俺は『うちはサスケ』より生じ、あいつは『うずまきナルト』より生じた。でも。
 俺達は彼らではない。
 だからこそ、共に在ることができる。







彼でない彼 〜『終らない夢』エピローグ2・雷〜 by真也








「うずまきナルトって、本当に優しい人だったんだな」
 褥の中でお前が呟く。一つしかない窓の外。ぼんやりと光る月が、やっと二人分横たわれる空間を照らしていた。
「確かにな。俺の知っているナルトは自分よりまず里、他人のことを考える人間だった」
「それほど、大切だったんだ」
 やんわりと微笑む。ナルトそのものの横顔。さらり。項を包む金糸が流れ落ちた。
「当たり前だろう。ナルトは、火影だから」
 妥当な答えを告げる。光の加減で瑠璃色に見える瞳が、面白そうに細められた。奇麗に弧を描く口元。何を考えているのか。見当もつかず、目で訊いた。
「違うよ。・・・・・わからない?」
 わからず先を促す。くすりと笑って鈴は続けた。
「彼は火影だから里が大切だったんじゃない。うちはサスケが命を賭して里を守ったから。だから大切にしたんだ。そうだろ?」
 明確に言い表されて頷く。確かにそうだ。彼はうちはサスケが里を守りきったからこそ、火影であり続けたのだ。
「ねえ、もっと聞かせて。彼のことを知りたい」
 鈴はナルトのことを聞きたがった。大抵は情事の前後に。それは俺や風が幼い頃、ナルトに寝物語をせがんだのによく似ていた。イルカ先生と言う人の話。カカシ先生と言う人の話。ナルトはいつも困った顔で、それでも懐かしそうに話してくれた。
「鈴。訊いていいか?」
「なに?」
「お前は、写輪眼が欲しいか?」
 ふと思い出した。蒼い空の下、ナルトを背負って歩いたあの日。あの人は言った。
『一度だけ、写輪眼が欲しいと思ったことがある』と。
 鈴が不思議そうな顔をしている。俺は言葉を継いだ。
「写輪眼はこれを持つ者の姿を伝える。最後の姿を・・・だ」
「最後の?」
「ああ。だから、もしお前に写輪眼があれば、俺の死に際が視られるということになるな」
 淡々と説明する。鈴は眉を顰めた。
「写輪眼って、どこにあるのさ。予備なんてないだろ?」
「ここに、二つある」
 目を閉じ、写輪眼を見開く。指差して答えた。
「お前なら、一つやってもいい」
「・・・・・雷」
 鈴が大きく目を見開く。唇が何か言おうとして、小さく震えた。俺は微笑む。それは本心。お前が望むなら、目の一つ位、わけもないことだったから。
「欲しいか?」
 もう一度訊く。ナルトは欲した。奴の最後を視たくて。人の形をしていなくとも、それでも構わない程に奴を切望していた。奴と共に在ることを。 
「鈴」
 答えが欲しくて名前を呼ぶ。意地悪い質問だとは承知の上で。右手を取り、口づけながらあいつを見た。
「いらない」
 口づけた手がすっと退かれた。虚を突かれて呆然とする。拗ねたような瞳が見つめかえしていた。
「だっておれ、雷の最後なんて見ないもの」
 意味が分からず首を傾げた。にやり。あいつが笑う。
「どう考えても雷よりおれの方が先っぽいだろ?で、おれが死んだ後、雷も長く生きてないからな」
「どうしてそんなことが言える」
 不敵な態度に憮然と尋ねた。にっこり。鈴が輝くように笑う。自信たっぷりに言った。
「おれ、死ぬ前に言うもの。『待ってるぜ』ってさ。な?生きてないだろう?」
 一瞬、思考が止まった。すぐに苦笑する。正論だ。お前が待っているのに、俺が行かないはずがない。俺達は共に在る。それだけでいいのだから。
「敵わないな」
 降参する。そうだ。俺はお前には敵わない。お前にだけは。引き寄せ、思い切り抱きしめた。鈴が窮屈そうにもがく。無視して抱きしめ続けた。
「それにしても、おれたちって駄目だよな」
 腕の中で鈴が呟く。顔を覗きこんだ。悪戯がバレた時のような表情を見つける。
「だってそうだろ?これって、もしかしないでも心中だもの。間違ってるよ」
「そうだな」
 言いながら唇を塞いだ。抗議する手を無視して舌を掠め取る。思う存分味わって離した。
「も、いきなりなんだよ」
 あいつが睨み付けている。紅く色なす唇。濡れた光に、新しい熱が湧き起こる。
「悪くない」
「えっ」
「間違った道でも、お前となら望むところだ」
 肌に触れる。ついたばかりの刻印の後をたどって。指で、唇で。更にそれらを鮮やかに色づけてゆく。馴染んだ身体はすぐに反応を表した。別のものへと変化してゆくように。
「連れていけ」
 耳元で囁いた。潤んだ目が何かと訊く。俺は再度言い直した。
「お前が連れて行ってくれるんだろう?どこへ行く?」
「・・・・そうだな」
 目を閉じ鈴が答えた。少しの間考え、足を開く。誘う瞳。しなやかな手が俺をそこに導いた。
「とりあえず今は天国、かな」
 奇麗に微笑む。俺がこの世で一番美しいと思う笑みで。納得して、俺は身を進めた。



