終わらない夢 〜木の葉の里編〜 by真也
ACT2
里のはずれにある家への道。
少年の日は、風やサクラおばさん達と歩いた。大抵、何かたわいもないことをを話しながら。
いつかはナルトと歩いた。彼を背負い、その軽さを噛み締めながら。
そして今、俺は鈴とここを歩いている。
「いい風だな」
若草を踏みしめながら、あいつが言った。
「面がなければ、もっと気持ちいいんだろうけど」
苦笑混じりの声音。少しだけ、申し訳ないような気になる。
「いくぞ」
声と共に足を速めた。早くあの家に着きたい。この風が吹いているうちに。あそこなら、風を頬に受けさせてやることが出来る。
鈴は小さく息を落とし、肩を並べた。二人、風に吹かれながら先を急いだ。
「どんな所?」
あいつが訊く。
「俺が育った所だ」
ぼそりと返した。
「それは聞いた。育ててくれた夫婦と娘。それに、雷の兄さんがいるんだろ?」
「それだけじゃない」
鈴が小首を傾げた。意外だったらしい。
「風の子供が・・・・・俺の甥たちがいる」
「子供かぁ。雷に似てるのか?」
訊かれて返答に困った。似ているかどうか、判断がつかなかったから。
「行けば分かる。あれだ」
家が見えてきた。俺は指差し、鈴に言った。
「・・・・・すごいね」
鈴は数瞬、家を眺めて呟いた。何を意味するのか分からず目で訊く。狐面の奥の瞳が、きらりと光った。
「すごい結界だと言ったんだよ。ものすごい攻撃結界と優しくて強靱な防御結界が二重に張られている。どちらも、違う人のものだ。それが、ぴったりと調和している。だから、すごいと言った」
言われて驚く。郊外のあの家に結界が張られていることは知っていた。でも、それだけ緻密なものが張られているとは思わなかったから。結界術者である鈴には、その細かい部分までも見えているのだろう。
「結界を張った人ね、一人は雷と同じ波長の人だ。そして、もう一つはおれと同じ波長。たぶん、五代目なんだろうな。とても、温かい気が溢れているんだ」
家の外門までやってきた。鈴が結界印を組む。辺りに青白い光が走り、消えた。
「鈴?」
「結界の気が薄れてきているから、少し足しておいたんだ。どうせおれもここに住むんだろ?」
「・・・・いや」
「え?」
「お前と俺が住むのは、別の場所にしようと思っている。ここには子供がいるからな」
「ふーん」
わかったようなわからないような声。
「さあ、入るぞ」
言いかけて進もうとした時、外門の向こうからパタパタと音をたてて、小さな影が現われた。
「らいおーちゃーーーっ!」
銀髪に黒い瞳の子供。槐樹だった。
ぽすん。槐樹が止まりきれずに腿にぶつかる。両手を伸ばして俺を見上げた。
「おーちゃ、だっこー」
期待いっぱいの目。諦めてその体を抱き上げる。鈴を振り向いた。
「槐樹だ」
「う、うん」
「あーーーー!きちゅねさんだー!きちゅねさん、だっこー」
言いながら手を伸ばす。鈴は最初退いていたが、意を決したように腕を伸ばした。槐樹を抱く。
「軽いね」
「子供だからな」
「いくつなの?」
「もう三才だよ」
投げられた声に顔をやる。そこには風が立っていた。サクラおばさんやリーおじさん、蒼樹を抱いたアンもいる。
「雷、おかえり。そして鈴さん、いらっしゃい」
サクラおばさんが言った。
「どうぞ結界の中に入ってください。この中は許された者しか見られないです。だから、面も外せます」
リーおじさんが促した。
「槐樹、おいで」
風が微笑む。わが子を手招いた。
「あい。とーたん」
鈴の手を降り、槐樹が父親のもとへと走ってゆく。ひょいと抱き上げられた。自然なしぐさ。親子なのだと思った。
「雷」
腕に鈴の手。小刻みに震えていた。恐いのだろう。あいつにとっては、新しい世界だ。
「行くぞ」
鈴の手を取り、握ったまま進んだ。一歩を踏み出す。結界の中に入った。
「ようこそ。待ってたのよ」
皆が迎える。温かな笑みで。優しい言葉で。
俺は狐面に手をかけた。紐を解く。声にならない声があがった。皆、鈴を見つめている。
「・・・ああ・・・」
目を潤ませながらサクラおばさんが言った。手を伸ばし、鈴の頬に触れる。あいつを抱きしめた。鈴の目が大きく開く。
「ありがとう、鈴さん。いえ、鈴と呼ばせて頂いていいかしら。本当に、ここに帰ってきてくれて、ありがとう」
抱きしめたまま、サクラおばさんが言葉を継ぐ。鈴の顔が歪んだ。ひしと背中に手を回す。
「おかえりなさい」
「・・・うん」
「ここは、あなたの家よ」
「うん」
「好きなだけいてね」
「うん」
サクラおばさんの言葉に、鈴は頷き続ける。目には涙が浮かんでいた。
「よかったね」
風が言った。
「彼を探していたんでしょ」
「ああ」
「本当に、よかった」
風の目も濡れている。槐樹が不思議そうに覗きこんでいた。妙に照れ臭く感じる。
帰ってきたのだ。
優しくて温かい場所に。
あいつと二人で。
確かに、帰って来たのだ。
ほっと肩の力を抜いた時、蒼樹が泣き出した。俺達は顔を見合わせ、皆と共に家の中へと進んだ。
懐かしい家の扉が、今、閉められた。
ACT3へ続く
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