終わらない夢 〜木の葉の里編〜 by真也
ACT3
「時期が時期だし、これなんかどうかと思って・・・・」
そう言いながら、サクラおばさんが何か運んできた。ことりと皿が置かれる。葉に包まれた食べ物。
「雷・・・」
鈴が不安そうに見ている。軽く笑み、俺は説明した。
「柏餅だ」
あいつはまだ首を傾げている。想像がつかないらしい。
「あの、お菓子なの。父の和菓子はおいしいのよ」
向かいの席からアンが言った。その脇では、槐樹がさっそく柏餅に手を出している。隣の風がぴしりと手を叩いた。
「槐樹。『いただきます』をしてないよ」
「あい。・・・・ただきます」
子供は小さな手を合わせた後、柏餅を食べだした。
「別に毒など入っていない。食べてみろ」
「わかってるよ。じゃあ・・・」
言いながら鈴はそっと手を出した。葉をめくり、中の餅を食む。
「甘いや」
口を動かしながら、ぽつりと言った。笑みが零れる。
「そういえば、アンがおはぎを暗部の人に差し上げたって言ってたけど。もしかして、鈴さん?」
サクラおばさんが訊く。
「鈴でいいです。はい。おはぎ、うまかったです」
「やっぱり!よかった。それも縁だったのね」
ぱちりと手を打ちながらアンが言った。鈴は恥ずかしそうにしている。アンがあいつに菓子を。そういうことがあったのか。
「雷は食べないの?」
風が尋ねた。
「俺は、甘いものは苦手だ」
自分の分を鈴に押しやり、それに答える。
「ええっ。雷、好きだったじゃない」
アンが驚いている。俺は苦笑した。いったい、いつの話をしているのか。
「仕方ないね。雷が悪いよ。なんせ、あの日から一方的に縁切り状態だったもの」
意地悪く兄が言った。言葉もない。それは事実だったから。
「・・・・いいな」
声に目をやる。二つめの柏餅を食べながら、鈴が呟いた。
「すごく、いい。温かい。こういうのを、家族っていうんだね」
「鈴!」
サクラおばさんの声。びくり。鈴が固まった。
「駄目よ。そんな他人行儀なこと言っててどうするの。これからは、あなたもここにしっかり入ってもらいますからね」
あいつが絶句している。どう言ったらいいかわからないらしい。
「返事は?」
「あ、はい」
促され、鈴はしゃちほこばって答えた。くすり。誰ともなく笑み浮かぶ。ほぼ全員、同時に笑いだした。
「ねー」
ひとしきり笑い終った後、槐樹がアンに訊いた。
「なに?」
「そーじゅは?」
「ああっ!ここに寝かせておいたのにっ。蒼樹!」
真っ青な顔で叫んだ。確かに、アンの横で寝ていた蒼樹がいない。皆、周りを見渡した。
「あらら。まったく、油断も隙もないわね」
「動くことにかけては、蒼樹は槐樹に引けを取らないね」
苦笑しながら、サクラおばさんと風。
「いないわっ。蒼樹〜」
アンが焦っている。どうしたものかと思った時、鈴が俺の袖を引いた。目をやる。
「雷・・・・・どうしよう」
鈴の膝には、いつのまにやら蒼樹が乗っていた。おそらく、這うか転がってきたのだろう。蒼樹は鈴の膝で、うきゃうきゃと笑っていた。
「アン。ここだ」
「よかったっ。もう、蒼樹ったら」
「蒼樹は鈴が気に入ったようだよ」
「あら。血は争えないわね」
皆が囃し立てる。面白くないので赤子を覗きこんだ。
「おい」
瑠璃のような目を覗きこむ。瞬間。それが紅に変わった。写輪眼。
「ああっ!でたわ!」
アンが叫んだ。緊張が高まる。
「鈴。結界を頼むよ」
「あ、ああ」
風の声にあいつが結界を張った。皆、安堵する。
「よかったわ。鈴がいてくれて。雷、駄目じゃない」
「・・・・・俺のせいなのか?」
「だって、雷が見た途端だったもの。ここに来てから、滅多に出なかったんだよ」
