雷はどこに行ったの?なにか言ってなかった?」
「飛び出していったよ。『すまない』って。『もう組まなくていいから』って。・・・・馬鹿だよな」
悔しそうにナツヒが言う。肩がふるえていた。
「風。雷を探してくれ。あいつ、一人で抱え込むつもりだ。周りに誰かいたら、そいつを傷つけると思ってる。頼む」
ぼくは、黙って頷いた。
一礼して病室を出る。探さなければ。雷を。
『どこにいるんだ。雷』
心の中で叫びながら、ぼくは里を駆けた。
ACT2へ続く
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