終わらない夢 〜暗部編〜 by真也
ACT8
どさりと崩れた身体を無感動に見下ろした。
蒼白に近い顔。所々鬱血した手足。汚れ放題の下肢。
こいつは間者。俺を殺すか、よくて試しに来たもの。
閨に引き込み、人を殺す毒針使い。きっと自分は毒物耐性でもあるのだろう。
怒りも憎しみも全てを叩きつけて、胸の空くような気持ちがした。それと同時に、例えようのない後悔も。
ナルトに似ているのに傷つけてしまった。
ナルトじゃないから傷つけた。
どちらも隠しようのない、おれの本心だった。
部屋に残しておくわけにもいかず、担いで部屋を出た。思ったより軽い。あのときを思いだす。
あのやせ細った人を背負って歩いた日のことを。
軽いはずの身体が、一歩ごとに両肩に突き刺さった。
歩いているうちに担がれている奴の気が戻ってきた。目覚めたらしい。それでも構わず、集合場所まで担いで歩く。
動かない身体を床に降ろした。とにかく休みをもらわなければ、こいつは二日は使い物にならない。俺はシノとの交渉に臨んだ。
俺を殺そうとした奴。あれだけ責め苛んでも、許しも乞わず、泣き言一つ言わない。
屈伏すれば許してやろうと思っていた。利き腕を折り、部屋の外に放りだそうと。でも。
気を失う寸前まで、碧い瞳は俺を睨み付けていた。
痛めつけられても屈しない意志の強さ。俺を襲った時の身のこなし。悪くなかった。
閨で身体を使わなくても、訓練次第で充分戦闘できる。そう確信した。
何より、ナルトと同じ姿を他の奴の自由にさせたくなかった。
「触るな」
考えるより先に声が出た。クナイでなくてよかったと思う。
横たわるそいつに近寄ってきた男。確か一度見かけた。
その時、自分でも説明のつかない感情が駆け抜けた。焼けつくような、強い気持ち。
「触るな。それは、俺のものだ」
言って初めて自分で気付く。自分がそいつに執着していることに。
ナルトの姿をしているからか。俺に屈しなかったからか。それとも。
どちらにしても、そいつが誰かに触られることが、許せないと思ったのだ。
俺の後ろを奴は、ゆっくりとついてきている。
逃げないんだな。ぼんやりと思う。
それとも、その身体では逃げ切れないと諦めてしまったのだろうか。
否。
奴の目の焔はまだ消えていない。諦めてはいないのだ。
鈴といったな。
そいつの名前を思いだしながら、俺は部屋へと歩きつづけた。
「そこで休め」
寝台を指差し、俺は言った。鈴は黙って立ち続けている。敵意の視線。
「聞こえないのか」
重ねて言う。しばらくして、奴は寝台へと横たわった。上を睨み、唇を固く結んでいる。沈黙が流れた。
「しないのか」
天井を睨む目はそのまま、ぽつりとそいつが言葉を落とす。
「用があるなら早く済ませてくれ。もっとも、今使い物になれば、だけど」
皮肉げに言葉を継ぐ。すり傷のある口元がにやりと歪んだ。
「何のことだ?」
「ふざけんな!・・・くっ」
身体を起こそうとして苦痛に顔を歪める。夜具を握り締め、俺を真っ向から睨み付けた。
「はっきりしてくれよ!やるのか、殺すのか!おれは逃げたりしない!さっさとやれよ!」
見事な啖呵だった。後悔のかけらもない表情。なぜだか、自分の頬が緩むのがわかる。
俺は寝台に膝をつき、鈴に覆い被さった。影になった部分から燃える瞳が見上げている。薄く笑みながら俺は言った。
「俺はお前を殺さないし、今は何もしない。さっさと寝ろ」
「何だと」
「四日後にお前はおれと任務に出る。足手まといはいらない。それとも、お前は閨でしか使えないのか?」
「馬鹿にするな!」
「なら、早く寝るんだな。なんなら、昏倒させてやろうか」
「うるさい!」
鈴はそう怒鳴り、俺から顔を背けた。夜具を握り、固く目を閉じている。
強情だな。頑な姿に何故だか可笑しくなる。気持ちいいまでの潔さ。
「二日はここで寝ていろ。三日目には部屋に帰してやる。いいな」
返事はない。気にせず、俺は寝台を降りた。
鈴には聞こえているはずだ。自分を蹂躙した者の言葉を聞き逃すわけがない。俺と一緒では眠れないかもしれないが、自分の部屋に帰って他の奴を相手にするよりはマシだろう。
潰れるだろうか。漠然と思う。
否。潰れてもらっては困る。俺をここまで執着させたのだから。
その姿を。魂を。俺は放置することはできない。
どこまでいけるか確かめてやる。
俺が飽きるか、納得するまで。
嫌でも付き合ってもらう。
浅ましく強欲な自分を嘲笑いながら、俺は確かに満足していた。
ACT9へ続く
戻る