「蒼樹は雷は嫌いみたいね」
アンが揶揄う。俺は黙り込んだ。
「でも。かわいいね」
蒼樹を抱きあげながら、鈴が言った。笑んで赤ん坊を見つめる。紅の眼が蒼く戻った。
「あ・・・」
「戻ったね。鈴、ありがとう」
風が言った。腕の蒼樹を抱き取る。蒼樹は一声ううと唸ったが、おとなしく父親の腕に抱かれていた。
ちらりと鈴を見やる。あいつは、楽しそうに笑っていた。その時。
「みなさーーん!準備ができましたよー!」
台所から、リーおじさんの声が聞こえた。
「もう、お腹いっぱいだよ」
鈴が言う。きっと初めてだろう。あれほど様々な料理を食べたのは。子供のように興奮気味だ。
「ああ。久しぶりによく食った」
遅いめの昼飯を平らげた後、俺達は座敷でくつろいでいた。様々な本の並ぶこの部屋で。
「雷、本がいっぱいだな。いろいろ見てもいいか」
部屋中を見回した後、鈴が訊いた。俺は頷く。あいつは立ち上がり、本棚の一つの前に進んだ。
「・・・・・ここだ」
「何がだ」
「ここの本数冊に、何重にも封印結界と防御結界が張られている。おれと同じ波長で。五代目がしたのかな」
「ナルトが?」
「うん。ともかく、結界を解いてみる」
あいつが印を組む。かなり長い口呪の後、ぴしんと小さく光が走った。
「もう触れてもいいよ」
促され、その本を手に取った。この感じ。似ている。文庫の中で、あの本を見つけた時の感じに。俺は紅い眼を見開き、本を開いた。
「・・・・・」
息を呑む。中には、写輪眼でのみ読める印で膨大な情報が書かれていた。木の葉の歴史。ありとあらゆる術と禁術。近辺諸国と木の葉の関係。結界術。
「それ、触れたんだね」
声に振り向く。戸口に風がいた。
「どうしてもその本だけは触れなかったんだ。結界が解けなくて」
「風が?」
「推測だけど、五代目はある条件が充たされれば、それを見ることが出来るようにしていたんだと思う。・・・・ぼくも見ていいかい?」
尋ねられて頷く。風がこちらにやって来た。本を手に取る。
「すごいね。中身を予測してはいたけど、ここまでとは思わなかった」
ページをめくりながら、兄が言った。
「風。これは・・・」
「おそらく、これは彼が、『うちはサスケ』が持っていたものだよ。五代目はそれを預かっていた。そして、ぼく達にそれを伝える為、この本をここに封印した。条件を架して・・・・ね」
「条件って、おれも入るのかな」
「たぶん、その一つだと思うよ」
鈴の問いに風が返した。
ナルトが。俺達に伝える為に結界を。それに、この本を奴が。胸が詰まりそうになる。
夢。
どれだけの過程を経て、彼はこの夢への道を築いたのだろう。
誰にも頼らず、患った身一つで。
穏やかな笑みが、風に揺れる金髪が思いだされる。いつも、碧い瞳で見つめていた。未来を。
「雷・・・・・見て」
本の最後のページを見つめて、風が言った。俺達は覗きこむ。そこには、短い言葉が走り書きされていた。
『もし、大切なものがあるのならば、お前達はそれを離すな』
右上がりの文字。一つ一つが整っている。そこから感じる、自分と同じ『気』。
奴だ。
これが、これこそが『うちはサスケ』なのだ。
「彼だね」
風が言った。
「ああ」
俺は頷く。
「一緒に・・・・いたかったんだろうね」
鈴が、泣きそうな顔で呟いた。
短い言葉。それが全てを物語る。奴の思いを。奴の、夢を。
本を手に、俺達はそこに立ち続けた。
生み出した者たちの、切ないまでの夢を胸に。
ACT4へ続く
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