いつか、おまえになるまで 〜『終らない夢』エピローグ1・鈴〜 by真也







 敷布を握りしめる自分の手を見ていた。
 身体を揺らされるごとに声が出る。うわ言のような、力ない声が。
 この状態でどのくらい経ったのだろう。時間の感覚はもうなかった。
「何を考えている」
 後ろで低音。苛立ちを内包している。おそらく、自分でも整理がつかないのだろう。
「う・・・・あっ!」
 しばらく答えないでいたら、深く穿たれた。思わずのけぞる。下顎を持たれ、そのままの姿勢を保持された。
「答えろ。お前は今、何を考えているんだ」
 耳を噛むように言葉を落とし込まれる。びくり。背が震えた。
「ら・・・い。や、め・・・」
「答えるのが先だ」
 やっと出した言葉は途中で遮られてしまった。更に動きが激しくなる。無茶だ。こんな状態で言えるわけない。そんな余裕、ない。
 声を散らす。できる限り力を抜いて受け入れ続けた。あいつがどんどん荒らしてくる。深く、弱いところまで。自然と身体が恐怖を訴えだした。

 焼き尽くされてしまうかもしれない。

 時折、それほど雷は荒れ狂う。こちらのことなど、露ほども考えてないと思えるくらいに。 
「お前は俺のものだ。他所事は許さない」
 原因の多くは感情に由来している。あいつ自身もかなりもて余していたようだ。一度は、全ての人との関わりを断ち切ったほどに。
「他の奴には、笑うな」
 雷は自分の感情を恐れていた。だから、それを誰かにぶつけることはなかった。それがたとえ双子の兄でも。一番に慕う五代目であっても。
「俺だけでいい」
 あいつは耐えた。身のうちに渦巻くものを、一人で封じ込め続けて来たのだ。そのせいで、加減が効かない。
 今の雷を動かしている感情。それはたぶん、嫉妬。
 理屈ではない。たとえ相手が槐樹や蒼樹みたいな子供でも、抑えられないのだ。
 子供たちに向ける感情と雷に注ぐもの。それらは、内容も質量も段違いに違う。けれど。『全部』欲しい雷には、それさえも許せないのだろう。
「は、ああっ!」
 右足が持たれた。乱暴に身体を返される。埋めこまれたままのそれが内部を抉り、声を放つしかなかった。
「鈴」
 声に目を開いた。すぐ前に闇色。切なく訴えている。その奥にあるものを思い、おれはそっと手を上げた。頬に触れる。
「雷・・・・・見せて」
 微笑みながら言った。雷の目が大きく開く。すぐにもとの大きさになった。
「何も考えてなんかない。ただ・・・・見たいだけ。わかってるだろ?おれが欲しいのは、雷だけ」
 丁寧に言葉を紡ぎだす。正直な、ただ一つの言葉を。あいつの睫が伏せられた。再び開く。
「ああ・・・・」
 現われた紅に声が出る。そう。望んだのはおまえだけなのだ。他にはない。おれは一つしか持っていなかった。おまえに巡り合う夢だけしか。
「・・・・すまない。無理をさせた」
 沈静。
 端正な顔が殊勝に歪んだ。おれは雷の首に手を回し、唇を繋ぐ。息が混じり合った。
「りん」
 口づけの合間より零れる、おれだけが知っている声音。心まで染み渡っていく。下肢の動きも変わった。責めたてるものから味わうものへと。そうして、ゆっくりと身体が作り直されてゆく。
 無理だなんて思ってない。
 おれは器だから。この身体も。心も。存在全部でおまえを受け止めるものだから。どれだけ注いでもいい。むしろ、全部注ぎ切って欲しい。
 雷は確かに嵐だ。けれど。それが過ぎ去った時のような、静かな優しさも合わせ持っている。
 おれはどちらも好きだ。荒れ狂う雷も。静かな雷も。雷に変わりはないから。




 おれ達の原形、うずまきナルトは五代目火影になり、うちはサスケはそれを承諾した。おそらく、本人達の求めるものは違っていただろうに。だからこそ、おれ達は生まれた。捨てざるを得なかった夢と共に。
 うずまきナルト。
 おれは少しの時間しか、彼と接点を持たなかった。けれども、わかる。
 今、身体の細胞一つ一つが明確に示している。純粋な、歓びを。
 うちはサスケと同じ身体を受け入れること。
 それを、この身体は何よりも切望していたのだ。

「んっ・・・あ・・」
 雷が奥へと進む。内部が溶け合う。どこまでが自分かも分からなくなってゆく。


 喰われている。
 身体の内部から全身へと。でも、いい。
 かけら一つ残らず、全て喰い尽くして欲しい。身体も。心も。魂も。
 喰われることでおれはおまえになる。おまえと引き剥がされない、おまえの一部に。


 互いの一部になること。
 おそらく、うずまきナルトもそれを望んでいたのだ。だからおれを育て、試した。雷と生きていけるように。
 彼を恨んでなどいない。シギやナギも。暗部の人達さえも。むしろ感謝している。あの日々があったからこそ、こうして雷と立つことが出来たのだ。


 あいつはおれを縛っている。全部取りこぼさないよう必死で。しかし。
 本当に縛りつけて離さないのはおれだ。貪欲なのも。傲慢なのも。誰よりも自覚している。それでも。
 雷の身体も、心も。うちはの血も。魂さえもおれのものだ。これだけは譲らない。たとえ相手が雷自身であっても。
 それが、おれの唯一だから。


 動きがせわしくなってきた。その瞬間が近づいている。待ち焦がれた時間が。
 おれは喰らわれ続ける。果てのない時間を。それでいい。
 それが夢。終わらないおれの夢。
 だから、もっと喰らい続けて。
 いつか、おまえになるまで

end


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