 お前がお前であってくれてよかったと思う。
 ナルトの様に自分より他人のことを思いやる者であったなら、お前はいつか、俺より離れてしまうだろう。
 あの人はそれをわかっていながら火影となり、奴はそれを知っていながら敢えてあの人の意志を尊重したのだ。そして、二人は耐えた。俺達という希望を残すことで。
 たぶん、俺は耐えることは出来ない。お前を取り上げられてしまったら、いとも容易く捨ててしまうだろう。
 『人』として、生きることを。
 だから、お前に巡り合えたことに感謝している。



 その瞬間が近づいてくる。鈴の強請るような声を聞きながら、俺は更に深く、その身を沈めた。



end



皆様へ>
 まずはこの、三世代の長きに渡る物語にお付き合い下さいまして、ありがとうございました。
 『月』はともかく、『鳥』、『夢』はカカイル、果てはNARUTOの世界からも遠ざかっておりますのに、最後まで読み進めて下さいました皆様に、心より感謝を申し上げます。
 次世代サスケとナルトの夢に導かれて、雷と鈴は巡り合いました。そして、自らの意志で共に生きてゆくことを決心しました。
 彼らの夢は終わりません。もう一人の『うちは』、風と共に、先達の者たちから受け取ったものを守り育てながら、新たな夢を紡いでゆくのだと思います。
 つうと真也のことです。ひょっとしないでも、これ以降のお話が暴走部屋にお目見えしてしまうかもしれません。
 その時は、お気が向きましたら覗いてやって下さいませ。
 最後に、重ねて申し上げます。
 本当にありがとうございました!
真也拝

皆様へ。
 「月」シリーズ本編が公開されたのが、2001年9月。
 次世代の「鳥」シリーズ、そして第三世代の「夢」シリーズへと続いてきた長い長い 物語が、ようやく終焉を迎えました。
 その間、一年と五ヶ月。 ずっと見守り、応援してくださった皆様、本当にありがとうございます。 もう、その言葉しかありません。
 カカシとイルカが遺したものをナルトとサスケが受け継ぎ、ナルトとサスケの夢と、 さらにはセキヤの遺志を風と雷と鈴が受け継ぐ。 もちろん、その次には槐樹や蒼樹がいて、いつまでも先達たちの心は生き続けていく でしょう。
 「月」世界の今後としては、森の国の面々と雷や鈴の話をいくつか書く予定です。よ ろしければ、そちらも見てやってください。
 最後になりましたが、あらためまして、皆々様に感謝を捧げます。ありがとうござい ました!!
つう拝


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