終わらない夢
 〜木の葉の里編〜 by真也







ACT1



 碧い空を同じ色の目が映している。透明度の高いそれに、多くの光を吸い込んで。
「近いな」
 鈴が言う。
「ここは、空が近い」
 輝く笑顔。まるで、あいつ自身が光源のような。俺を、全てを照らしている。
「そうだろうな」
 率直に言った。疑問の視線に気付く。言葉をつけ足した。
「ここは、里で一番高い所だ」
「ああ。そうなのか」
 納得したように頷いた。金色の髪が揺れる。さらりと音。
 かつて、ここでナルトを見送った。奴が迎えて、ナルトは戻った。二人でいられる場所に。
 今、俺はこの場所に立っている。俺だけを必要としてくれる者、鈴と共に。
「そろそろいくぞ」
 顎をしゃくった。休憩は終わり。これから里に入る。あいつが狐面を手に取った。
「しかし。面倒といえば面倒だよな。ま、仕方ないけど」
 言いながらチャクラを練る。面を吸着させる為だ。
「土台が土台だからな。素顔で里を歩けば、ひと騒ぎ起こるだろう」
 あり得る事実を伝える。木の葉の長老達は、鈴を里に迎えることに条件を出した。即ち、限られた環境以外では面を装着することを。
 彼らの言い分も分かる。鈴はナルトをもとに生まれた。その鈴が表立てば、六代目火影の治世が危うくなる可能性もある。それを避けたいのだろう。
「本当。有名人も大変だな。これじゃあ、ナギに顔変えてもらった方がよかったか」
 おどけた言葉に引っかかる。ぐいと腕を引いた。間近に迫る。
「駄目だ」
「えっ」
「俺はお前の顔が気に入っている。それに、他の奴に顔を見せなくても、何の支障もない」
「雷?」
「お前の顔は俺だけが見られればいい。嫌か?」
 強気で訊く。あいつの顔が複雑に歪んだ。 
「・・・すっごい、わがまま」
「なんとでも言え」
 狐面をつけてやる。後ろ頭で紐を結んだ。
「俺の育った家に着いたら外してやる」
 面から出ている耳に囁く。
「はいはい。待ってるぜ」
 くぐもった声が聞こえた。





 一年に渡る暗部配属を終え、おれは里へと呼び戻された。もっとも最後の四ヶ月あまりは、暗部研究所で過ごしたのだが。
 暗部を離れるにあたり、俺は正式に里へ要求を出した。つまり、鈴を俺の副官として配置することを。
 鈴の存在は上層部でもごく一部しか知らされていなかったようで、四ヶ月まるまるの時間をかけて討議された。そして、里は条件を出すことであいつを受け入れたのだ。
 奥殿の一室で俺達は控えていた。これから、六代目火影、木の葉丸と謁見することになっていた。
「御前のおなりです」
 エビス長老の声が響いた。同時に扉が開き、長老を伴った六代目が入ってきた。俺達は拝礼する。
「君たちのことはシノから聞きました。暗部研究所から正式な報告書も届いています。こちらの条件も飲んで頂いたと考えていいでしょうか?」
 エビス長老が訊く。俺達は頷いた。
「ではここで、今一度君たちへの条件を確認します。うちは雷上忍はそこの者を副官とし、常にその顔が表出たないよう監督し続けること。但し、うちはの結界で囲まれる郊外の屋敷、雷上忍の結界下でのみ狐面の取り外しを許可します。宜しいですか?」
「承知」
 俺達は答えた。鈴も頷く。
「では、命令書に血判を」
 巻き物が広げられた。俺達は署名し、血判を押す。長老と火影により、封印結界が組まれた。これで、これを見られるのは歴代火影と筆頭長老のみ。 
「では、上忍としての任務に復命してください。正式に次の任務が降りるのはひと月程掛かるかと思います。それまで待機を」
「いいのか」
「何です?」
「俺達は暗部研究所で四ヶ月の休養をとっている。この際、任務があれば何でもするが」
「そういうわけにはいきません。君たちの力は計り知れないですから。それ相応のことをして頂きます」
 黒眼鏡の奥が不敵に光る。要するに腕試しということか。
 そういうことなら文句はない。俺は頭を垂れた。
「では、下がれ」
「エビス。待て」
 長老の命を六代目が制止した。視線が集まる。
「頼みがある。鈴とやら、面を外してくれまいか」
「御前」
「わかっている。火影自ら禁を破るなど。しかし、一度だけだ」
 六代目がエビスを見やる。筆頭長老は黙って頭を下げた。
 促され、鈴が面を外す。ナルトと瓜二つの顔が現われた。上座の二人が息を呑む。
「・・・・似てるな。あの方が帰ってこられたようだ」
 絞り出すように六代目言った。
「まことに。だからこそ、封じなければなりません」
 ため息を吐きながら、長老が呟く。
「発言を、許していただけるでしょうか」
 ひっそりと鈴が訊いた。皆、目を見張る。
「よい。申せ」
 六代目が命じた。
「おれは、いえ、私は姿こそあの方を写しておりますが、中身は全く似て非なるものです。どうぞ、この面はお捨て置きになり、一忍としてお使いください」
 意志を持つ瞳。まっすぐに上座を見つめた。
「わかった」
 六代目が応ずる。あいつは黙って拝礼した。 
「それでは、下がるがいい」
「御意」
 火影の声に背を押され、俺達はその場を後にした。  





ACT2へ続く

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