終わらない夢 〜木の葉の里編〜 by真也
ACT4
右肩が温かい。耳元で微かな寝息。甘いにおいが漂ってくる。
「よく寝てるね」
狐面が覗き込む。鈴が言った。
「槐樹は雷が好きみたいだね。安心しきってるよ」
目を細めて風。
「引き返すか?」
「いや。ここまで来たから森の家まで行くよ。ぼくも久しぶりだし」
「そうだな」
ぼそぼそと話しながら森の中を歩く。頭上には半月が輝いていた。
あの後、俺達は郊外の家を出た。あそこには子供たちがいる。ゆくゆくは大所帯となるだろう。最初から、俺は森の家で住むことに決めていた。
『らいおーちゃといくう!』
別れ際に槐樹は泣いた。もともと機嫌のいい方で、そうだだをこねない子供だっただけに、周りは甘かった。
『いいじゃない。槐樹、らいおーちゃんを送ってゆくのよね』
サクラおばさんの一声。その結果、槐樹と風が俺達を森の家まで送ることになった。そして、槐樹は途中で眠ってしまったのだ。
「それにしても、本当にいいの?」
風が訊く。
「ああ。風が管理してくれ。俺は、殆どの術をコピーしている」
郊外の家に封印されていた本。俺は、あの本をあそこに留めて置くことにした。きっと、ナルトには何かの思惑があって、あれをあそこに封印したのだ。あの家では風の子供たちが育つ。写輪眼を受け継ぐ者たちが。だから、それでいいと思った。
「森の家か。懐かしいな。何年ぶりだろう」
「4、5年になるか」
「そうだね。リーおじさんが定期的に掃除はしてたみたいだけど」
「なあ」
鈴が訊いた。そちらに目をやる。
「今から行く所って、雷の家?」
「家というより、隠れ家だね」
兄が悪戯っぽく言う。俺と同じ目がきらりと光った。
「隠れ家?」
「うん。やなことあった時とか、雷がよく逃げ込んでたんだ。ついには、そこで一人暮らし」
「風」
バツが悪くて睨む。その視線を兄はあっさりと躱した。
「見えてきたよ。あれだ」
風が指差す。その先にある小さな小屋。
あそこで戦い続けた。いつも一人で。
哀しみも痛みも悔しさも。何もかもあの家で耐えた。いつか、乗り越えられることを信じて。
帰ってきたのだ。俺の場所に。
「どうぞ」
からり。兄が戸を開ける。
「俺の家だ。そろそろ代われ」
槐樹を差し出して言う。風が我が子を受け取った。槐樹はよく眠っている。中に入った。埃と、懐かしいにおい。燈を灯した。
「わあ」
面を外した鈴が漏らした。一間と申し訳程度の台所と厠。小さな、俺の家。
「・・・・・ここで暮らしてたんだ」
「そうだ。狭いか?」
「そうだな」
「なんなら、他に家を建ててもいい」
苦笑しながら言った。確かに、男二人ではぎりぎりの広さだったから。
おそらく、任務で一年の半分は里を空けるだろう。合間の期間だけだから、ここで事足りるかと思っていたのだが。
「いいよ」
ぽそりと鈴。
「お前はここで暮らしてたんだろ。なら、ここでいい」
「・・・鈴」
柔らかに笑う。表面に囚われることのないお前の心。愛しく見つめた。
「雷、悪いけど」
兄の声。我に帰った。さすがに今はまずいか。
「あれ?」
あいつが漏らした。目をやる。
「何だろう。さっきいた家と一緒だ。厳重に結界が張られてる所がある」
「どこだ」
「あそこ」
鈴が窓を指差す。左上。そこには板が貼り付けられていた。昔、セキヤが硝子を割り、俺が板を張ったのだ。
「あの板。その向こうで強く感じる。結界の中にすごい気が内包されている」
「結界、外せるか?」
「やってみる」
あいつが印を組んだ。先程より長く、複雑な口呪。右手がぼんやりと輝き、横一列に印が切られる。短い金属音と共に、封じられたものが解き放たれた。
「うっ」
声が上がる。熱い。紅い気。これは。
「雷」
「ああ。これはあいつだ」
セキヤ。紅蓮の人。
「見て」
鈴が言う。目をやると、右手の指輪が淡く輝いていた。
「板の向こうも光ってる」
「任せろ」
俺はクナイを放った。真っ二つに板が割れる。中から光。
「これは」
巻き物が一本。小柄が一太刀。どちらも指輪と同じ光に包まれていた。
「まさか・・・・朱家の神器」
風が呟く。目で訊いた。言葉が継がれる。
「セキヤは朱家という忍の一族の末裔だった。たぶん、これはその奥義」
巻き物と小柄を手に取る。朱家。これが、セキヤの。
「その指輪、どうしたの」
「ナルトからもらった。セキヤの形見だと」
「そうか。じゃあ、五代目は選んだんだ。彼の後継者に、雷を」
兄が見つめる。穏やかに微笑んだ。
俺が、だと?ナルトが選んだのか。信じられない。
セキヤのものを受け継ぐ。全てが未知のものを。鼓動が激しく打ち続けている。
「できるよ」
腕に手が触れる。鈴だった。
「雷になら、出来る。すきだったんだろ?彼のこと。・・・・・おれも手伝うから」
あいつの手を取る。そのまま握った。
「そうだな」
そうだ。お前となら出来る。どんなことであろうと。
「忙しくなるね。これの解読をしなくちゃ。よかったね。当分、任務ないんだろう?」
風が訊いた。俺は頷く。
「かい・・・・ねゆよ」
兄の腕で槐樹が言う。寝言だ。むにむにと額を父親の肩にすりつけた。
未来。
やることは膨大で計り知れない。それでも、進んでゆくだけ。
受け継いだものを守り、生かしていく為に。
手の中のものを握り締め、俺は固く唇を結んだ。
ACT5へ続く
戻る